特集
2016 Feb.19
コレクターズRoom Vol.14「アナログレコード」
音楽配信が普及した今、
アナログレコードでこそ味わえる豊かな時間がある

愛するモノに囲まれた暮らしは、豊かさと刺激に溢れているはず。「コレクターズルーム」では毎回、さまざまなコレクターを取材。コレクションする楽しさや自慢の品、収集に必要なお金のやりくり術などをご紹介します。
今回登場していただくのは、アナログレコードコレクターの奥野晋さん。アナログレコードを軸とした音楽ファンのSNS「レコーデリー」の主宰も務めている奥野さんに、ブームが訪れているというアナログレコードの現状のほか、レコードの魅力、お気に入りのコレクションなどについて伺いました。
女子にも人気!?アナログレコードブームの到来
アメリカでは7年連続でアナログレコードの売上が伸び、2014年は1991年以来の記録をつくったといいます。ここ日本でもレコードブームと言われて久しい昨今ですが、奥野さんにもその実感はあるのでしょうか?
「昔よりレコードショップにお客さんが増えたなと思いますね。若い人、特に女の子が増えた気がします。おしゃれで安いプレイヤーが売られるようになったおかげもあるかもしれませんし、レコードで新作を出す邦楽のバンドグループやアーティストが多くなったというのも理由のひとつでしょうね」

奥野さんがレコードに惹かれ、買い始めたのは、現在のレコードブームから遡ること20年ほど前。きっかけは何だったのでしょうか。
「僕が高校生だった90年代後半に、ヒップホップのブームがあって、DJが流行っていたんです。DJがレコードを回している姿がかっこよく見えて。それから『レコードってかっこいいな』と思うようになったのがきっかけです。その後、友だちと行った初めてのレコードショップでレコードを買ってから、すごく安いターンテーブルも買いました」
しかし現在ではCD、さらにはApple MusicやAWAといった音楽配信サービスもあります。デジタルで手軽に音楽が聴けるようになっているなかで、アナログレコードの良さはどこにあるのでしょう。
「たしかに僕も、特に移動中に音楽を聞く場合は音楽配信サービスを活用しています。でも、レコードは家で気分をリフレッシュしたいときなどになくてはならないものなんです。レコードをジャケットから取り出し、ライナーノーツ(レコードに付属している冊子)を読みながら、針を落として音楽をゆっくりと聞く。そんな時間を、何よりも贅沢な時間に感じるんです。
僕はレコードの魅力って、“そこにある”なのかなって思います。確かに今はデジタルの音源でスマホがあれば、音楽が聴けます。ただし便利な反面、『アーティストの世界観やメッセージを体で受け止めて音楽を聞いている』というような感覚は得にくい。今レコードが欧米を中心にブームになっているのも、“音楽を聴いている実感”があることが理由なんじゃないでしょうか」
さらに奥野さんは、レコードは“音”や“ビジュアル”も大きな魅力だと言います。
「またレコードの溝に刻まれた音の情報量は、デジタルの何倍もの情報量なので、アンプやスピーカー、針などの機材の違いで、全く違う音に聞こえます。手間ひまをかけて聞くことで、自分だけの音に変えていけるのも魅力のひとつです。
そしてジャケットが大きいから、飾る楽しさや、集める楽しみもありますね。それはCDとも違います。また、中古でレコードを買っていると『To Emily』といったメモ書きがされていたりして、いろんな人がいろんなシチュエーションでこのレコードを聞いていたんだな……なんて想像できたりするのもおもしろいですね」
そんなデジタルとアナログを織り交ぜた音楽ライフを送っている奥野さんは、アナログレコードファン同士が所有しているレコードの情報などを共有できるSNS「レコーデリー」を開設しています。そのきっかけはレコードの管理のためだったとか。
「レコードは管理が大変で、自分が何を持っているのかわからなくなってしまうんです。だから、オンラインでレコード棚を可視化したいという思いがありました。それと同時に、『自分はもういらないけど、他の人が欲しがっているレコードをトレードできたら』と考えたのも、サイトを開設したきっかけです」
■奥野’sアナログレコードコレクション 高額商品■
Marvin & Guy - Town(Let's Get Lost Vol. 14)

奥野さんが選ぶ、高額なレコードの1枚目は、吉田美奈子さんという70年~80年代のソウルシンガーの曲を、ディスコダブのマーヴィン&ガイという人がサンプリングしたレコードです。2~3年前に200枚か300枚限定で販売され、今ではレアなレコードに。奥野さんが購入した際は1,000円ほどだったそうです。
Theo Parrish – Solitary Flight

奥野さんが選ぶ、もうひとつの高額レコードがこの1枚。2002年にリリースされた、セオ・パリッシュというデトロイトハウスのDJによる作品『Theo parrish-Solitaryflight』で、映画『ブレードランナー』のテーマ曲をサンプリングしているのが特徴です。「この人のアナログは必ず人気が出て毎回高くなりますね。これは当時1,000円くらいで買ったものです」と奥野さんは振り返ります。
■奥野’s 思い入れがあるアナログレコード■
思い入れがあるのは、亡くなった父親が持っていたジャズのレコードである3枚だそう。「僕はヒップホップが好きだったことからレコードを集め始めたので、以前は『ジャズなんて』と思っていたのですが、ヒップホップの曲のサンプリングソースに使われていたりしていたため、聴くようになりました」
Yusef Lateef - Eastern Sounds

思い入れのあるレコードの1枚目は、米国のジャズ奏者、ユセフ・ラティーフの1枚。「これは日本を代表するトラックメーカーであったNujabesがサンプリングで使っていたもので、それをたまたま父親が持っていたというレコードです」
Duke Ellington & John Coltrane

Gato Barbieri – Caliente!

思い入れがあるレコードの2、3枚目は、ジョン・コルトレーン(今回のレコードはデューク・エリントンとの共演)とガトー・バルビエリ、いずれもサックス奏者のレコードです。「サックスがいちばんジャズっぽいなと個人的には思っていて、父親のコレクションのなかでも特に好きだったレコードですね」
■奥野’s 変わり種のアナログレコード■
Pharrell Williams - Happy(remixes)

奥野さんが変わり種として選んだのが、大ヒットしたファレル・ウィリアムス「ハッピー」のリミックス集です。「変わり種というか、ピクチャーレコード(※)はレコードを買わない方には新鮮じゃないかと思い選びました。当時2,000円くらいで購入したものです」
※レコード盤の上に写真や絵がコーティングされたレコード。
アナログレコードの魅力は「手間」にあり?
アナログレコードの収集方法として、渋谷や池袋、御茶ノ水のレコード屋ショップに買いに行くと教えてくれた奥野さん。ネットでの購入もすると言いますが、やはりお店にはお店の良さがあるのだそう。
「その日の予算を決めて何軒か周るのが基本です。音楽配信サービスでは視聴履歴などを分析して音楽をおすすめしてくれますが、レコードショップではものすごく音楽に詳しいバイヤーやDJの人たちがいて、その独自の感性ですすめてくれるんですよね。レコードショップに行くたびに、棚の品揃えが変わっていて、専門家が選んだ新しい音楽と出会える。それがすごく楽しいですね。だからレコードショップに行くときは、『これを買いに行くんだ!』というよりは『何か良いものないかな?』と探しに行く感覚です」
そうして購入したアナログレコードの楽しみ方とは?
「アナログレコードは飾って眺めることができるのも楽しみです。気に入ったレコードのなかには、2枚買っておいて、1枚を保存用に開封しないでおくものもあります。

でも、やっぱり聴くのがいちばんです。デジタルなら数クリックで聴けるものを、レコードで音楽を聴くときは、わざわざジャケットからレコードを出して針を落として……っていう手間がかかる。それが面倒なんですけど、豊かな時間なんですよね。たとえるなら、コーヒーを手間ひまかけてじっくり淹れるみたいに」
コレクターにとってはもしかしたら考えたくない話題かもしれませんが……これまでにアナログレコードにおおよそいくら費やしてきたのでしょうか。
「どれくらいですかね。単純計算で3,000枚くらい持っているので、1枚1,000円だとしても300万円。アルバムもあるので500万円くらいは使っているんじゃないかと思います」

約3,000枚だというアナログレコードのコレクション。その管理方法とは?
「非常に場所をとるので、今は大半のレコードをレンタル倉庫に入れています。なので、部屋に置くものと倉庫に置くものを頻繁に入れ替えていますね。そのときのトレンドや、季節などに合わせて聴きたいものを部屋に置きます。それと、高価なレコードは、盤をジャケットではなくレコードを包んでいるビニールの中に入れ、盤とジャケットを別々に保管するようにしています。レコードは尖っているので、削れてジャケットに穴が空いたりするんですよ」
では最後に、アナログレコードを集めたことで得られたものとはなんでしょうか?
「音楽を深く知ることができた、ということです。レコードを集めるうえで、演奏者や作曲家、サンプリングされている曲など色々情報を調べることが必要になるので、一見違うジャンルでも演奏者が共通している、といった発見があるんです。それはデジタルでの配信では得ることのできない、自分が能動的に情報を集めてレコードを収集していたからこそ得られた情報だと思います」
- ■コレクター's データ■
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- コレクション:アナログレコード
- コレクション歴:約20年
- コレクション数:約3,000枚
- 費やした費用:約500万円
Information
- コレクターズローン
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