スルガ銀行 Dバンク支店

SURUGA d-labo. Bring your dream to reality. Draw my dream.

イベントレポート

イベントレポートTOP

2017年3月11日(土)13:00~15:00

国保 祥子(こくぼ あきこ) / 経営学博士

育休プチMBA方式で学ぶマネジメント思考
~育児×仕事を楽しむために~

女性の社会での活躍が促進され、今や夫婦共働きは珍しくなくなった。しかし、未だ社会・企業内においては「子どもを持つ女性」への対応に苦慮しているところが多い。育休制度は整えたものの、復帰後の女性の対応に頭を抱える企業は少なくないのだとか。
今回は、育休を利用後、スムーズな復職に必要な、思考技術を得るための「育休プチMBA勉強会」を、育休中、育休を終え職場復帰済みの参加者を対象に開催。
このセミナーでは、出産を機に労働時間や場所に制約を受けることになった人が、「マネジメント思考」を学ぶことで、人材としての付加価値を向上させ、制限があっても組織に必要とされる人になることを目指す。
講師に迎えた国保祥子氏は、ご自身も2歳のお子さんの育児をしながら働くワーキングマザー。
会場にはお子さんをあやしながら参加する女性が多く見られた。

自分で考え、話し合い、発表することで新しい考えを生み出していく

今回は、6~7人の3グループに分かれて思考力を養うためのメソッドを実施した。勉強会で一貫して行なわれていたのは、次のような手法だ。

(1)テーマについて、一意見ごと付箋に一枚ずつ記入する。この時間は、周囲と決して話さない。(話すと思考が定まらなくなる。)
(2)少人数のグループで話し合う。相手の意見に対して、「自分はこう思う」と意見を付け加えていくことで、新しい考えを生み出していく。
(3)自分や、グループで出た意見を全員の前で発表する。それに対し、国保氏が考えをうまく言語化できるよう促し、また、その意見を発展させるために、質問を投げかけていく。

勉強会では、次の事案について検討を重ねた。

●ケースメソッド「中堅メーカーに勤める美咲の話」
美咲は、憧れていた広報課で忙しくも充実した日々を過ごしていた。その後、結婚・妊娠を経験。会社には、前例は少なかったが育休制度があり、美咲は16時までの時短勤務制度を活用し復職。時間に制約がある中、生産性の向上と自宅での残業で業務をこなした。やがて、重要な案件に推薦される。時短勤務内で対応しきれない事案は、後輩の佐藤を頼りつつも業務を進めていく。しかし、その中で他部署から広報課への信頼を損ねるようなミスが発生する。美咲と佐藤のコミュニケーション不足が引き起こした確認漏れが原因だった。確かに、復帰後は時間に追われ、会話する時間が減っていた。さらに、タイミング悪く、子どもが発熱。出張が多い夫は、平日の育児参加は難しく、互いの実家も遠い。病児保育の予約も取ることができず、美咲が看病するしかない。信頼回復が絶望的になる…。

自分の考えを言語化することで、さらに思考を深めていく

まずは、「このような状況を招いている美咲の課題は何か」ということについて、各自の意見を大きめの付箋に書き出していく。付箋一枚につき、一意見を記入。自分の考えを言語化・テキスト化するということに意味があるという。
「スケジュール管理不足」「一人で仕事を抱え込みすぎ」「コミュニケーション不足」「意識不足」「会社への相談不足」など、さまざまな意見が付箋に書き出されていく。

次に、グループ内で意見を共有。勉強会開始前まで、グループ内で雑談をするなどの交流をしていたので、気軽に話せる雰囲気ができていた。各テーブルに必ず何人かはいる、赤ちゃんという潤滑剤の存在も大きいのかもしれない。
「スケジュールの管理不足だよね。」「そうだね、育休明けは、仕事を3日分くらいは先延ばしにした方がいいよ。」
「出張続きとはいえ、もう少しご主人と協力した方がいいのでは?」「そうそう、休日の時間の使い方を考えるなど、もう少しご主人と工夫できるよね。」
「会社もまだまだ模索中なのだから、勇気をもって会社へ意見を言うのも大事。」「自分の評価ばかり考えていては駄目だよね。女性は、社内政治が苦手というけれど、美咲は本当に視野が狭いと思う。」「話す時間が取れないなら、ランチの時間を使ったり、帰宅途中にメールでコミュニケーションの時間をとったりといった方法もいいと思う。」一つの意見に対して、自分はこう思うといった意見を加えていく。
一人では出てこなかった意見から新しい意見が生まれていく様子は、なかなかにおもしろい。

一定の時間が経過したところで、意見を全員の前で発表。
「積極的に手をあげ、人前で話すことはとても重要。ここで発表できないと、復職後、会社に意見を言うなんてできないよ。」
国保氏は、自ら発表することを促す。人前で話すことが得意でない人も、このような場では思い切って発言することが肝心なのだそうだ。うまく言葉がまとまらなくても、自分の考えを言語化することで、さらに思考が深まるという。
「育休をとる前のキャパシティと、復帰後のキャパシティは違う。今までできていたことが全部できるとは限らない。」という意見には、「できないなら、どうしたらいい?」など、鋭い質問を投げかけていく。
そうすることで意見が発展し、一段階上の思考ができるようになる。このときは、「部下の育成を兼ねて、分担していくことも必要」という意見に発展していた。
会場の雰囲気がどんどん温まり、一人ひとりの中で新しい考えが生まれていく。出てきた考えや、気になった内容をそれぞれがメモしている様子が見受けられた。

続いて、「美咲は、どうすれば仕事をうまくできるようになるか。」という点について、検討していく。
一人で考える、グループで話し合うという段階を経て出てきた意見は次のとおり。
「経験不足を補うアドバイザーがいない」「“できない”が言えない」「交渉力がない」「ミスのリカバリー能力がない」「自分に自信を持ちすぎて、人に頼らずにできると思い込んでいる」「上司や周囲に予測できることや、できない事由を伝える」「自分が会社にとってのロールモデルになる。自分の立ち位置や、周囲への影響をすり合わせておく」「自分の状況の変化を客観的に捉えられるよう、意識改革が必要」
問題点を言語化することで、おのずと解決策も導き出されていく。

事案から導き出された結果を、自分の復職後に当てはめてみる

「もともと美咲は、出産前からこれらのことができていたのかな?きっとできていなかったと思う。出産を機に、できていなかったことがあぶり出されてきたのだと思う。今後、美咲はどんなふうに意識改革をして、仕事をしていったらいい?そして自分が復職後、美咲のようにならないためには、どういうことを意識していったらいい?」
国保氏の投げかけるテーマについて、最終的にどのような手法を取れば、企業で活躍できるか具体的に検討していく。

「作業項目を細かく書き出し、自分がやらなければならないことと、ほかの人でもできることを見極めていく」「夫と話し合う時間を作ることが、共働きするうえでは必要」「できない自分を認める」「仕事の状況の見える化をしておく」これらの内容は、育休明けの女性には最低限必要なことのようだ。
「私も、第一子のとき、同じように一人よがりで仕事をしていたから、美咲の気持ちがよくわかる。周囲とコミュニケーションが取れていればよかったと思う。」

復職経験者の中から、こんな声も聞こえてきた。美咲のような状況は、決して珍しくはなく、むしろよくある事例なのだ。だからこそ、共感する人も多く、「こんなときどうしたらいい?」
と自分と重ね合わせて考えることで非常に有意義な結果を得られる。

経営学には、リスクマネージメントというジャンルがあるそうだ。「既知のリスク」「予測可能なリスク」「予測不可能なリスク」があり、「予測不可能なリスク」を、いかに「予測可能なリスク」にするかが重要だという。たとえば、「子どもが熱を出す」というリスクについて考える。保育園に預けると、子どもは熱を出す頻度が増す。これは、「予測不可能なリスク」だ。しかし、月に一度は熱を出す子どもであれば、これは、「予測可能なリスク」へと転換させることができる。そして、「夫と交代で休みをとる」「病児保育を予約する」「実家の両親に看てもらう」などの対策をあらかじめ講じることができる。仕事に穴を空けないために、先回りの対応を考えておくことで、将来的に組織にとって必要不可欠な人材へと成長しうるのだ。
「『予測不可能なリスク』を、いかに『予測可能なリスク』へ転換させるかを考えていくことが重要」と国保氏は語る。

最後に、自分になかった視点を振り返り、書き出していく。「ボスマネジメント」「マインド維持」「仕事への見通しの甘さ」「困難なときに折れない、プレマネバランス」
勉強会終了後も、活発な意見交換が続いた。子どもを持ちながら働く女性には、会社では話せないこと、聞けないことが多い。お互いの連絡先を交換し合うなど、困ったときに相談できる友人づくりの場にもなったようだ。

講師紹介

国保 祥子(こくぼ あきこ)
国保 祥子(こくぼ あきこ)
経営学博士
株式会社ワークシフト研究所所長、育児プチMBA代表
静岡県立大学経営情報学部講師、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科非常勤講師
早稲田大学WBS研究センター招聘研究員、上智大学非常勤講師。専門は組織マネジメントLearning Communityを使った意識変革や行動変容を得意分野とする。2011年フューチャーセンターを、2014年育休プチMBA勉強会を立ち上げ、2015年組織開発プログラムなどを手掛ける株式会社ワークシフト研究所を共同設立。1児の母。