特集
2017 Jan.24
Topic on Dream ~夢に効く、1分間ニュース~ Vol.164
日本の新しい「おもてなし文化」折花(おりはな)の魅力とは

皆さんは「折花」をご存知でしょうか。「折花」とは1枚の紙から作られた花型のアロマディフューザーのこと。その種類は何と600種類にも及びます(2016年現在)。折り紙や切り絵とも違う、いままでありそうでなかった精緻な紙の花に、今世界中から熱い視線が集まっています。今回は創始者である三谷基さんに「折花」誕生のきっかけやその深い世界観についてお聞きいたしました。
手軽なアロマディフューザーを、という思いから生まれた「折花」

蓮の花にモモにバラ、ダリア、花弁につく蝶々や宙に浮かぶ妖精……「折花」をはじめて目にした人は、まずその立体的で複雑な造形に目を奪われることでしょう。そして、それが1枚の紙から手作りされていることに驚くはずです。
この「折花」を考案したのがデザイナーの三谷基さんです。もともと大手デベロッパーが発注する大型案件の設計コンセプトやデザインを手がけている三谷さんが「折花」を作りはじめたのは7年前。きっかけはそれまでのアロマディフューザーに対する不満だったといいます。
「私は環境デザイン(パブリックスペースの空間デザインなど)を仕事としていた流れで、花やアロマオイルの勉強をしていたんです。そのときに、アロマを楽しむのにそれまでのアロマディフューザーみたいに部屋に匂いが染みついたり、お皿にオイルがこびりついたりしないような、もっと手軽な方法はないかと思っていたんです」
そこで思いついたのが紙。「コットン紙で花の形の受け皿をつくって、そこにアロマを垂らせばいいのではないか」、これが「折花」誕生のきっかけでした。
「ちょうどアロマメーカーに勤める知人のところに行く用があったので、前の晩にお酒を飲みながら広告の切れ端ではじめての折花を作ってみたんです」
高校2年のときから手作りのクリスマスカードを作っていたという三谷さんだけに、この種の作業には「素養がありました」何となく作って持って行った「折花」に知人は大喜び。そればかりか、わずか1週間後には「大手コンビニで商品化が決定」という快挙を成し遂げました。
「商品化されたものは結果的にはあまり売れずに終わったのですが、今思えばこれがよかったように思います」
一枚の紙が生み出す不思議な力=折花の魅力

商品化までの間に特許出願、商標登録などを済ませた「折花」は、気が付くと三谷さんの設計事務所が手がける事業へと成長。三谷さんの手によって次々と考案され種類を増やしていきました。
「最初の頃はパーティーなどに出向いては、会う人会う人に配っていました。それでどんどん人脈が広がっていきました」
実はこれが「折花の持つ力」だといいます。
「折花のすごいところは、みんなが喜んでくれる点。女性でも男性でも、子供でも、たとえ国が違っていても一発で友達になれます」
おもしろいのは、もらった人がいつまでも大切にとっておくところ。
「3年ほど前に、たまたま代官山のカフェで隣に座ったニューヨーカーの弁護士に折花をプレゼントしたことがあるんです。今年、ニューヨークに行く機会があったのでフェイスブックで連絡を取ったら、あのときもらった折花をまだ自宅に飾っているよ、というお返事をいただきました」
どうやら「折花」には人と人をつなぐ不思議な力が宿っているようです。
折り紙と違うところは、やはり「花」である点。造花がたんに生花を模しているのに対し、「折花」は「家紋などと同じで、花をモチーフにして、そのうえでデザインとして昇華(しょうか)させている」。そして、必ず花の中心にアロマを垂らす受け皿を設けている、ディフューザーという道具である、という点でも折り紙や切り絵とは一線を画しています。
「折花」に含まれているのは「文化」「芸術」「デザイン」といった3要素。日本に古くからある折り紙や切り絵の技術を生かしていることもあってか、まったく新しいものでありながら、パリやニューヨークなどの海外で見せると「日本的だ」と言われるといいます。
「生け花やお茶がさりげない日本のおもてなしの文化であるように、紙と香りで日本の新しいおもてなし文化を作っていきたい。そう願っています」
「折花」は本来の用途であるアロマディフューザーとして使うだけでなく、小さいものは指輪やイヤリングにもなります。アート性に優れているため空間展示にも最適。この7年間の間にも国内外のホテルやギャラリ―、公共空間など各所で展示、大勢の人の目を楽しませてきました。
「立体物であるせいか、光との相性が抜群にいいのが折花です。キャンドルやライトなどの光を当てると濃い影や薄い影ができて、それが人の心をつかむ。2枚折りのカードとも相性がよくて、ポップアップカードなどにも使えます」
シンプルで美しい形状は照明やインテリアなどのプロダクトにも応用が可能。こうしたデザイン性も「折花」の持つポイントです。
ポイントは折り方と切り方の組み合わせ

では、そんな「折花」はどうやって作られているのでしょう。材料、道具は「紙」と「ハサミ」だけ。ただし、そこには「積み重ね」と「素養」が必要です。
「私の場合は花の種類に詳しく、デザインやデッサンの素養があった。かつカード作りなどの経験があったからいろいろな形の折花を生み出せたのだと思います」
はじめての人が作るなら、「とにかく繰り返し何個も作ること」が大事。もっとも簡単なものですら「100個は作らないことには自分のものにはできません」。
「そのかわり、いったん習得すると次々と新作が生み出せるようになります」
作り方の基本は、正方形の紙を4つに折って、そこをハサミでカット。ここまでは昔からある「紋きり遊び」と同じです。カットしたあとに折ってある紙を開いてみると、そこに現われるのは同じ文様を持つ4つの花弁。「折花」の場合は、そこからさらに指で押したりつまんだりしながら立体の花を作っていきます。この切り方と折り方の組み合わせによって、実にさまざまな形の花を作ることができるのが特徴です。
とくに難しいのはカット。どの方向にどういうラインでハサミを入れるか、わずか1ミリずれるだけで出来上がるものは変わってしまいます。
似ているものがあるとすれば習字。
「習字は上手な先生が書くと壁に飾るような作品になるけれど、素人が書くとただのゴミになってしまう。折花のカットはこれに似ています」
そして新作の「折花」を生み出すことは「文字の発明にも似ています」と三谷さん。
「私自身も最初は何が隠れているのかわからなかった。だからありとあらゆるもの、想像できるものを片っ端からカットしていきました。そういう作業を繰り返して、その中からいい形やカットが生き残ってきた感じです」
最初の3、4年間はひたすらそうした「文字づくり」に傾注。それが今は「文章になって、そろそろ小説が書けるかな、というところに来ています」。
「小説になれば、折花の世界観がもっと広がって、次のステージにいけるような気がするんです」
「折花」を日本の新しい文化として発信していきたい

これまで数々生み出してきた「折花」のなかで、自他ともに認める最高傑作は「蓮の花」。「折花」の特徴である立体的造形がとくに美しく見えるこの作品は「デザイナーとしての30年のキャリアのうちでもいちばん優れている」と本人も感じています。
「母校の美大の同期の友人やデザイナー仲間たちからも、これは間違いなくデザイン史に残るものだぞと言ってもらえています。こんなものはデザイナーをやっていても一生に一度出会えるかどうか。これが生み出せただけでも折花には価値を感じています」
三谷さんが目標としているのは前述したように「折花」を「日本の新しいおもてなしの文化」とすること。そのために力を入れているのが「折花講座」です。国内では東京、京都、大坂、海外はパリやニューヨークなどでワークショップを開催。パリではモード学校の学生たちに、ニューヨークでは小学校の生徒たちにも折花の魅力を伝えてきたといいます。講座で初心者に手渡されるのはスターターキット。難しい「折花」ですが、「いろはの『い』のものだったら3歳の子供でも折ることができます」。あとはどれだけ繰り返すか。
「箸や鉛筆は頭で考えて持とうとすると難しい。だけど慣れてくると無意識で使えるようになりますよね。折花もそれと一緒。何百と作っていけば、そのうちテレビを観ながらでも折れるようになります」
三谷さんの講座では2017年以降は指導者の育成にも取り組むとのこと。
「2020年の東京オリンピックには日本の新しい文化として定着させていたい。そのためにはあと2年を目標に大々的に世界に発信していきたいですね」
最後に、「折花」をアロマディフューザーとして使うときのアドバイスをいただきました。
「垂らすのはほんの一滴。そうするとだいたい半径1メートル以内に香りが漂います。置き場所としておすすめなのは枕元やパソコンまわり。気持ちが安らぐはずです」
Information
- 折花 ORIHANA
-
日本に生まれた新しい文化「折花」。その魅力にもっと触れたいという方、自分でも「折花」を作ってみたいという方はぜひ公式サイトをご覧ください。「折花」講座のご案内もあります。
「折花」情報いっぱい。三谷さんのブログはこちらから。