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イベントレポート

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2017年3月5日(日) 13:30~15:30

望月 雄二郎(もちづき ゆうじろう) / 株式会社志太泉酒造四代目蔵元

日本酒の文化の伝承 ~新しいカタチを取り入れて

日本の伝統産業としても大切な役割を持っている酒造り。日本には、現在1500近くの酒蔵があり、そのうち約1300軒で今も酒が造られている。今回の講師は、藤枝で日本酒を造り続けている「志太泉酒造」の四代目蔵元・望月雄二郎氏。創業は明治15年なので、130年以上に渡って日本酒を造り続ける、静岡を代表する酒蔵だ。
今回の講座では、日本酒の歴史や造る工程の説明から、志太泉酒造で造られた銘酒の利き酒、そして味や香り別の4タイプごとに、相性の良い料理や美味しい飲み方などを教えていただくことになった。志太泉酒造のロゴの入った法被を着て登場した望月氏は、マイクを使わずにはっきりとした口調で、ゆっくりと話し始めた。

日本酒造りは厳しい世界。伝統を守り続ける志太泉酒造

「私は、日本酒造りを始めて20年ほど経ちますが、朝が早く、日本酒を造る冬から春にかけては休みがないという厳しい仕事です。それでも、美味しいお酒ができてお客さまに喜んでもらえた時は、本当に嬉しいですね。」

志太泉酒造は、静岡市から20kmほど離れた藤枝市の山奥にある老舗の酒蔵。すぐ横には穏やかな瀬戸川が流れ、春になると土手沿いの桜並木が一斉に咲き乱れる場所にある。創業は明治15年、本家でとれた米を活用するために酒造りが始まったという。この場所を選んだのは、瀬戸川のまろやかな味の伏流水(=地下水の一種)が、酒造りに適していたからにほかならない。

第二次世界大戦が始まってからは米が確保できず、10年ほど休業したこともあったという。それでも、昭和29年には現在も使われる蔵に建て直し、酒造りを再開させることができた。しかし、ビールや焼酎などの登場により、日本酒の人気は徐々に下がっていくことになる。

「日本の農家も専業が減り、家業を継がない人が増えていますよね。酒造りも同じで、杜氏は20~30年後にはいなくなるとも言われています。でも志太泉酒造の杜氏は43歳、ほかのスタッフもほとんどが30~40代という、若い造り手でやっています。」

志太泉の酒造りは、少数精鋭の5人体制。リーダーである杜氏を中心にひとりずつ、頭(志太泉では杜氏と兼任)、麹屋、酛屋、釜屋および船頭という役割に分けられている。とはいえ1人ではできない作業も多いので、チームプレーと個人プレーを使いわけながら、一つひとつ丁寧にこなしている。

志太泉酒造の簡単な紹介の後は、クイズを交えながら日本酒の歴史の話へ。望月氏が出した「日本で最初にできたお酒は?」というクイズには、7割の人が「日本酒」という回答だった。しかし、意外にも正解はワイン(山ぶどうでできた酒)。

「山ぶどうには糖分があるので、酵母さえあれば自然にワインができます。けれど、日本酒の場合は、原料のお米のデンプンを糖に変えなければならないので、ワインよりも複雑な工程が必要になります。」

では、日本酒はいつから造られたかというと、稲作が始まった弥生時代と言われている。魏志倭人伝に“倭人は酒をたしなむ”という言葉があったことに由来している。

瀬戸川のキレイで柔らかな水を活かした、丁寧な酒造り

次は、日本酒造りの基本について教えていただいた。日本酒造りの工程は、まず玄米の周りを削っていく『精米』から始まる。この精米歩合(=玄米から削られて残った米の分量)によって、大吟醸酒や本醸造というように名称が変わってくる。磨けば磨くほど白米は小さくなっていくので、値段が高くなる反面、スッキリと香り高い仕上がりになっていく。そして白米に残ったぬかを洗い落とす『洗米』の後、白米に水分を吸わせる『浸漬』へ。浸漬は秒単位で吸水時間を変えなければならない繊細な作業。水切りをして米を測定した後、大きな蒸し器で約1時間『蒸し』を行なう。

その後、麹菌を繁殖させる『製麹』を50~60時間ほどかけて麹を作り、タンクに入れて発酵させていく。その後は湯たんぽのようなものを入れて温度を管理し、酒造りに有用な酵母を増殖させ、さらに3回に分け4日間でもろみを仕込む。そして25~35日発酵させた後、原酒を絞っていく。この後も、出荷直前まで理想の香りや味にするための調整作業が続けられ、ようやく出荷になるという。

「志太泉では、細かな作業はほぼ手作業で行なっています。人間とまったく同じような作業を、機械でできるとは思えないからです。言葉ではなかなか説明できない複雑な調整を繰り返して、慎重に進めていきます。」

そして、米と同じくらい大切なものが仕込み水。志太泉の仕込み水は、横を流れる瀬戸川の軟水。軟水は、ゆっくりと発酵する特徴があり、まろやかな味の酒ができる(女酒と呼ばれる)。一方で硬水は、早く発酵が進み、強くて豪快な味になる(男酒と呼ばれる)。参加者は実際に志太泉の仕込み水と硬水を飲み比べて、その違いをほとんどの人が舌で感じることができた。

「私たちの理想、“最初はスッキリと入り、その後にお米の香りや味がふくらみ、最後にパッとキレる”お酒であることですね。」

温度やタイプによって、楽しみ方が無限に広がる日本酒の世界

休憩を挟み後半へ。参加者それぞれの机の上には4種類の日本酒が用意されていた。「もう少し話をしようと思いましたが…みなさん、もう飲みたいですよね?」と言い、参加者の期待を見抜いたように試飲会が始まった。

目の前に用意された日本酒は、味や香りで分類すると、薫酒(くんしゅ)、爽酒(そうしゅ)、醇酒(じゅんしゅ)および熟酒(じゅくしゅ)と呼ばれる4タイプ。すべて志太泉で造られた日本酒だ。利き酒を楽しむポイントは、飲む前にまず色を見ること、そして香りを嗅ぐこと。そして、どんな料理と相性が良いのか考えることも楽しみのひとつだという。

― 4タイプ別、味の違いや相性の良い料理 ―

【薫酒】りんごのようなフルーティーな香りで、甘みやコクがある。食前酒で使われることも多く、酒単体で飲んでもおいしい。

【爽酒】柑橘類のような香りで、スッキリとした味わい。アルコール度数は低め。淡い味付けや、魚などの新鮮な素材との相性が良い。

【醇酒】米を蒸したようなふっくらとした香りで、爽酒より力強い味わい。アルコール度数は高め。味が濃いものや、肉料理と相性が良い。

【熟酒】ナッツや紹興酒のような香りで、一番濃醇な味わい。チーズやスパイスの効いた料理など、クセのある味とよく合う。

「日本酒は懐が深くて、実は、どんな料理にでも合いやすいお酒です。静岡は、新鮮な魚が獲れるので、【爽酒】の人気が高いですね。逆に内陸では、味が濃いめの保存食がよく食べられているので、濃い味のお酒が好まれています。お酒の好みに地方性があるのも、日本酒の面白いところです。」

次に、醇酒の銘柄を冷酒とお燗で飲み比べて、温度による味の違いを確かめてみる。「冷酒は例えるなら、塩の焼き鳥が似合う味。お燗はタレの焼き鳥が合う印象でしょうか。どちらが良いかはその人次第なので、自分の好みに合った最適な温度を見つけてほしいです。」

最後に、望月氏の夢について伺った。
「毎年10種類以上のお酒を作っていますが、すべてのお酒を、思い描く理想どおりの味に仕上げることです。あと25年は、この仕事を続けていきたいと思っているので、そのうち1回でも実現したいですね。」 文・鴨西 玲佳

講師紹介

望月 雄二郎(もちづき ゆうじろう)
望月 雄二郎(もちづき ゆうじろう)
株式会社志太泉酒造四代目蔵元
静岡吟醸を確立した河村傳兵衛氏に酒造りを学ぶ。日本酒学講師。酒類総合研究所認定清酒専門評価者。平成28年度の全国新酒鑑評会では審査員を務めた。酒造米の個性を大事にした酒造りとカシス酒造りに取り組んでいる。