特集
2017 Jun.15
Topic on Dream ~夢に効く、1分間ニュース~ Vol.190
作家・小牟田哲彦が選ぶ、“世界の感動鉄道5選”。豪華寝台列車も!

国内編「郷愁列車の旅」でも素敵な列車を紹介してくれた、作家の小牟田哲彦さん。小牟田さんは、これまで70か国以上(!)の鉄道旅を体験しています。その中から、驚きと発見に満ちた“世界の感動鉄道5選”を伺います。
①南国マレー半島を縦断する「オリエント急行」
一生忘れられない、豪華絢爛な鉄道旅を

オリエント急行といえば、アガサ・クリスティの小説でもおなじみの豪華寝台列車ですが、伝統的なヨーロッパ路線のみならず、東南アジアなどでも運行しているそう。
「アジア路線は、イースタン&オリエンタル・エクスプレス(E&O)といい、シンガポール~マレーシア~タイを2泊3日で縦断する豪華絢爛な鉄道旅が味わえます。各車両に専属のスチュワードがつき、ベッドメイキングから個室での朝食・アフタヌーンティーまで24時間かいがいしくサービスをしてくれます」
小牟田さんが泊まったのは、プルマンキャビンという最安の2人1部屋プラン。それでもなんと4,350ドル!


プルマンキャビン(左上)。最後尾の展望車から流れ去る景色を楽しめる。
「一番高いプレジデンシャルスイートは、2泊3日で1万ドル以上します。E&Oの醍醐味は、アジアの南国情緒を楽しみながら、ヨーロッパの洗練された社交文化を堪能できること。昼はオープンな展望車からジャングルや田園、寺院を眺め、夜はタキシードとドレスに身を包んでのディナー。食後はバー・カーでカクテルやウイスキーを傾けながら夜が更けゆくまで会話を楽しみます」
移動時間が、非日常の特別なものになるオリエント急行。E&Oなら日本から近く、リゾート感も味わえるのでおすすめです。
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②アフリカ大陸を疾走するサファリ・トレイン
「ロイヤル・リビングストン・エクスプレス」

「ザンビアの国立公園を駆ける蒸気機関車牽引の“サファリ・トレイン”。アフリカ大陸に落ちる夕日を眺めながら、食堂車でディナーを楽しむことができます。アフリカは、ヨーロッパからの観光客が多く、洗練されたサービスが充実しています。なかでもザンビアは、アフリカの中では比較的安全に旅できる国の1つです」


野生動物が活動するのは夕方以降が多いので、車内からインパラの群れが、また運がよければ象やキリンに遭遇することも!アフリカ大陸の自然を優雅に楽しむ極上旅となりそうです。
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③古都クスコから、チチカカ湖畔のプーノを結ぶ
標高4,000m超をひた走る「ペルー南部鉄道」

インカ帝国の都クスコと、チチカカ湖への観光拠点プーノを結ぶのが「ペルー南部鉄道」。
「富士山より高い標高を走り、南米の晴れ渡った青空と山脈を臨むことができます。展望車は自由に出入りでき、食堂車では豪華な食事やティータイム、フォルクローレ(民族音楽)の生演奏を楽しめます。海抜4,319mの最高地点駅では一時下車できるので、一日乗っていても飽きません」
クスコは、天空の要塞都市マチュピチュに向かう出発点で、クスコ~マチュピチュ間は登山列車が便利。南米の陸路の移動は一般的にハードですが、鉄道は、安全かつ快適な移動手段としてもおすすめだそうです。


アンデスの山岳地帯を走るプーノ行き列車。沿線最高地点のラ・ラヤ駅には海抜4,319mの表示が。
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④ダイナミックなループに息を呑む!
日本統治時代に築かれた「阿里山森林鉄道」

世界三大山岳鉄道の一つとして知られるのが台湾中部にある「阿里山森林鉄道」。
「日本統治時代に木材運搬用につくられた産業鉄道で、始発~終着駅の標高差は2,274mの急勾配。スパイラルループやスイッチバックが続き、だんだんと眼下にジャングルが広がってきます」
車幅762mmというナローゲージの軽便鉄道が、力強く山を登る様子は圧巻だとか。
「木材運搬用といいながら、たびたび旅客を乗せていたようです。当時の時刻表には、旅客も乗車できる便は“便乗”と書いてあります。“便乗”という言葉は、『ついでに客を乗せる』という意味の鉄道用語として使われていました」
平地から高山を登るため、熱帯・亜熱帯・温帯の森が見られる“森林鉄道”。昭和初期のガイドブックにも掲載されており、統治時代から風光明媚な観光地として知られていたそうです。


軽便鉄道らしく狭い車内。途中の奮起湖駅で売っている駅弁。なんと台湾の駅弁は温かい!
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⑤人情を乗せてユーラシア大陸を走る
国際列車「シベリア鉄道」の旅

「シベリア鉄道は、ロシア・中国・モンゴルなどをまたがる世界最長路線。ウラル山脈には、線路際に白いオベリスク(記念碑)があり、そこから西がヨーロッパ、東がアジアという道標になっています」
車幅が日本の在来線の1.5倍もある大きな客車で、車両ごとに飲用の湯沸かし器が設置され、真冬のシベリアでも暖房は万全。そして、北京~ウランバートル~モスクワ間では、国境を越えるたびに各国仕様の食堂車が連結されるのだとか。
「国境では、兵士が車内に入ってきて物々しい雰囲気になります。中央アジアの国では、カメラを手にしていただけで国境警備隊に連行されたことも。陸続きの国では、鉄道は重要な“軍事施設”でもあるのです」
そんな中でも、シベリア鉄道の楽しみの1つは乗客同士のコミュニケーション。
「地元民も利用するので、乗客同士がオープン。停車駅の物売りから食材を買って料理を始める中国人や、ウォッカで酒盛りをするロシア人まで。寝食をともにするので、言葉がわからなくてもいつの間にか仲良くなれます」


停車駅ごとに中国の行商人がホームで即席の市場を開く(左上)。シベリア鉄道の食堂車(上下)。
昔ながらのシベリア鉄道は人情もたっぷり、旅の出会いも楽しめそうですね。
みなさんも、鉄道ならではのディープで驚きに満ちた世界の旅を楽しんでみてはいかがでしょうか?

シベリア鉄道の終着、ウラジオストク駅。日本から3時間で行ける最も近い“ヨーロッパ”だ。
2017年8月から簡易ビザに切り替わる予定で、より渡航しやすくなる。
Information
- 作家・小牟田哲彦
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1975年東京都生まれ。早稲田大学法学部卒業、筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業法学専攻修了。近現代交通史や鉄道に関する研究・文芸活動を専門とし、紀行作品や論文を多数発表。1995年には、日本国内のJR線約2万キロを全線完乗。世界70か国あまりにおける鉄道乗車距離は8万キロを超える。
著書に『鉄馬は走りたい―南北朝鮮分断鉄道に乗る』(草思社)、『今でも乗れる昭和の鉄道』(東京堂出版)、『鉄道と国家―「我田引鉄」の近現代史』(講談社現代新書)、『世界の鉄道紀行』(講談社現代新書)、『去りゆく星空の夜行列車』(草思社文庫)など。