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イベントレポート

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2016年12月8日(木)19:00~21:00

喜多 敏明(きた としあき) / 辻仲病院柏の葉 漢方未病治療センター長、東京健康クリニック 顧問(生涯健康倶楽部担当医)

自然治癒力を活かす患者主体医療のすすめ

今の日本の医療の現状を見ると、人間の体を細かく分け、病気の部分だけに着目して悪いものを取り除く"西洋医学的な治療アプローチ"が限界に来ていると言える。一方で、病人全体を診て治療する"東洋医学的アプローチ"が近年見直されはじめている。東洋医学だけでなく、ボディ、マインド、スピリットをトータルに捉えて自然治癒力(しぜんちりょりょく)を活性化するホリスティック(全体的)な治療アプローチが、今後の日本には必要とされるであろう。本セミナーでは、健康意識の高い日本国民が、本当に求めている患者主体の医療のあり方について考えながら、ホリスティック・アプローチについてわかりやすくお話しいただいた。

自然治癒力を活性化させる「ホリスティック医療」

超高齢社会を迎えた日本。そこでこれまで以上に注目されているのが人々の健康だ。漢方医として30年のキャリアを持つ喜多敏明氏によれば「大切なのは病気にならないこと」だという。そして病気になったときは「できる限り人間の持つ自然治癒力を活用する」こと。そこでこのセミナーでは喜多氏が専門とする東洋医学や自然治癒力とも関わりの深い「ホリスティック医療」について学んでみた。ホリスティック医療とは、簡単に言うと「自然治癒力を活かす患者主体の医療」のこと。そこには西洋医学だけではカバーしきれない東洋医学的な考え方が込められている。

「私たちの細胞にはひとつひとつにパワーがあって、それが自然治癒力につながっている。ホリスティック医療はその自然治癒力を活性化させるものです」

ここで参考にあげたのは腫瘍(しゅよう)内科学領域の研究者として名高いケリー・ターナー博士のベストセラーである『がんが自然に治る生き方』。世界10カ国で手術や放射線治療だけに頼らずに「劇的な寛解(かんかい)」に至った人々にインタビューしたこの本の中には、ホリスティック医療のエッセンスが詰まっている。「抜本的に食事を変える」、「治療法は自分で決める」、「『どうしても生きたい理由』を持つ」といった目次の項目を読むだけでもそこに書かれていることはイメージできる。

ホリスティック医療の理念は、
①ホリスティック(全的)な健康観に立脚する
②自然治癒力を癒しの原点におく
③患者が自ら癒し、治療者は援助する
④様々な医療を選択・統合し、最も適切な治療を行なう
⑤病の深い意味に気づき、自己実現をめざすの5つ。

①はまさしく東洋医学的な「心身一如」の考え方。人間の心と体は本来ひとつのものだが、現代医学では病気があるとそれを「精神症状」と「身体症状」に分けてしまう。だが脳科学的に見ると症状というものは精神症状であろうと身体症状であろうと脳の中に電気信号の変化が起こり、それが症状となって表われる、という点では変わりはない。
「例えば、喉がつかえて抑鬱(よくうつ)的な気分がするので耳鼻科に行ったけれど気のせいと言われた。それでも治らないので漢方医を尋ねて漢方薬を処方してもらったら治った。こういうケースはよく聞きます」
具合が悪い原因は実はストレス。人間の脳は何らかの心理社会的因子によってストレスがかかると自律神経や内分泌、免疫系など生体恒常性(せいたいこうじょうせい)を維持するシステムに障害が生じてそれが身体症状になって表われることがある。これは患部だけではなく、生活や環境をも含めたその人全体を見ないとわからないことだ。
「漢方ではこういうものを気鬱(きうつ)と呼びます」
その気鬱にも傷ついた自分に目を向ける「憂慮(ゆうりょ)過多タイプ」と、傷つけた相手に怒りを感じる「緊張過多タイプ」の2つがあるという。こういう場合は、それぞれにあった漢方薬を処方することで症状が改善できる。

癒すのは自分、「健康意識」をどれだけ持つか

②の自然治癒力は「環境が大事」。この場合の「環境」とは、細胞が正常に自然治癒力を発揮するための体内環境を指す。漢方医学では、それを司るのが「気血水」。「気」はエネルギーであり、代謝や情報の流れを活性化させる働きを持つもの。「血」と「水」はアミノ酸やミネラルなどの栄養素を身体中に運んでくれると同時に、毒となるものは肝臓や腎臓に運んで解毒、浄化、排泄する。
「人間の細胞には生命力があって抵抗力や免疫力を持っている。ただそこに雲がかかっていると自然治癒力が働いてくれません。漢方は薬によってその雲を取り去って気血水が正常に働く手助けをするだけ。病気を治すのは患者さん自身の自然治癒力なんです」

③は、①と②を踏まえたうえでの「考え方」。病気は患者自身が癒すものであり、治療者はそれを援助するのが仕事。主体となるのはあくまでも患者である自分。これは自由でもあるが責任を持つということでもある。取り組みたいのは治療の前の「養生」。江戸時代の健康指南書として知られている『養生訓』の著者である貝原益軒(かいばらえきけん)は84歳という当時にしては長寿であったが、実は胃腸が弱かった。益軒はそういう自分の体質を理解していたから養生を心がけ、風邪をひいたときなども胃腸に優しい漢方薬を選んで飲んでいた。要は「健康意識をどれだけ持つか」だ。
「普段の生活でも何にお金を使うかが大切です。世の中で売られているものには健康に悪いものもたくさんある。それはそういうものにお金を払う人がいるからです。使うなら健康にいいものにお金を使う。日本人はもっと意識を変える必要がありますね」

ホリスティック医療でいちばん大切なこと

④は「西洋医学の利点を生かしながら、東洋医学や伝統医学、その他の代替治療を使っていこうというもの」。どれをどう組み合わせるかは自由だが、自分にあったものを見つけるには専門家によるコーディネートが欲しいところ。今後、ホリスティック医療が広がっていけば、それを担当するコーディネータ―の需要も高まるだろうと予想されている。

⑤は「ホリスティック医療の中でいちばん重要なもの」だ。たとえ病気になっても充実した人生を送れるかどうか。
「それが自然治癒力を活性化させる秘訣です」

著名なコンサルタントであり、ベストセラー『僕はがんを治した』の著者である福島正伸氏は、自分ががんと告げられたとき「ありがとうございます」と笑って答えたという。さまざまな治療や食事療法、運動、生活習慣の改善などでがんを治した福島氏だが、最高の治療薬となったのは「命に感謝する生き方」だったという。

「大病は、人にそれまでの生き方を問い直す機会をつくり、その後の人生を意味のあるものに変える力がある。福島先生のこの言葉は、現代人の心の問題に取り組んだ心理学者のフランクルの考え方にも似ています。人間は自分のためだけではなく、誰のために何ができるかを自覚した、より本来的な生き方をすることで自分の内側にある〈いのち〉が生き働くのを感じることができる。これこそがホリスティック医療でもっとも大切なものではないかと思います」
医師としての夢は「みんなが健康と幸せを応援しあえる世の中をつくること」と語る喜多氏。
「私自身のまわりではすでにそれは実現しています。すべての人が仕事や生活を通じてお互いの健康と幸せを応援しあえる世の中がくればいいですね」

講師紹介

喜多 敏明(きた としあき)
喜多 敏明(きた としあき)
辻仲病院柏の葉 漢方未病治療センター長、東京健康クリニック 顧問(生涯健康倶楽部担当医)
漢方専門医、日本東洋医学会理事、日本未病システム学会理事。
ホリスティックな漢方治療アプローチで、これまでに延べ10万人以上の患者を治療してきた漢方一筋30年の現役医師。現在はできるだけ漢方薬に頼らず、多種多様なホリスティック医療サービスをコーディネートし、個々のクライアントに最適のサポートを提供している。