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イベントレポート

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2016年11月27日(日)13:30~15:30

野田 三千代(のだ みちよ) / 海藻おしば協会会長・海藻おしば作家

海の森からの贈り物「海藻おしば」
~海の森のお話と海藻アートのワークショップ~

「海の中にも森があるのを知っていますか?海からの警告が聴こえますか?」
海中の映像を見ながら海の森の働き等を学び、海の環境について考えるセミナー。海辺に打ち寄せられた海藻を使ってポストカードの制作にも挑戦した。普段食卓で出会う身近な存在の海藻たちが、実はとても美しい海の植物だということを体感。湘南の海に思いをはせ、海の魅力を再発見する時間となった。

種類は?形は?大きさは?知られざる海藻の世界に迫る

伊豆・下田にある筑波大学の施設で30年にわたって海の生物の研究に携わっていた野田氏。海藻の標本をつくるなかで、その美しさと、地球環境における役割の重要さに胸打たれ、「食べるだけでない、海藻の魅力をもっと多くの人に知ってほしい」と、海藻を押し花のようにして楽しむ「海藻おしば(海藻は花を咲かせないので“おしばな”ではなく“おしば”)」を考え出した。この日、会場内には数々のおしば作品が展示されていたが、驚くほどカラフルで、繊細で、多様性に満ちあふれていた。

野田氏は小さな子どもの参加者に話しかける。「お寿司好き?何が好きかな?」「まぐろ」。他の参加者にも尋ねる。「ウニ」「エビ」「ヒラメ」「コハダ」「サーモン」…次々と寿司ネタの名前が上がった。

「それらの魚たちが住んでいるのが、海の中の森、海藻の森なんです。私たちは、魚の名前はたくさん知っているけれど、海藻の名前となると、ワカメ、ヒジキ、コンブくらい。食品としてしか考えていないんですね。でも、陸の上に植物があるのと同じで、海藻は海の中の植物なんだ、と考えてみてほしいんです」

私たちは、あまりに海藻のことを知らない。その理由のひとつは、海藻の成長のサイクルが陸上植物とは反対だから、と野田氏は言う。海藻は秋に芽生え、大好きな冷たい海の中でぐんぐん成長し、春に成熟して胞子を放つ。つまり人間が海水浴などで海を訪れる夏は、一年でいちばん海藻がない時期なのだ。

「では、海藻はどんな形をしているのか。ワカメの全身を見たことがありますか?」と、野田氏が取り出して見せたのは、下田の天然ワカメの標本。人間の一生にたとえると小学生クラスのかわいらしいもの、少し育った高校生くらいのもの、そして、次世代となる胞子がびっしり入ったメカブを根元につけた大人のワカメ。さらには、三陸産の大きな肉厚ワカメ。根元に小さな若い芽があり、成長するにつれて大きく上に伸びている様子がよくわかる。

寿命が2~3年という巨大な真コンブ、お刺身に添えられているトサカノリ、高級品キヌモズク。ヌルヌルが免疫力アップに効果があると話題のギバサなど、次々と登場する身近な海藻の標本に、参加者は興味をそそられていた。

「海藻は、日本全国でも1,500種類、世界中では1万種類あります。これらが、光が届く海の中で、森を作っているのです」

陸の森を守るように、海の森も大切にしてほしい

次に野田氏は、スライドを使って、海藻の役割を紹介する。下田の水深3mで撮影されたアカモクのジャングルも、水深5mにあるコンブの仲間のカジメの林も、光にきらきらと輝き、生命力にあふれていて、感動的な光景だ。

「海藻は、海水を浄化する役割ももっています。海藻は、表も裏も、全身を使って光合成しますから、海の中に海藻が生えるということは、海底の面積を40倍にする。つまり陸の上で言えば20階建ての建物が建つのと同じくらい、生物の住処や産卵の場を増やすことになるとされています」

ゆらゆらと揺れる海藻の表面に、海の汚れが付く。それをバクテリアが食べる。そのバクテリアは小さなエビやカニの食べ物となり、そしてエビやカニは、魚のエサとなる。多様な生物を育てながら海水を浄化しているので、海藻の存在がいかに大切か、よくわかる。

「海が汚れて、水が濁りすぎてしまうと、光が届かなくなります。そうすると、海藻は枯れ、海の森は消えて、ヘドロ化してしまう。温暖化により水温は10年間で1.5度も上昇しています」

「まったく、皆さん海藻の身にもなってください」と冗談めかして語りかける野田氏だったが、その気持ちは、しっかりと参加者に伝わっていた。

海藻について学んだところで、いよいよ「海藻おしば」でポストカード作りにチャレンジすることに。野田氏が過去のセミナーなどで作られたサンプルを見せると、会場からは「きれい!」「すごい!」と声が上がった。

「海藻おしばで使う海藻は、春先に浜辺に打ち上がったものを拾い集めたものです。洗って、塩抜きをして、冷凍保存しておくんです。今日持ってきたものも、春に下田で拾ったものです」

各テーブルに置かれた、水をはったバットには、それぞれ9種類の海藻が入っている。これを、水で軽く濡らしたハガキの上に広げるようにして置いていくわけだ。ヒラアオノリ、アナアオサ、アカモク、カギイバラノリ、フシツナギ、マクサ、ヒラクサ、ユカリ、トカサノリを、好きなサイズにちぎって使う。緑、赤といった海藻らしい色だが、それぞれ微妙にニュアンスが違うので、白い紙の上に載せた時のグラデーションが美しい。

海藻をつまんで、水の中で広げてみると、いろんな形をしているのがわかる。ただ広げただけでも十分美しいが、ストローでくり抜いたり、ステンドグラスのように色を重ねたり、ハサミで形を切り抜いたりすれば、いろいろなデザインがつくり出せる。クリスマスリース柄を作る人、魚が泳ぐ海の中の景色を再現する人、海藻を花束のようにアレンジする人、お孫さんのためにとスマホで画像を見ながら恐竜の形を描いた人…。個性豊かな海藻アートが次々と生み出された。細かいところは爪楊枝を使って丁寧に仕上げる。野田氏が思わず「静かですね」と苦笑するほど、参加者は集中してモクモクと作業に没頭していた。

海藻がアートに!参加者の驚く顔が嬉しい

出来上がった作品は、水切りをしてそっと布をかぶせ、吸取紙をはさんで台紙で固定しておく。1日に2回ほど吸取紙を取り替えながら、2~3日経って乾けば完成。ラミネート加工すれば長持ちする。今回は、参加者の作品を野田氏が預かり、水切りからラミネートまで代行して完成させ、郵便で届けていただくことになっている。

「乾くと透明感が出て、とてもきれいになりますよ。ご自宅に届くのを楽しみにしていてください」

参加者たちは、テーブルにずらりと出来上がった海藻おしば作品を見ながら、「これかわいい!」「きれいな色」「すごいね!」などと互いに感想を言い合っていた。

d-labo静岡、d-laboミッドタウンでも開催され、好評を博したこのセミナー。今回は湘南での開催とあって、「目の前に海がある湘南に暮らす人たちにこそ、もっともっと海を知ってほしいと思う」と野田氏は言葉に力を込める。「海藻を拾うのはいつ頃がいいですか?」という参加者からの質問に、「海岸を歩くにはまだ少し肌寒いかもしれないけれど、ソメイヨシノの花が咲く頃が一番“押し頃”(笑)。ぜひまた海藻おしばをつくってみてください」と笑顔で答える。

夢を伺うと「海の森のことを世界中の人に伝えたい」とのこと。地味に思われがちな海藻が、美しいアートになる。その落差に人が驚き、感激する様子が嬉しくもあり、励みでもあるという。「海藻おしば」を入口に、海のことをもっと知ってほしいと願う野田氏であった。

講師紹介

野田 三千代(のだ みちよ)
野田 三千代(のだ みちよ)
海藻おしば協会会長・海藻おしば作家
(現)静岡県工業技術研究所デザイン室を経て、筑波大学下田臨海実験センターで海藻の生理生態学の研究補助のかたわら、従来の海藻標本を改良して「海藻おしば」を創出。全国各地で海藻おしば展と海藻おしば講座を開催。海藻の美しさを通して海の環境啓発活動を長年続けている。
環境大臣特別賞、日本自然保護協会沼田眞賞を受賞。著書多数。サイエンスコミニュケーションの研究家として専門家からも評価が高く、指導者育成にも力を入れている。