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イベントレポート

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2017年2月26日(日) 13:30~15:00

高橋 登志光(たかはし としみつ) / 株式会社安心堂 販売・企画総合アドバイザー

時計文化を愉しむ ~素敵な大人へご招待~

時を計ると書くように、一昔前までは時間を知ることが主の目的であった「時計」。しかし現代では、ときにはステータスのために、またあるときは手元に添えるファッションアイテムとしてなど、「時間を知るためだけのモノを超えた存在」となっている。このように自分自身を表現するアイテムとなった時計は、まさに大人の嗜みであり、文化と言える。
今回は、株式会社安心堂で腕時計に関わること20数年、海外経験も豊富な高橋登志光氏に、成熟したライフスタイルを演出する時計の魅力と、愉しみ方をお話しいただいた。

人類の歴史は小さな歯車から始まった

何千年にもわたり、時を計るために用いられてきた「時計」。現在は、オシャレの要素として、また自分を鼓舞するためのアイテムとして……などその用途は多様化している。

時計の歴史は古く、時計そもそものはじまりは、紀元前2000年頃に古代エジプト人によってつくられた、棒や石碑の影を利用した日時計だといわれている。

自然を利用して時を計る道具には、日時計のほか、水・砂および火なども考案されている。その後、約700年前に機械式の時計が使われるようになり、200年ほど時を経て、ガリレオ・ガリレイが、振り子の往復する時間は同じ、という“振り子の等時性”を発見したことにより、時計の精度は飛躍的進歩を遂げた。

「当時、時を計れることは非常に重要な意味を持ち、ひと握りの権力者によって占いや政治などに利用されていました。その後、貴族たちがそれぞれに時計技師を抱え権力の象徴としたことで、時計は芸術品として発展していきます。」

現代の優れた時計ブランドといえば、オメガやロレックスが思い浮かぶが、これらはスイスで生まれている。なぜスイスで、これほど有名ブランドが生まれているのだろうか。

「当時、フランスとドイツに多く存在した時計の技術者たちは、宗教戦争を避けるためスイスに移住しました。最初はなかなか仕事が得られなかったようですが、彼らが忍耐強く時計産業を発展させていきました。」

当時は分業が主流で、歯車、ブレスのこま、文字盤、ガラスなどを専門的に製造する家内工業的に発展したといわれている。

「ちなみに、1800年頃に懐中時計から腕時計に進化するのですが、最初に腕に巻くスタイルの時計に発展させたのは、カルティエだとされています。」と高橋氏。

日本では、明治・大正時代に技術開発が進められ、1969年にセイコーからクオーツの腕時計が発売される。当時主流であったゼンマイで動く機械式時計とは違い、電池で動く極めて正確なクオーツ時計は瞬く間に世界中に普及した。スイス時計産業は大打撃を受け、価格も大暴落。しかし、誰もが持てる低価格の時計に飽きた富裕層を中心に、機械式の高価な時計の人気が復活した。現在は、“大きい・分厚い・複雑・高価”な腕時計が流行し、新旧の時計メーカーが競って新製品を投入している。

「近年は、リーマンショックやチャイナバブル等の終焉で、流行に左右されない、シンプルで機能的な時計本来の姿が戻ってきました。また、ジュネーブとバーゼルで毎年行なわれるフェア(=見本市)で流行が形成され、世界中に広がるという傾向を見せています。」

“時計”とは?

腕時計は、英語でwatch。フランス語でmontre。どちらも“見る”“見せる”という意味を持つ。日本語の“時計”という呼び方は、“方向や日影を計る磁針”という意味の中国語、「土圭(どけい)」が語源だといわれている。こうした、時計が持つ意味合いや価値観が、時代とともに変化してきている。

ここで高橋氏からプレゼントが。男性にはオメガのスポーティな腕時計、女性にはフランク・ミュラーのドレッシーな腕時計が表紙を彩っている冊子が配られた。

「腕時計の位置づけとして、男性には車でたとえるとわかりやすいと思います。移動手段ととらえれば軽自動車でOK。しかしなぜ、高額なフェラーリ、ポルシェ、ベンツ等を求めようとするのか。その理由のひとつとして高性能な嗜好品への欲望が挙げられるのではないでしょうか。」

フェラーリの最高時速は400km/h。そんなスピードを出せる公道は日本にはないのだが、それでも求めたくなる心理は、高級な腕時計を求める心理と似ている。

「女性は腕時計をオシャレの一環として、ブランドアクセサリーと捉えている方が多いように思います。」

その他、腕時計を求める理由として多いのは、婚約記念や就職記念などの「記念品」として。高橋氏曰く、資産として考える人も増えているという。

ここでパテック・フィリップ社の動画が流れる。創立175周年を記念した5本限定腕時計の、デザインから出来上がりまでが収められている。

「オークションなどの二次マーケットの発展に伴い、後の世代に譲る財産として腕時計を購入する方も多くなりました。そんな中で根強い人気を誇るメーカーのひとつが、パテック・フィリップです。100年を超えても純正部品で修理が可能な時計は、パテック・フィリップ以外にありません。」と高橋氏。

親から子、そして孫へ繋いでいく“品”は案外と少ない。

「銀行預金、不動産、現金……。自分亡き後、子や孫が困らぬよう何らか残しておきたいと思うのは当然です。その際、想い出も一緒に繋ぐことができるのが時計だと思うのです。」

高橋氏はまだ若いころ、とても高級な金無垢の腕時計をお父さまのために購入している。

「父が亡くなり、今は自分の手元にありますが、ゆくゆくは息子に譲りたい。」と高橋氏。

「この時計に触れると、なんだか父の血流を感じるのです。父は嬉しかったのか、ずいぶんと周囲に自慢していたそうです。そのように思いのこもった品ですので、要らないといわれても息子には手渡すつもりです。昨今、振り込め詐欺など殺伐とした事件が多いですが、子や孫との触れ合いを増やすことで回避できるように思うのです。腕時計は、このように絆を深めてくれる素晴らしいものです。もちろん、不要なら売ってもいいのですから。」

時計を選ぶ際のポイント

続いて高橋氏に、目的別に腕時計の目安価格を教えていただいた。
・時間がわかればいい…クオーツ時計 数千円~1万円
・オシャレアイテムとして…ブランド時計 数万円~30万円
・子供に遺したい(二世代)…50万円~100万円
・資産として(三世代以上)300万円以上

時計はもちろん、服の着こなしもとてもオシャレな高橋氏。自前のロレックスやエルメスの腕時計を披露しながら、ファッションのアドバイスをしていただいた。

「ベルトや靴、ネクタイは色合わせするのがおすすめです。時計が少々奇抜な色でも露出面積が少ないので嫌味なくOK。牛革をクロコ調に加工したものもあり、安価にさまざまな風合いを楽しめます。」

女性は、バッグと合わせたコーディネートがおすすめとのこと。全体のコーディネートを変えるだけで、長く付き合っている腕時計も新鮮味を感じさせる。

続いて話題は“家康公の洋時計”へ。

江戸初期の1609年、スペイン船が千葉県沖で難破するという事故があった。乗組員が漂着した村では、村人の尽力によって300人以上の命を救助したことで、スペイン高官と大御所・家康公の間では外交交渉が行なわれるなど関係を深めた。事故から2年後の1611年、救援へのお礼として、スペイン国王フェリペ3世の派遣大使が駿府を訪問。このときの家康公への贈り物のひとつに、機械式の西洋時計があったとされている。これが、久能山東照宮に神宝として残されている“家康公の洋時計”だ。

高橋氏は、家康公が愛用したこの時計のレプリカをぜひ作りたい!と奮起し数々の難問を乗り越えた末、販売価格22万円、限定400個の時計をつくりあげた。

会場のテーブルには同じデザインの純金+プラチナ製、時価4,000万円の時計が。

「販売した時計は真鍮製(銅と亜鉛)ですが、こちらは純金製です。ぜひご覧ください。」
と高橋氏。

ここで質問の時間となり、参加者から質問が。

「資産として考えた場合、ジュエリーよりパテックなどの腕時計を選ぶ方がいいでしょうか?」

高橋氏「ジュエリーにもよりますが、一般的に指輪ならそれらを分解しパーツとしての価値価格になるため、購入価格とは開きがある場合が多いです。価格の安定性を考えればパテックが優位だと思います。」

そして最後は、今後の夢について。

「かつてアメリカへ行けと言われたときには、具体的な目標はないものの“ここで一旗揚げよう、大きな人間になろう”と強く思ったものでした。今は、週1回楽しく飲みに行きたい、ゴルフが上手になりたい、家族が健康に暮らせたら嬉しい、そんな風に日常を楽しんでいきたいです。」

特別なときだけでなく、何気ない毎日を楽しむ。それは、道具と嗜好品の両面を併せ持つ時計を愛でることと、本質的には同じなのかもしれない。時計への愛はもちろん、家族愛や人間愛溢れるトークで、腕時計の魅力を再確認できる講座であった。 文・土屋 茉莉

講師紹介

高橋 登志光(たかはし としみつ)
高橋 登志光(たかはし としみつ)
株式会社安心堂 販売・企画総合アドバイザー
安心堂静岡本店にて主に時計部門に携わるとともに全社の販売・企画アドバイザーを務める。安心堂パリ店およびロサンゼルス店での海外勤務やスイスのバーゼル・ジュネーブで毎年開催されている国際見本市に長年赴くなど豊富な経験を通じて時計に対する造詣は深い。知識はもちろん、ヨーロッパの伝統的な接客スタイルを身につけたホスピタリティに気品が溢れる時計人。