スルガ銀行 Dバンク支店

SURUGA d-labo. Bring your dream to reality. Draw my dream.

イベントレポート

イベントレポートTOP

2016年11月26日(土) 14:00~16:00

漆畑 成光、伊藤 香織 /  

すてきな"まちかど"をつくりませんか?
d-labo静岡×静岡市まちかどコレクション コラボレーションセミナー

静岡市まちかどコレクションとは、皆さんの身の周りにある素敵な“まちかど”の情報を募集し、広く知っていただくという取り組み。今回のセミナーでは、「静岡市まちかどコレクション2014」で“静岡市を代表するまちかど”として大賞を受賞した「エコロジー団地 池田の森」をご紹介いただく。そのほかにも、まちに対する誇りや愛着といった意味を持つ「シビックプライド」の考え方や、身近な“まちかど”を磨き上げる「景観まちづくり」のポイントについても解説があり、愛郷心をくすぐる回となった。このセミナーをきっかけに、あなたの身の周りから素敵な“まちかど”づくりを始めてみてはいかがだろう?

「エコロジー団地 池田の森」の取り組み

“まち”の中にある素敵な建物やお店、緑や看板。そんな魅力的な都市景観を「見つけて」、「集めて」、「広める」取り組みが静岡市都市景観表彰事業「静岡市まちかどコレクション」だ。
d-labo静岡と静岡市での共催で行なわれた今回のセミナーテーマは“魅力的なまちかど”。池田の森ランドスケープ代表取締役の漆畑氏と東京理科大学教授の伊藤氏を講師に招き、静岡市役所担当職員の挨拶でスタートした。

「“静岡まちかどコレクション”では、皆さまから推薦いただいた建物、緑、および看板の中から選定委員が特に優秀であると選定したものをコレクションとして登録しています。2016年度も、まだまだ募集していますので、このセミナーをきっかけにぜひ奮ってご応募ください。」

第1部は「静岡市まちかどコレクション2014」で静岡市を代表する“まちかど”として大賞を受賞した「エコロジー団地 池田の森」の取り組みについて。
2004年より入居が開始された「エコロジー団地 池田の森」は、300坪の農園、その周り35区画の戸建て住宅、ショップおよびオフィスから成る。

「団地の真ん中にある大きな畑を4m2ずつ区画し、『池田の森農園クラブ』として住民の方に貸し出しています。これがコミュニティにとって大切な役割を果たしているのです。」と漆畑氏は語る。畑作業を介することで、子供や生活のことなどの話題で緩やかに会話が進むという。また、食や自然環境に親しみ、コミュニティを育んで人間関係の豊かさを次世代につなげる役割も果たす。畑で作るものは自由だが、たいていの住民は季節野菜を栽培する。年に一度開催される、バーベキューパーティーではここから収穫される野菜が大活躍だ。また、農園クラブの1/3は田んぼとして区画されている。

「田んぼは、日本人が二千年にわたり見続けてきた心の原風景です。現代では貴重な生き物の住処でもあり、四季を感じられる素晴らしい場所です。」
団地の内外を繋ぐ緑道は、車が通らないため安心だ。クルドサックと呼ばれる円形の袋小路は通り抜けできないため公道でありつつも広場の要素が強い。

「団地の内側は、コミュニティを強く意識する場所です。つまり、住んでいる人たちのものなのです。」
全国で緑化計画を進めている地域はあるものの、“池田の森”とは異なり、道路が直線的で気持ちがゆったりする場所が備わっていないケースが大半なのだとか。

「団地内にはボンエルフ道路と呼ばれる安全で緑豊かなスペースを設けています。」と漆畑氏。
ボンエルフ道路とは蛇行させるなどして自動車の速度を抑え、歩行者との共存を図った道路のこと。団地では側道に街路樹を植え、夏は木陰、秋は紅葉と四季の散歩を楽しめるようになっている。雨が大地に染み込む緑道、雨水を貯蔵できる田んぼ、全戸に設置された雨水タンク、および風力・太陽光で明かりが灯る街路灯など、エコロジカルな仕組み「グリーンインフラ」も特長的だ。

「緑の景観が人々に与える影響として、高木が多いほど暮らしの満足が高まる、と言うものがあり、団地内でも欅(けやき)の大木が住人の癒しとなっています。しかし、同時に、伸びすぎた枝をどうするかや、台風時の備えなど、今後の管理マニュアルも必要となっています。」
そういった経緯もあり、「静岡市まちかどコレクション2014」で大賞に輝いた際の賞金の使い道は、樹木のガイドブックを作ることに決定した。

「樹木医を招き、樹木の将来につながる維持管理マニュアル作りを始めています。今の季節は、欅の落ち葉のじゅうたんが美しく、団地内にはショップやベーカリーもありますので、ぜひ散歩がてら訪れてみてください。」
暮らす人のことを第一に考えてつくられた団地。カフェでお茶を飲んだり、散策したりするだけでも楽しめるだろう。

身近な“まちかど”から地域に誇れる景観をつくる

東京理科大学教授 伊藤氏による第2部は“シビックプライド”について。

「誇れる景観とは何かを考える時、“シビックプライド”という概念が重要になります。都市に対する市民の誇りという意味で、ここをより良い場所にするため、自分自身が関わっているという自負心です。」

今回のテーマである“景観”とは、歴史や風土、文化や伝統、人々や暮らしおよび技術や制度が一体となって目に見えるもの、と定義される。この景観を維持、継承および改善する活動が“景観まちづくり”。身近な“まちかど”に自分たちの手で誇れる景観をつくっていこう、という活動は国内外のさまざまな地域で行なわれている。
そのひとつが、「岡崎百景」選定事業。岡崎市政100周年の節目に、次世代に伝えたい“岡崎の今を表わす景観”を市民の手で選定しよう、と実施された。

「ここで選ばれた景観には、住む人の愛着や思い入れが詰まっています。また、添えられた文章には“川”の文言が多く含まれ、川が岡崎市の暮らしに欠かせない、身近なものであることがよくわかります。」

また、東京練馬区では、「ねりまの風景展―ソラとまちがあるくらし―」が4か年にわたって開催された。これは、日々のまちの風景を集めた写真展とワークショップだ。

「人と“まち”がつながるためには、その“まち”を知らなければなりません。どんなに素晴らしい建築物も、知識がなければその良さがわかりづらい。専門的ではなくても、身近な建物を理解するための学びがあると見え方が変わるはずです。」
イギリスのロンドンでは、毎年9月の第3週末に「オープンハウス・ロンドン」というイベントが行なわれている。伊藤氏も訪れたというこの催し、普段は非公開の市内の新旧様々な700以上の建築物(オフィスビル、個人住宅および工事現場など)を無料で一般公開し、都市空間についての理解を深めてもらおう、というのが狙いだ。

また、国内最大級の建築公開イベントとしては、大阪で毎年11月上旬に開催される「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」、通称「イケフェス大阪」が有名。大阪には、大正・昭和初期に建てられたモダン洋風建築や高度経済成長期に建てられた建築物など、各時代を代表する魅力的な建物が集積し、さまざまに変化・発展しながら活用され続けている。それらの建物オーナーによる説明もあり、普段何気なく使われている大阪の“生きた建築”が見学できるとあって年々人気が上昇しており、2015年は3万人が参加した大型イベントとなっている。
オープンハウスは知ることから作ることにつながるという。空間を体験し、対話により知識を得て、自分にもできることがあることを知る。そして、それはより良く変えていく力となり、より良い景観に向けて支援活動を行なっていくというプロセスだ。

“まち”に関与し、自己表現する

まちでの生活や活動も、景観をつくることにつながる。
三島市の「街中がせせらぎ事業」は、中心市街地にある水辺や緑の自然空間や歴史・文化などのアメニティ資源を活用し、回遊ルートを整備している。

「官民一体となり、せせらぎに馴染んだ生活スタイルが“まち”の文化を創り出しています。」と伊藤氏は語る。

また、“まち”で自己表現する活動も、景観の一部だ。 「尾道には自分のやりたいことを街中で見えるようにやろう!という行動様式が“まち”の雰囲気をつくっています。」
新潟市の上古町商店街は、古い商店のリノベーションでオリジナリティ溢れる店舗が開いたことをきっかけに、魅力的な店舗が増えていった。また、地域商品の開発にも力を入れている。
高松市の仏生山町では「“まち”全体を旅館に」という動きがあるのだとか。

「道を旅館の廊下に見立てて、温泉があったり食堂としてのレストラン街があったり…。自分の暮らす“まち”を「住みたい場所」に変えようという、積極的な気持ちが感じられます。」
「まちなかに現れているこうしたいきいきとした活動も、まちの景観の一部なのです。」

興味深い内容にあっという間に過ぎ去った2時間。最後に、講師のお二人に今後の夢を伺った。

「元々は父が遺したゴルフ練習場跡地を開発するところから始まり、今は、沼津市で2年後をめどにこれより少し大きな規模の開発を進めています。このように、静岡市でも池田の森のような、歩いて楽しいまちづくりができたら嬉しいです。」と漆畑氏。
毎年、初めての都市を20か所訪問するのが目標、という伊藤氏は、「都市についてワクワクするような面白い研究をしたいです。東京生まれ、東京育ちで、東京に愛着を持っているのですが、大都市だけに関わりが実感しづらい面もあり、少し片思いのように感じています。より魅力的な“まち”になるよう自分が関わることができれば幸せです。」

そして共催である静岡市役所職員の言葉でセミナーの幕が閉じられた。
「このセミナーをきっかけに静岡市の見方が深まったのではないでしょうか。いいな、と感じる場所を見つけることができたらぜひ“まちかどコレクション”に応募してみて下さい。私が思うように、みなさんも自身が携わることで“まち”を良くする、そんな意識で静岡市をより良い街にしていきましょう。」

文・土屋 茉莉

講師紹介

漆畑 成光、伊藤 香織
漆畑 成光、伊藤 香織
 
「エコロジー団地 池田の森 取り組み紹介」
漆畑 成光 (うるしばた のりひこ)
静岡市出身。有限会社池の森ランドスケープ代表取締役。NPO法人 自然環境復元協会環境再生医。
東京で会社員として勤務後、静岡市へUターン。両親が経営していたゴルフ練習場跡地に、「エコロジー団地 池田の森」を計画。静岡市まちかどコレクション2014大賞受賞。住まいのまちなみコンクール国土交通大臣賞受賞。

「身近な“まちかど”から地域に誇れる景観をつくる」
伊藤 香織 (いとう かおり)
東京都出身。東京大学大学院修了、博士(工学)。
東京大学空間情報科学研究センター助手、東京理科大学講師、同准教授を経て、現在、同教授として活躍。2002年より東京ピクニッククラブを共同主宰し、国内外の都市で公共空間の創造的利用促進プロジェクトを実施。
シビックプライド研究会代表。主著に『シビックプライド』『まち建築』など。