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2016年11月27日(日) 13:30~15:00

八木 元彦(やぎ もとひこ) / 歯学博士 / 日本大学歯学部兼任講師

予防が何より大切です~日本人の成人の80%以上は歯周病!?~

"幸せな老後を送りたい"。誰しもが願うことだが、それは簡単なようで実は意外に難しい。幸せを実現するには、健康であることが重要だからだ。今回は、静岡市内に2人しかいない歯周病専門医・八木元彦先生をお招きし、「予防が何より大切です ~日本人の成人の80%以上は歯周病!?~」と題し、歯の健康についてのお話をうかがった。今や現代病と言われている歯周病は、歯だけではなく、身体全体の健康にも影響を及ぼす。八木先生は歯周病の話から、歯の中の細菌の映像、大学の医局での裏話などまでを含む内容で、参加者の関心を引いていた。

日本の医局を出て、アメリカで研究。歯周病専門医へ

八木先生は、誕生から高校までを静岡で過ごしたあと、ご祖父・ご両親の母校である日本大学歯学部へ進学、そのまま大学院へと進む。そのうちの2年間は、最先端の歯周病学が学べるアメリカ・ボストン大学へ留学した。「留学までした人は、多くはそのまま大学に残り、教授を目指します。」しかし、八木先生は、母校の日本大学歯学部で兼任講師として働きながら、地元の静岡で医療の最前線に立ち続けている。
「大学の医局というのは、どういう部分で評価されるか、ご存知ですか?治療が上手、腕がいいというので評価されるのではないのです。テレビドラマなどでご存知かもしれませんが、大学というのは論文で評価されるのです。」
八木先生は歯科分野で最も難しいとされる雑誌に論文が掲載されるなど、大学院卒業時に優秀な成績を残していたが、大学には残らずさらにスキルアップを目指し「インプラント治療(=人工歯根。抜けてしまった歯の部分にネジを埋め込み、それを土台に人口の歯を装着する治療法。)」を学びにニューヨーク大学へ再び留学。しかし、そこでインプラントの現実を知る。
「インプラント治療をした人が『歯茎が腫れて痛い』、『噛めない』、『しびれがある』と、治療が終わっても再来院されるのです。そんな患者さんを見ていて、次第に疑問が湧き始めました。」インプラントはたしかにいい治療法だけれど、完璧な治療ではなく、非常にリスクが高いということを八木先生は実感したという。
「インプラントを埋めずに自分の歯を少しでも残せるよう、再生療法を極め、歯周病専門医としてやっていこう。そう決意しました。」
帰国後、祖父が開業した歯科医院で歯周病治療の専門医となった。

健康なことが幸せの必須条件。歯は身体の健康にも影響する

「40代、50代がつらくても、人生の終わりの5年、10年が幸せであれば、おそらくその人生は幸せと感じるのではないかと思います。」
八木先生が考える「幸せなシニアライフ」とは、(1)生活できる十分なお金があること、(2)毎日没頭できる趣味があること、(3)おいしい食べ物を食べられること、(4)かわいい孫と一緒にいられること、(5)行きたい場所へ旅行にいけること。
でも、これらすべては「健康」が必須条件。健康でないと、趣味のゴルフもできないし、おいしいものも食べられない。健康でないと脳は幸せを感じず、かわいい孫と過ごす時間も楽しめなくなる。
健康とは何か。日本人の健康寿命(=日常生活が制限されることなく生活できる期間のこと。つまり、自分のことは自分でできて、介護状態ではない期間。)は、男性70.42歳・女性73.62歳と言われる。平均寿命は、男性79.55歳・女性86.30歳。つまり、寿命と健康寿命の差である男性9.13年間・女性12.68年間は、介護が必要になる期間なのだ。

介護が必要になる主な原因は、脳卒中、認知症、老衰、関節疾患、そして骨折・転倒。これらの予防が、健康寿命を延ばすうえで必要であると考えられる。
現代では、認知症が20年で6倍に増加している。(2013年における調査データ。)東京オリンピックの5年後である2025年には、高齢者の3人に1人が認知症になると言われており、社会問題になっている。この問題は、実は歯科学会をも騒がせている。インプラントの歯は、ケアも非常に難しい。認知症患者の場合、歯の十分なケアができず状態を悪化させてしまう可能性が高くなるのだ。

歯と認知症の関係を調べた、こんな調査結果がある。歯が19本以下の場合、認知症の発症リスクが最大1.9倍、転倒リスクが2.5倍というデータだ。歯は、食べ物を噛み砕くだけでなく、体のバランスをとる上でも非常に重要な役割を果たしている。健康寿命を延ばすためには、歯周病を予防し、歯を残すことが重要ということが分かる。歯は、幸せな未来を形成するうえで大切な役割を果たしているのである。

自分の歯周病の程度を知っておくことが重要

歯は、15~44歳までは、28~29本程度ある。45歳以上から次第に減り、75歳以上では、平均13.32本と半数以下になる。50歳以上の歯の喪失原因は、53%が歯周病、ついで28%がむし歯である。これは、2005年のデータなので、むし歯の治療技術が発達した近年では、むし歯の割合が減り、歯周病の割合が増えてきているという。

小学生・中学生の約半数が歯周病にかかっていると言われている。20歳周辺で70%、35歳周辺で82.5%、45歳周辺で87.4%とピークを迎える。それ以降の年代は、自前の歯がなくなり始めるので割合自体は減少する。それほど日本人は、歯周病罹患率は高いのだ。

ここで重度の歯周病患者の口腔写真が映し出される。歯茎がやせ細り、そこから生えている歯は、歯根がむき出しの状態。強く引っ張りでもしたら、今にも抜けそうだ。「実は、この患者さんは、定期的に3か月ごとに歯科医院へ通院していたが、歯周病がこんなにも進行してしまったのです。」
歯周病を進行させないために大事なのは、自分の歯周病が軽度なのか、中程度なのか、重度なのかを知っておくことだそうだ。軽度の歯周病は、近くのかかりつけの歯科医院で治療が可能。「しかし、重度の歯周病は高度な治療が必要となるため、厚生労働省に認可されている歯周病専門医に受診することをおすすめします。」

歯周病菌の一種・スピロヘータが口腔内で活動している様子の映像を見せてくれた。螺旋状のスピロヘータがうごめく様子は、身の毛がよだつ。トリコモナス原虫という虫が口腔内にいる人もいるそうだ。こんな菌や虫が口の中にいると聞くと、すぐに歯磨きをしたくなるような衝動にかられる。白血球よりもはるかに小さいこれらの細菌は、血管の中にも出入りが可能なのだとか。血管の外壁を傷つけ、心筋梗塞や脳梗塞の要因を作ることもあるという。

歯科医院で歯のクリーニングを行なうと、細菌はほとんどいなくなる。しかし、この状態を維持することはなかなか難しい。定期的なクリーニングのほか、毎日の歯磨きにも気を配りたい。
歯ブラシは、歯に対して、斜め45度に当てるとよい。毛先が、歯と歯の間に入るように磨く。歯ブラシでは、歯の間の隙間の汚れを落とすのに限界があるため、フロスや歯間ブラシも併用しよう。1週間に一度ではなく、フロスや歯間ブラシは、必ず毎日行なう。歯磨き粉を使うときは、歯ブラシを水に浸けてから歯磨き粉をつける。水がないと、歯磨き粉は泡立たないからだ。なお、歯ブラシでは歯周ポケットの奥の歯垢(細菌)までを取り除くことはできない。定期的な歯科医院でのクリーニングは必須となるそうだ。

最後に、歯周病と糖尿病の関係についての解説があった。
歯周病が起こると歯茎が炎症を起こし、その炎症が続くと、血糖をコントロールするインスリンの働きが阻害される。インスリンの働きが悪くなると、高血糖の状態になりやすくなり、糖尿病になるのだという。歯周病の人は、糖尿病になりやすい傾向があるそうだ。
また、糖尿病の人は口腔内が乾燥する傾向がある。唾液は、食べかすや菌を洗い流す働きがあるので、糖尿病の人は歯周病になりやすい。実際に、糖尿病患者の歯周病発症率は、正常な人と比べて約2.6倍というデータも出ている。
ある雑誌にこんなアンケート結果が載っていた。高齢者1,000人に人生の振り返りに関するアンケートを実施した際、「歯の定期検診を受ければよかった」というのが、なんと1位だったというものだ。2位、3位も健康に関する内容だった。それほど、歯や身体の健康は人生において重要なのだ。

最後に先生の夢についてうかがった。
「僕は、さまざまな苦労を経て歯周病専門医になりました。アメリカではインプラント治療で困っている患者さんをたくさん見てきました。静岡ではそんなつらい思いをする患者さんがいないよう、少しでもみなさんの歯を残すため、地域医療に貢献していきたいと思っています。」
歯科医院の歯周病の検査では、レントゲン撮影にあわせ、歯周ポケットの深さを測ることができる。深さは歯周病の進行度の目安となる。静岡市内の多くの歯科医院では歯周病検査が可能なので、定期的に検診を受けることが重要だ。むし歯の定期検診の際、歯周病検査もあわせて行なうと良いだろう。受け身ではなく、正しい知識を持って歯科医に自分から話を聞くなど、積極的に行動することが歯の健康を守る秘訣なのだ。 文・河田 良子

講師紹介

八木 元彦(やぎ もとひこ)
八木 元彦(やぎ もとひこ)
歯学博士 / 日本大学歯学部兼任講師
2005年 日本大学歯学部卒業 歯科医師
2007年~2008年 ボストン大学歯学部 歯周病科留学(客員研究員)
2009年 日本大学歯学部大学院卒業 歯学博士
2009年 ニューヨーク大学歯学部 留学
2013年 日本大学歯学部 兼任講師
2015年 専門学校中央医療健康大学校(東静岡) 歯科衛生士学科 歯周病学 講師