ギタリスト/ウクレレ奏者としてライブツアーやレコーディングで活躍中の山口岩男氏。d-labo湘南でも、ウクレレやハワイアン・スラックキーギターの初心者向け講座が毎回好評を呼んでいるが、今回は、「食育セミナー」と題し、健康的なライフスタイルについて語っていただくことに。というのも、現在は引き締まったスリムな体型の山口氏だが、ほんの数年前までは30kg以上も体重が多かった。

「僕は昭和38年、1963年生まれで今年54歳になります。お腹出てないでしょ？白髪もないし。自分でも、20代の時よりも今のほうが体力があると感じています。食事は一日一食、朝は果物だけ。肉類は全然食べません。茅ヶ崎と藤沢で計250坪の畑をやっていて、ほぼ自給自足の生活をしています」

平成元年のバブル絶頂期にデビューした山口氏。故郷・山形から「俺はミュージシャンになるんだ！」と決意して上京してから半年後のことだった。1990年、26歳の時の宣材写真がプロジェクターに映し出される。「かわいいでしょ？」

そして、その写真と同じアングルで昨年撮った写真を披露。年齢を重ねてはいるが、顔の輪郭や印象はほぼ同じ。「ところが、この2枚の写真の間にこんな時代があったんです。ジャン！」映し出されたのは、ちょうど10年前、2007年2月29日の写真。なんと体重90kg！会場から「ええーっ！」という驚きの声があがった。

「この頃、酒の飲み過ぎで入院したんですけど、腕が太すぎて点滴が入らなかった」と振り返る山口氏。さらにその2年前、2005年3月21日の写真を映す。「この時はまだ56kg。人間はたった2年で、こんなに太っちゃうんです」衝撃的な事実を前に会場もざわめく。

そしてさらに4年前、2013年1月31日に友人のK氏と撮った写真では72kg。前出の90kgの頃よりは少し痩せたとはいえ、現在の山口氏からは想像できない体型だ。

「ここから2015年までの2年間で、48kgまで落ちました。一時期は47.2kgまで落ちた。90kgから考えればマイナス43kg。考えてみれば90kgの頃の僕は、女性ひとりをずっと背中に背負っていたのと同じいうこと。当時は股関節が痛くて痛くて、整形外科に何度も行ったんですが、レントゲンを撮ってもどこも悪くないと言われて。それはそうですよね、人ひとり背負ってるんだから。でも『痩せなさい』とも言われなかった」

太っていた頃の写真を次々と映し出す山口氏。「太ってると、ヒゲを生やしたりして、すっきりした格好をしなくなってくるんだよね。顔を出したくなくなるのかな」見るからに不健康そうな写真にシーンとなる会場。「あれ、皆さん暗くなってきましたけど大丈夫ですか？心配しないでくださいね、今は元気なんですから（笑）」

山口氏が健康を取り戻せた大きな要因は、食事の改善だった。「人間の体は食べたものだけでできている」当たり前すぎて忘れがちなことではあるが、さまざまなことの根幹となる重要な真実を、山口氏は何度も強調する。

「才能なんて関係ない。いいタンパク質をとれば、頭はよく働くはず。太っていた頃は、豚骨ラーメン、ステーキ、カップヌードル、ソフトクリーム、焼き肉弁当…。これじゃあ頭も働かないよね」

かつて、体重100kgを超える日本人はあまりいなかった。「日本は有史以来、100kg超えの人がたくさんいる時代になった。だからそのことにどんな問題があるのかということについての前例がない」と山口氏。「ここ50年で、日本の食生活はガラッと変わった。世界のどこの国でも、たいていみんな毎日同じようなものを食べているけれど、日本人だけが和食、洋食、中華、エスニックと、いろんな国のメニューで食事をしている。そして日本だけが、ガンが増えている。2人に1人がガンにかかるなんて、日本人だけです。そのことをよく考えなければいけない」と山口氏は警鐘を鳴らす。

食品添加物や農薬の規制・取り組みも、日本は世界の中でも遅れている。山口氏はさまざまなデータを紹介しながら、食への意識を高めることを提案。

「安全な野菜を食べたいと思って、畑を始めました。朝はとにかく消化のいいものをと、ウチの畑でつくった青物でスムージーを作って、リンゴや柑橘類などの果物と一緒に。果物は消化酵素を内蔵しているので消化する必要がなく、すぐに小腸に落ちていくんです。逆に、肉など動物性のものは消化に時間がかかるため、体にとって負担になります。まず果物、野菜、それからご飯などの炭水化物や動物性タンパク質と、食べる順番も大切」

果物を除けば1日1食という山口氏のある日のメニューは、玄米、野菜たっぷりの味噌汁、塩麹で漬けた浅漬け、ふかした芋、落花生。こうしたマクロビオティックな食生活で、減量に成功したのである。

「生活を変えたとき、1か月で8kg落ちた。今では、天気のいい日は自転車で海へ。SUP（スタンドアップパドルボード）やスポーツ登山もやっています。体もとても楽になった」という山口氏が、ここで手軽にできるエクササイズを伝授。参加者も立ち上がって、一緒に挑戦することに。

胸を張って立ち、足を肩幅からこぶしひとつ分ほど余分に開いて、つま先立ちをキープし、かかとを下ろす。最初は8秒間×8セット。次は4秒間×8セット。さらに2秒間×16セット。最後は1秒×32セット。これだけで少し息が上がる。「電車を待っている時など、ちょっとした時間にやってみてください」

後半は、山口氏によるスペシャルライブ。今回は同じく茅ヶ崎在住とご近所で、親交のある若手チェリスト、小宮哲郎氏がスペシャルゲストとして参加。ウクレレとチェロという、前代未聞のコラボレーションが実現した。

「30年ちょっとのミュージシャン人生で、チェロと一緒に演奏するなんて初めてのこと。家でリハーサルしたんですが、近所の人に『山口さんてチェロもやるんだ、素敵ね～』と思われたかもしれませんね（笑）」

ライブは、山口さんが大好きだというチャップリンの『スマイル』からスタート。優しく明るい歌に、会場で聞き惚れる人たちも思わず笑顔に。ウクレレのやわらかな音と、チェロの重厚な音が楽しげに溶け合って、美しく軽やかな音楽が生まれていた。

2曲目は『イパネマの娘』途中から、ウクレレとは思えないほどの超スピードの演奏に！ウクレレとチェロとの掛け合いがまるで会話のように楽しく、会場はすっかりノリノリに。

「太っていた時は足が痛くて立っていられなかったので、座って演奏していました。指も太っていると動きが悪くなってくる。太り始めたのは、弟を亡くして精神的に不安定になった頃からで、心療内科で薬をいっぱいもらって飲んでいたんですが、それをきっぱりやめた。口から入るものってやっぱり大事です。それでは次の曲はバッハの『G線上のアリア』…って、全然話がつながりませんね（笑）」

山口氏のコメントを受けて小宮氏が、「ストレスにさらされた現代人の音楽と、バッハのような昔の人が作った音楽とは、違うかもしれませんね」と言うと、「それ、俺は32歳で言えなかったな～」と感心。会場から笑いが起こった。

おなじみのクラシックの名曲が、ウクレレでかわいらしく、軽やかに。そこにチェロが厳かに交わる。ふたつの音色が手を取り合って、ダンスをしているような演奏だった。

ウクレレからギターに持ち替えて、ここからはハワイアン・スラックキーギターの出番。弦をスラック（ゆるめる）させた独特のチューニングは、まさにハワイアンな雰囲気。山口氏のソロ、小宮氏との共演でゆるやかな時間を楽しむ。

さらに、「藤沢といえばこの曲」ということで、JR辻堂駅の発車メロディーになっている『浜辺の歌』を演奏。参加者も一緒に歌ってみんな笑顔に。最後はアップテンポな『ブルースカイ』を、かけあいあり、超速弾きありの演奏で、会場全員の手拍子とともに楽しみ大いに盛り上がった。

アンコールの後、ライブ終了後も山口氏、小宮氏と記念撮影をしたり、チェロを触らせてもらったりと、参加者と触れ合う時間が続いた。食の力、音楽の力に感動した貴重な2時間となった。