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イベントレポート

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2017年2月25日(土) 13:30~15:00

かたかわ みちお / 文具屋多治見の店主

あなたの人生をさらに豊かにするために
~いっしょに詩をつくってみませんか~

かたかわ みちお氏は、20歳の頃より自己流で詩を書き始め、『いつかきっと』をはじめとした数冊の詩集を上梓した静岡県出身の詩人。テレビや新聞で取り上げられ、多くの人々の心を揺さぶる詩を書き残している。現在は地元・島田市で、奥さまとともに気に入ったものを集めて展示・販売する、少し変わった「文具店」を営みながら、自分のペースで創作活動を続けている。
今回は、そんな かたかわ氏と、フォトライターであり詩人としても活躍中のご友人・柴田秀夫氏をお招きし、トークショーを行なった。会場では、直筆で書かれた詩を展示した「『いつかきっと』かたかわ みちお展」が開催されており、参加者は思い思いの楽しみ方でかたかわ氏が描いた詩の世界に耽っていた。

卒業式で歌われる合唱曲『美しい季節』。歌詞に込められたメッセージとは?

小鳥がうたう朝 窓をあければ
こんなにも近くに 幸せが見える
歩いて来た道の その距離(ながさ)には
気付かず すぎてきた 美しい季節(とき)
歩いて行こう ここから始めよう
こんなにも夢見たもの そのあこがれは
ぼくらのなかで今 何かにかわる
(合唱曲『美しい季節(とき)』より)

学校の卒業式や音楽授業で、上記の合唱曲『美しい季節』を歌った経験がある人もいるかもしれない。
この曲は、かたかわ氏が作詞をし、それを読んだ鈴木行一氏が作曲をしたもの。合唱コンクールの課題曲にもなったことがあり、中学・高校の音楽の教科書などにも採用されている。
日常の風景をそっと切りとったような歌詞の中に、小さな幸せと、すべては未来へと続いていくというメッセージを感じさせる希望に満ちた作品だ。
歌詞に込められた言葉の奥深さは、歌う人・聴く人を区別せず、心を打つ。

「かたかわさんの詩を初めて読んだとき、衝撃を受けました。“こんなすごい人が島田にいるなんて”と。本人は、もてはやされたのは昔のことだからと謙遜するけれど、素晴らしい芸術作品は長年の時をも越えるものです。もっと彼の詩をたくさんの人に知ってもらいたい。そう思い、今回の企画を持ち込み、このような会が実現したのです。」
味がある手書きの文字やさりげなく添えられたイラストも、かたかわ氏の詩の魅力の一つだと柴田氏は語る。
かたかわ氏の子ども時代には、現代の少年誌のような漫画雑誌はなかった。そのため、戦艦大和の絵を描くなどして遊んでいた。その後、中学に入った頃少女漫画を知り、衝撃を受けたのだとか。その影響か、確かにかたかわ氏が描くイラストは、懐かしい少女漫画のような雰囲気がある。詩とイラストが独特な世界観を織り成し、読者を作品の世界へ引き込むのだ。

さよならがかなしいなら 言わなければいい
ぬくもりが欲しいなら この手を離さずに
歩いて行く道の その距離(ながさ)には
ぼくらを待っている 美しい季節(とき)
(合唱曲『美しい季節(とき)』より)

『美しい季節』のこの歌詞は、別れを思い起こさせ、卒業をイメージさせる。しかし、卒業にあわせて作られた曲ではないのだという。
かたかわ氏は40年ほど前に島田市民会館で仲間を集めて『いつかきっとコンサート』を開催した。そのテーマソングとして作ったのが、『美しい季節』だった。かたかわ氏にとってこの曲は、そんな思い出のある懐かしい曲だという。
かたかわ氏は、詩集『いつかきっと』を出版後、朝の情報番組で作品が俳優によって朗読されるなど、慌ただしく注目される時期を過ごした。しかし、子どもが生まれてからは、出版業界の第一線から退き、子育てを中心にする生活に変化していった。そんなとき、役所からある話が持ちかけられた。
「子どもの友だちのお父さんや、心意気の合いそうな学校の先生に声をかけ、『とうさんたちのメッセージ』というものを企画したのです。」
普段、舞台に縁のないお父さんたちがバンドを結成し、フォークソングなどを披露する。心温まるコンサートは評判を呼び、回を重ねた。子育てになかなか参加できない父親たちを表舞台に連れてきて、そんな父親の姿を子どもたちに見せることも目的の一つだったそう。
『美しい季節』の歌詞は、卒業の歌と思えば卒業の歌だが、このようなエピソードを知れば、父から子に向けたメッセージのようにも読み取れる。子育ての日々は、一瞬のきらめきとともに過ぎ去り、その時間は長いようで短いのだ。

下手でもいい。自分の字で言葉を伝えよう

字がへたでも すてきな詩は書けます
漢字が苦手でも 思いは伝わります
難しい言葉を知らなくても 心は通じます
(『「伝えたいこと」より』

「ぼくは、字はあまりうまくない。でも、下手な字でも、素敵な詩は書けると思うのです。」とかたかわ氏は語る。
先入観を持たない子どもたちが、かたかわ氏の手書きの作品に触れ、次のように話したという。
「かたかわさんの字は、怒った内容のときは怒ったような字、優しい内容のときは優しい字なのですね。」
携帯電話やパソコンの普及に伴い、文字を書く機会は随分と減った。しかし、手書きの文字から伝わるのは、言葉だけではない。文字の形、筆跡などから、書いた人の人柄、感情が伝わってくる。
今回のセミナーのテーマは、「あなたの人生をさらに豊かにするために、いっしょに詩をつくってみませんか」というもの。セミナーの短い時間内で詩作をするのは難しいが、下手でもいいから、自分の字で言葉を紡いでみてほしいと、かたかわ氏と柴田氏は話す。
落ち込んだとき、自分の心を詩などで表現することは、立ち直るために非常に有益な手段なのだそうだ。詩には定型詩と自由詩がある。日本人になじみ深い短歌・俳句・川柳は定型詩の一種にあたる。かの夏目漱石も、落ち込んだときに俳句を書くことは、自分を客観的に見ることができ、気持ちが楽になると言っていたのだとか。確かに漱石の作品は、苦しみや揺れる胸中を吐露したような作品が多く、その切実な心情を思えば胸がかきむしられる。
そして、詩は、自分への応援歌にもなる。自分を励ますために かたかわ氏が創作したのが、次の詩だ。

焦るな
急くな
無理するな
時期ってもんが
必ず来るさ
その時までは じっくりと
自分をみがいていりゃいいさ
信じろ
自分
胸を張れ
(『信じろ自分』より)

季語や五七五などの定型に縛られずに作る、自由律俳句というものがある。尾崎放哉や、種田山頭火といった二大俳人が知られるが、最近、『火花』で一世を風靡したお笑い芸人のピースの又吉直樹氏が自由律俳句を書いていることで注目を集めている。

例:咳をしても一人(尾崎放哉)
まっすぐな道でさみしい(種田山頭火)
同い年がニュースで死んでいる(又吉直樹)

このように少ない文字数であれば、Twitterでつぶやくような感覚で書けそうだ。まずは気軽に試してみてはいかがだろうか。Twitterや、スマートフォンのアプリで作品を残すのも良いが、ぜひ下手でもいいから自分の字で書き留めていって欲しい。

詩が描く世界は、読む人によってさまざまな印象を抱かせる

言葉の力というのは、すごい。
かたかわ氏の詩は、たくさんの人の心を揺り動かす力を秘めている。
「兄はとても優秀でした。運動や勉強ができて、スケッチもうまかった。自分は、何か秀でていたわけではなくて、漫画のような絵ばかりを描いていた。しかし、あるとき父が、ぼくの絵を『動きがあっていい』と褒めてくれた。その言葉が今でも心に残っています。」
親が何気なく言った言葉でも、子どもの心に残り、その後の人生を決定付けるほどの影響力を持っている。それを証明するかのように、かたかわ氏は、絵も描き続けている。

六十年の昨年も いろいろ いろいろありました
たくさんの人と出会い たくさんの言葉を交わし
たくさんの初めてを見て たくさんの初めてを聞きました
泣いたことも 怒ったことも 笑ったことも

そうして初めて知ったこと そうして初めて気づいたことも
ほんとに いろいろありました
生きた歳だけ世界は拡がる
出会いの数だけ言葉は繋がる(中略)

準備は万端
なんせ六十年も掛けてきたんだから
(『準備は万端』より)

「ぼくには、3人の小さな孫がいます。ぼくの目標は、孫たちの思春期にしっかりと向き合えるおじいさんでいたいということです。そのためには、自分の感性をどんどん磨き、語彙を豊かにしていきたい。いろいろな経験をして、本を読んで、書いて、人と出会って話すことが大切だと思うのです。」
言葉は、自分の心を伝えるために必要不可欠なツールだ。そのツールを改善していくことで、人との交流は確実に深くなる。
「d-labo」は、豊かな人生を送るために、夢を語ったり、本を読んだり、人と出会ったり、人生に彩りを加えていくスペースだ。ここでのセミナー経験は、かたかわ氏にとっても非常によい経験になったという。
「年をとることは悪いことじゃない。」そう何度も語るかたかわ氏が印象的だった。

詩というものは不思議なものだ、とつくづく思わせる今回のセミナー。
詩を展示したスペースには、感想用のノートが置かれていた。惹かれた詩は、個々によってさまざま。「『あるく』という詩がよかった。」「『伝えたいこと』という詩が印象に残った。」「『信じろ自分』がじ〜んときた。」など、思うままに記されている。
読み手の環境や、心情によっていかようにも受けとめ方が変わる。心の栄養になることもあれば、抜けない釘のように胸につき刺さることもある。自分の人生を豊かにするために、詩という世界にどっぷりとはまってみてはいかがだろうか。

講師紹介

かたかわ みちお
かたかわ みちお
文具屋多治見の店主
島田市生まれ。著書に詩集 「いつかきっと」・「いつかきっとⅡ」・「いつかきっとⅢ」・「おはなばたけ」「メッセージ」・「白い地図」があり、全国図書館協会の選定図書にも選ばれる。全国の学校で歌われている「美しい季節」など、合唱曲になった作品も多数。