特集
2017 Jul.14
Topic on Dream ~夢に効く、1分間ニュース~ Vol.195
「沼津港深海水族館」に魅力を直撃。
深海生物=ぷよぷよ&のんびり派!?

静岡県に位置する内湾、駿河湾。実はここ、ラブカやメガマウスの生息も確認されている、深海生物の宝庫なんです。「沼津港深海水族館~シーラカンス・ミュージアム~」の館長・石垣幸二さんに、駿河湾のヒミツ&深海生物の魅力を教えていただきました。
駿河湾は、深海生物の聖地!
富士山も影響!?


静岡県沼津市内から臨む駿河湾と、「沼津港深海水族館~シーラカンス・ミュージアム~」。
駿河湾は、世界的にも“深海生物の聖地”として知られているとか…。そんな駿河湾の特徴とは…?
「駿河湾は、海底には駿河トレンチと呼ばれる大きな溝があり、最深部で水深2,500 メートル。湾としては、日本一の深さを誇ります。
ここには、静岡県を流れる川から、高い栄養分を含んだ水が流れ込んでいます。しかも駿河湾は、急深の湾。栄養分のある水が、深海までダイレクトに流れ込むのです。
水深100~120メートル地点で富士山からの湧水(ゆうすい)が湧き出ていることも、最近判明したんです。この水は、バナジウムが豊富。それらの養分のおかげで、多くの微生物が生息し、深海生物の宝庫となっているんです」

オロシザメ(トップ画像)が確認されたのは、世界で数例。うち5例は駿河湾で。
食用タカアシガニの漁獲量は、静岡県が国内トップ!
さらにサクラエビの漁を行なっているのは、国内で駿河湾のみ。
上で紹介した生物のほか、ボタンエビ、ユメカサゴ、アンコウ、アカムツ(ノドグロ)、キンメダイなども、実は深海生物!駿河湾に、こうした食用の深海生物を獲る漁船が多いことも、“深海生物の聖地”となった一因です。
「深海生物がいくらいても、研究者や捕獲する人がいなければ、生息を確認できません。
その点、沼津には100年以上も前から、深海生物を専門にした漁船がある。我々研究者は、そういった船をチャーターして、調査にいくわけです。外洋ではなく湾のため陸地が近く、調査に出やすいのもメリットですね」
そもそも“深海”って、どこから?

水深200~1,000 メートルに生息するとされる、ダイオウグソクムシ。
現在、水深10,000メートルでも生物が確認されているとのこと。では、どのくらいの深さから“深海”と呼ぶのでしょうか?
「日本の生物学では、水深200メートル以上の場所を“深海”と呼びます。水深200メートルだと、海面と比べ太陽光が0.1%に。これが、植物性プランクトンが光合成できる限界点。生態系がガラリと変わる境です。
当水族館では『深海生物とは、水深200メートルより深いところで“発見された記録”があるもの』と、独自の定義をしています」
意外にも、ぷよぷよ&のんびり、控えめ!?
深海生物の特徴とは…
深海生物の魅力は、なんといっても「ナニコレ!?」と驚かずにはいられない見た目。個性豊かな彼らですが、主な特徴には下記のようなものがあるといいます。
【深海生物の特徴】
①目:退化している/上を向いている/大きくて光る目


目が上を向いたホンフサアンコウ(左上)と 大きくて光る目をしたエドアブラザメ(右下)。
漆黒の世界ゆえ、自ら発光したり、発光物質を出したりする深海生物も。そうでない生物も、光のない環境に適応するため、目に特徴を持っています。
「深海生物の目には、主に3タイプあります。1つ目は退化した目。なかには、目があった痕跡しかない生物も。2つ目は、上からしか光が届かない深海で、自分より上にいる生物の影を見つけるために、上を向いた目。
3つ目は、ネコのように少ない光をキャッチできる、高感度の目です。ラブカなどもこのタイプですね」
②色:黒/グレー/透明・半透明/赤
「黒やグレー、透明・半透明は、保護色。実は赤も同様です。水深20メートルぐらいから、赤は紫に見えてくるんですよ。これは可視光線のうち、最初に水に吸収されるのが赤だから。赤ければ、深海で目立たずにいられるんです」
③質感:ガチガチ系/ぷよぷよ系

ゼラチン質なボディから、“コンニャク”の名がついた深海魚も。上は、コンニャクウオ属のサケビクニン。
水圧が高い深海。ガチガチの鱗で身を守る深海生物もいるものの、こちらは意外に少ない。逆に多いのが、ぷよぷよボディの生物です。
「空のペットボトルを深海に降ろすと、ベコベコになります。でも水で満たしておけば、水深1,000メートルでも潰れない。気体は水圧の影響を受けるけれど、液体=水・油・脂肪は、大丈夫なんです。
そのため、浅い場所と行き来する深海生物には、クラゲのような質感のものが多い。水っぽい体は、水圧の変化に対応できるわけです。また魚の体内で気体があるのは浮き袋だけですが、シーラカンスやハダカイワシなどの深海魚は、浮き袋のなかも脂肪で満たされ、浅い場所と行き来するのに便利な体の構造をしています」
④動き:スローでのんびり

石垣さんが大好きというメンダコも、普段は泥に埋まって過ごしている。
なかには「ちょっとコワイ…」と思わせる容姿の深海生物もいますが、石垣さん曰く、彼らの動きは総じてスロー。水族館見学者から、「生きているよね!?」との声を聞くほどとか。
「深海は生物層が薄い=競争社会ではないこと、視覚が利きづらいこと、水圧が高いことなどが理由。敵がいない分、無駄なエネルギーを使わないようにしているんです」
謎が多いからこそ、心踊る!
生きた姿から、愛らしさ&生命の神秘を感じて。

新ゴジラのモデルとなった、古代サメ・ラブカ。歯が3つに分かれ、エラが飛び出している。
現在、70種以上の深海生物を生体で展示する、沼津港深海水族館。飼育例の少ないデリケートな生物ばかりなので、苦労は絶えないそう。しかし“未知”こそが、深海生物の魅力とも。
「たとえばダイオウグソクムシは、国内の飼育で5年以上の絶食記録を残し話題に。しかし、なぜ絶食が可能なのかは未解明です。
またラブカは、似た魚がいないほどの魅力的な個性をもっています。当水族館では現在、雌から取り出した卵から、赤ちゃんが育っている最中。ボディは、成体のミニチュア版。無事に育って欲しいと願っています」
そんな石垣さんが、いつか飼育したいと夢を抱くのが、デメニギス。
「謎に包まれたデメニギスですが、過去には岩手県で網にかかったことも。ただし、頭部は破損していました。特徴的な透明な頭部(!)まで完全な姿で確認されたのは、ただ1度だけ。カリフォルニア湾の潜水艇が捉えた、生体の映像のみなんです。
駿河湾では、昔から深海生物が獲れましたが、食用になっていると姿全体はわからないし、昔は、図鑑で標本やイラストを見るしかなかった。
だからこそ、自分自身が深海生物から受けた衝撃を、水族館でみなさんにも伝えたい。生きた姿を見ればきっと、『こんなに愛らしいのか!』と、より興味が湧くと思いますよ」
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Information
- 沼津港深海水族館~シーラカンス・ミュージアム~
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駿河湾をはじめ、世界の海からやってきた深海生物を展示。また生体以外に、世界でも希少な冷凍個体をはじめ、5体のシーラカンスの展示も。CTスキャンにより再現した立体映像や最新のデータ、海中で泳ぐ姿をとらえた遊泳映像を見ながら、生体の謎に迫ることができる。
生物へのタッチをはじめ、さまざまなイベントも開催。また生体の展示は生物の状態で変化するので、ホームページで確認を。激レアなオリジナルグッズの販売も行なっている。