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2017年6月22日(木)19:00~20:30

神田 武(かんだ たけし) / NTTデータ経営研究所 マネージャー

人工知能の可能性と限界 -事業活用の取組を通じて見えてきたこと-

Googleの開発したプログラムが囲碁のトッププロに勝利するなど、ここ1~2年で「人工知能」という言葉を耳にすることが増えてきている。現在は世界的な人工知能ブームと言われ、先進的な企業が次々と人工知能の研究開発や事業活用を競い合っている。その一方、メディアでは「人工知能やロボットが職を奪う」などディストピア的な取り上げられ方もしている。この「人工知能脅威論」は、人工知能の実像に対する正しい理解が浸透していないことが背景にあるのではないかと考えられる。人工知能によって今後どんなことが可能になるのか?流行のディープラーニングはどう革新的なのか?人工知能が浸透した社会ではどのような心構えが必要なのか?本セミナーでは人工知能のビジネス応用に取組む講師独自の視点でこれらのことを語っていただいた。

60年の時を経て初期の研究テーマをクリアしつつあるAI=人工知能

ここ1~2年、世の中で注目されているAI=人工知能。自動車の自動運転や将棋の電王戦など、AI(人工知能)にまつわるニュースは毎日流れているが、AI(人工知能)というと人々が抱くのは依然としてSFチックなイメージ。鉄腕アトムやドラえもんのような万能型ロボットや『2001年宇宙の旅』に出てくるHAL9000のような人間に反逆するコンピューターを想像する人が多い。そこで今回はこのAI(人工知能)を実際にビジネスに活用している神田武氏を講師にお迎えし、その実像や可能性についてお話しいただいた。

「AI、人工知能は現在、第三次ブームと言われています」

 人工知能という言葉が生まれたのは61年前の1956年。アメリカのダートマス会議で「人間の思考を如何にコンピューターで再現するか」という議論が交わされた。そこで求められたのが「自分で賢くなるコンピューター=人工知能」だった。すぐに第一次ブームと言われる時代が訪れ、チェスなどボードゲームのプログラムや機械翻訳、対話システムの開発などが始まった。おもしろいのは、そうした初期の研究テーマの多くが、実は現在も研究テーマの主たるものとして残っている点だ。

「人工知能というのは学問としては非常に若いものです。初期の頃は一部の科学者が研究室の中だけで遊んでいるようなものでした。それが最近では研究が進み、ボードゲームでは人間を凌駕するようになり、機械翻訳や対話システムも実用レベルまで進化しました」

 歴史の浅い学問であるがゆえに、人工知能は、心理学、言語学、哲学、論理学、脳科学、数学、ロボティクス、認知科学など近隣の学問からいろいろな方法を借りて発展してきた。研究者の中には複数の領域を股にかけている人も少なくない。「境目があるようでない」のがAI(人工知能)。研究室レベルでは確かにSF的なものもあるから、それが妙な誤解を与えたりもする。とはいえ、将棋ですら人間がコンピューターに負かされてしまう時代。もはや人間はコンピューターに管理されるほかないのか?そう決めつけるのは早計だ。実は人工知能には得意なことと不得意なことがあるのだ。

機械学習の飛躍的進化が呼んだ第三次AI(人工知能)ブーム

混沌として見える人工知能だが、神田氏自身は「技術単位で整理していけばその姿が明確になる」と考えている。探索や機械学習、言葉や音、画像などを理解するメディア処理などの基盤技術、そこから応用される技術とアプリケーション。言葉にまとめると「人間の認識や思考に類似する機能をコンピューターに用いて再現する技術を実装したシステムの総称」が人工知能ということになる。

「したがって、現状ではロボットでもなければ意識を持ったコンピューターでもない、ということになります」

1980年代の第二次ブームを経て、現在は第三次ブーム。その牽引力となっているのが「ビッグデータに対する機械学習の適用」だ。現在の社会はインターネットの普及でかつてないほど構造化されていないデータが集まるビッグデータの時代となった。こうなると人が判断していてはいくら時間があっても足りない。そこでコンピューターに処理を任せる必要が出てきた。

「それができるようになったのは、CPUやストレージ、通信ネットワークなどのハードウェアのレベルが指数関数的に見て上がったから。早い話、コンピューターの性能が飛躍的に向上したからです。またクラウドコンピューティングやIOTの発展で、スマホやセンサーの周辺にある計算リソースが扱い易くなった。と同時に、機械学習技術が飛躍的進化を遂げたことも大きな理由として挙げられます」

機械学習とは「人工知能が人間のように学習することで賢くなっていくこと」だ。その方法は「回帰」と「分類」の2種類。「回帰」とは数字や数値を予測すること。たとえば、喫煙者を集めて年齢と喫煙本数から平均的な寿命を予測する。これが「回帰」だ。「分類」とは、そこにある文字を見て「あ」なのか「い」なのかを判別すること。これらが最近はディープラーニング(深層学習)の発達で非常に高い精度で行なえるようになった。目の前の画像に人の顔が何個映っているか。人工知能はすでに人間よりも高い精度で言い当てることができるようになっているし、無数にある論文の中から一定の特徴を抜き取って分類するといった作業はもはやAI(人工知能)の独壇場だ。

職業によってはAI(人工知能)が代替していく時代に

では、産業的にはこうした人工知能はどういう影響を及ぼしていくのか。よく聞くのは「AI(人工知能)に仕事を奪われる」といった悲観的観測だ。確かに、人工知能によって代替可能な職種は数多く存在すると予測される。

人工知能が代替する可能性が高いのは定型的作業。一般事務や受付、金融機関の窓口、肉体労働なら農業など。逆に代替が難しいのは非定型の作業。意外かもしれませんが、観光バスのガイドや美容師、バーテンダーなど、人と雑談しながら作業を行なうといったヒューマンスキルが必要とされる職種は代替されにくいと考えられています」

業界別に見ると、ここ10年くらいの間に代替する、あるいは代替されると思われるのは、会社内においては経理や秘書業務の自動化、情報通信メディアでは事件事故の速報など通信社の業務のAI(人工知能)化、小売業では映像による顧客の行動解析などが挙げられる。そのなかで神田氏が「確度が高いと思っている」のが「物流におけるAI(人工知能)の活用」だ。すでにアマゾンでは倉庫内をロボットが行き交っている。現状ではまだ棚から本などをピックアップするような作業は人の手に委ねているが、それも将来的にはロボット化されるだろうという。

「ただ、現実にはその職種の仕事のすべてがAI(人工知能)に奪われるというわけではなく、業務の中の一部のタスクをAI(人工知能)が担う、といった形になっていくと思います」

今後、あらゆる産業で活用されていくAI(人工知能)。それは個人レベルの生活にも浸透していくことは間違いない。むろん、そこには権利や責任などクリアしなければならない問題も多い。

「今はAI(人工知能)開発のガイドラインを総務省が中心となって議論しているところ。これからいろいろなルールが定まってくるはずです」
神田氏の「夢」は「仕事をAI(人工知能)にサポートしてもらって、ハワイのようなところに移住して悠々自適な生活を送ること」だ。

「非常に俗人的な夢ですが。AI(人工知能)の事業化に取り組んでいる者として、そういう“楽”ができるようになったらいいなと考えています」

講師紹介

神田 武(かんだ たけし)
神田 武(かんだ たけし)
NTTデータ経営研究所 マネージャー
大手シンクタンク、大手WEBサービス企業を経て、2014年より現職。情報通信分野における先進技術動向・社会動向の分析と構想、人工知能技術やエージェント技術の社会実装に向けた実証やコンサルティング・情報発信を中心に活動。人工知能技術を中心とする情報技術全般、技術・市場観点での新規事業立案支援、シナリオプランニング、研究企画等を得意とする。