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イベントレポート

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2017年2月24日(金) 17:30~18:20

漆畑 孝亮、深澤 太一 /  

dコンサートで'プレミアム'な金曜日に。
月末の金曜日は早めに仕事を終えて豊かに幸せに過ごす

経済産業省や経団連らの推進により、本年の2月24日から導入されたプレミアムフライデー。
買い物や家族との外食、観光など、個人が幸せや楽しさを感じられる体験を促進すること、また、そういった時間を創出することが目的とされている。そこで、この『プレミアムフライデー』に合わせ、d-labo静岡ではフライデーナイトを心豊かに楽しんでいただこう!とオーボエ奏者の漆畑孝亮氏とギター奏者の深澤太一氏によるコンサートを開催した。
スタート時間は17:30。いつもなら、残った仕事を片付けている時間だという参加者も多かったかもしれない。しかし、当日は初のプレミアムフライデー。会場は、新進気鋭の二人が奏でる楽器の優しい響き、そしてクラシックの名曲や映画音楽の美しい旋律に酔いしれていた。

月末最後の金曜日を心豊かに過ごしてみよう

初プレミアムフライデーの2/24、d-labo静岡にて『プロと楽しむお街ゼミナール』の一環として、オーボエとクラシックギターの二重奏によるdコンサートが開催された。『お街ゼミナール』とは、呉服町名店街各店が専門店の知識や技術を活かし、暮らしを楽しむための情報やアイディアを伝えるミニ講座。

今回は、オーボエ奏者の漆畑孝亮氏とクラシックギター奏者の深澤太一氏を講師に迎え、金曜日の夕刻が素晴らしい音色で包まれた。

オープニングは、スタジオジブリの代表作『千と千尋の神隠し』の劇中音楽より、久石譲作曲《あの夏へ》、そして木村弓作曲の《いつも何度でも》。2001年の公開以来、現在もなお国内歴代興行収入第1位を誇る名作だ。

「映画制作のきっかけは、宮崎駿監督が10歳になる友人の娘さんを喜ばせようとした、というささやかなものだったそうです。」と漆畑氏。

物語は、10歳の少女・千尋がふと森の中のトンネルに立ち入り、神々の世界へ迷い込んでしまうところから始まる。魔女の湯婆婆が経営する銭湯で働きながら、姿を変えられてしまった両親を助け元の世界へ戻るために奮闘するというストーリーだ。

オーボエとクラシックギターの音色が、幽玄な楽曲の世界観にピッタリで、スタート早々に参加者全員が惹き込まれた。

続いては、キューバのレオ・ブローウェル作曲の《11月のある日》。こちらも映画音楽で、1950年代のキューバ革命(チェゲバラ、カストロたちがアメリカ寄りのバティスタ政権を倒した革命)をテーマにした同名の劇中で使われた。

映画の主人公は、キューバ革命に熱中する青年。ある日、脳動脈瘤が見つかったことで自分の死を悟り、これまでの人生を回想する。この曲は青年が、公園でタバコを吸おうとする美しい女性に出会い、「火を貸すよ」と声をかけるシーンで流れる。

曲の始めの物悲しいメロディに続き、中間部には“カリブ海の真珠”とも評されるキューバの美しい景色と青い空を思わせる清々しいメロディが登場する。

「この映画が完成したのは1972年で、すでにキューバ革命から20年ほど経っていたものの、ラテンアメリカ諸国の平和革命(武力を極力使わない革命)がうまくいかず社会情勢が不安定でした。そのため、実際の公開は1978年と、完成から6年の歳月が必要でした。」と漆畑氏。

オーボエとクラシックギター、それぞれの特徴

続いてクラシックギターのソロ演奏。曲はフランシスコ・タレガ作曲の《アラビア風奇想曲》。作曲家、そしてギタリストでもあるタレガは、『ギターの父』『近代ギター奏法の父』と呼ばれ、ロマンティックなメロディが特徴だ。この《アラビア風奇想曲》は彼の代表作であり、スペイン南部アンダルシア地方のひまわり畑を彷彿させる曲調である。

さて、クラシックギターにはどのような特徴があるのだろう?
「エレキギターもクラシックギターも、弦の数は6本。エレキギターの弦はニッケルやステンレス製等の弦ですが、クラシックギターは1~3弦にナイロンの弦を使います。そのため丸く滑らかな音を奏でることができ、ちょっとつま弾いても全く違う音になるのです。」と深澤氏。

確かに、少し弾いてもらっただけでも音色の違いは明らかだ。弦を弾く際はピックを使わず自爪を使う方が多いとのこと。そのため、深澤氏も繊細に爪をケアしている。

「奏者によってさまざまですが、私の場合は紙やすりで整えていて、特に右手小指の爪を長くしています。」

クラシックギターに続き、オーボエについて。

漆畑氏の「今日初めてオーボエを見たという方はどのくらいいらっしゃいますか?」との質問に、ちらほら参加者の手が上がる。

オーボエは木管楽器の一種であり、祖先にチャルメラを持つ。2枚リード(=ダブルリード)で発音する円錐管の楽器である。

「見た目が似た楽器にクラリネットがあります。同じく木管楽器ですが、こちらは1枚のリードで発音します。奏法はかなり違うんですよね。」

また、湿気などですぐに音が変わってしまう繊細な楽器でもある。

「オーケストラのチューニングでオーボエだけ長く音を出している場合があるのですがちょっとしたことで音が変化してしまうのです。」と漆畑氏。

次の曲は、アルゼンチンの作曲家アストラ・ピアソラの《昔むかし~アヴェ・マリア~》。ピアソラは、タンゴの伴奏音楽を芸術作品まで高めたことで知られているが、こちらは『エンリコ4世』という映画で、オーボエとピアノのために書かれたもの。

演奏後、熱演のためやや息が上がった様子の漆畑氏。

「オーボエは、比較的ゆったりとしたメロディを任されることが多いのですが、あまりにゆったりするとそれはそれでやっぱり苦しくて。なかなか難しい楽器なんですよ。」

息が入るリードの部分は横幅7ミリ、高さ1ミリほどのため、使う息の量は少ない。ところが、脳は“新しい酸素をよこせ”と指令を出すので、息が苦しくなるとのこと。

「そういうわけで、演奏に使わない余った息を吐いてからまた新しく息を吸っています。」

アンコールに沸く会場

次に続くのは、再びクラシックギターのソロ、アレクサンドル・タンスマン作曲の《カヴァティーナ組曲》。

タンスマンはポーランド出身のユダヤ人。20世紀のフランス・パリを中心に活躍した作曲家だが、同時代の作曲家の作品と比較すると、とても保守的な古めかしいスタイルの作品となっている。

「タンスマンは、ピアノを演奏しましたが、先ほどのタレガと異なりギターを弾きませんでした。ギタリストの都合を考えることなく曲を作ったので、難曲が多いのです。しかし、昔の技法のみで作曲されているわけではありません。所々にうかがえる、洗練された新しいハーモニーをぜひお楽しみください。」と深澤氏。

難しい曲であるはずなのだが、深澤氏の素晴らしい演奏でさらりと楽しく聴くことができた。

ラストは再びピアソラの《タンゴの歴史より Cafe 1930》。タンゴは、南米のアルゼンチンとウルグアイの間のラプラタ川の辺りで発祥したダンスのひとつである。

「経済が発達した19世紀、仕事を求めてたくさんの人が、アルゼンチンの首都であるブエノスアイレス周辺地域に移民としてやってきたそうです。しかし、仕事に就けない多くの人はスラムをさまようことになった。やがて、その中のアフリカ・南米系の人々がヨーロッパのポルカやワルツなどを独自の楽器で演奏したり、踊ったりするようになりました。これがタンゴの発祥です。」と漆畑氏。

当初、上流階級からは下品な踊りと揶揄されたタンゴだったが、パリでの流行を機に次第に全世界に広まっていった。

「タンゴというと、男女が体を寄せ合って踊る情熱的な踊りを想像されると思うのですが、当時は男の移民ばかり。男同士で踊っていたそうです。暑苦しいですね。」と漆畑氏。

このタンゴに、ことさら愛着を持っていたピアソラ。彼は、酒場の踊りの伴奏でしかなかったタンゴを芸術の域にまで高めていったのだった。

短い曲だが、二人の息の合ったハーモニーに演奏後も拍手が鳴りやまない。アンコールとして、カーペンターズの《トップオブザワールド》が演奏されると、参加者は再び喜びに沸いた。

そして最後に、二人のこれからの夢について伺った。

漆畑氏「この前は軽井沢と東京に家を持ちたいと答えてみなさんに苦笑いされてしまったので、今回は……音楽に没頭できるようになりたいです。」

深澤氏「静岡ではまだまだクラシックギターの認知度が低いように感じます。もっと楽しさや素晴らしさを伝えていければと思います。」

熱気が冷めやらぬまま、初プレミアムフライデーの素敵なコンサートは幕を閉じた。 文・土屋 茉莉

講師紹介

漆畑 孝亮、深澤 太一
漆畑 孝亮、深澤 太一
 
漆畑 孝亮(うるしばた こうすけ)
1987年、静岡県生まれ。静岡東高校卒業後武蔵野音楽大学で学ぶ。2010年に渡欧しベルン芸術大学大学院修士課程を修了。在学中、ベルン大学財団から奨学金を得る。カメラータベルン、ベルリン室内管弦楽団(旧西ベルリン)等に客演。静岡県文化財団 グランシップアウトリーチ登録アーティスト

深澤 太一(ふかざわ たいち)
1991年、静岡県生まれ。京都産業大学に入学後、ギタークラブに入部し本格的にクラシックギターを始めドイツ、オーストリアなどの海外の講習会にも参加、研鑽を積む。2016年度秋吉台ミュージックアカデミーに参加、修了コンサートに出演。第41回大阪ギター音楽大賞優勝。第24回名古屋ギターコンクール第3位