スルガ銀行 Dバンク支店

SURUGA d-labo. Bring your dream to reality. Draw my dream.

特集

特集TOP

2017 Aug.2
Topic on Dream ~夢に効く、1分間ニュース~ Vol.199

情景師のジオラマ世界!
妄想から生まれる物語で、日常風景をリアルに再現

情景師のジオラマ世界!妄想から生まれる物語で、日常風景をリアルに再現

昭和の街並みや空き地に放置された古い自動車などの日常風景を表現し、繊細でリアルな表現力で海外のジオラママニアやメディアの注目を集める“情景師・アラーキー”こと、荒木智さん。見るほどに引き込まれる、ジオラマの世界に迫ります。

妄想からリアルを生み出す!
日常の一瞬を切り取るジオラマとは

自宅アトリエ
自宅アトリエには、城、民芸品、フィギュア、アンティークなど
趣味の品々がずらりと並ぶ。
「アトリエは僕の脳内そのまま。好きなものに囲まれて暮らしています」

ジオラマ作家として国内外で活躍する荒木さんがジオラマに目覚めたのは、「ゴジラ」「ウルトラマン」など特撮映画が全盛期だった昭和40年代。当時、小学生だった荒木さんを夢中にさせたのは、ヒーローや怪獣ではなく、街並みのミニチュアだったといいます。

「子どもながらに『よくできた街だなあ』と思って見ていました。いつか自分もあの風景を再現してみたいと思い続けて、中学生の頃から本格的にジオラマを制作するようになったんです」

荒木さんがジオラマをつくるうえで、最大の原動力となるのは「妄想」だといいます。

「風景や造形を再現するだけでなく、人が生きていた日常の一瞬を切り取りたい。だから、その風景の中でどんな人が暮らし、どんな人生を送ってきたのかを妄想することから、ジオラマ制作が始まるのです」

ノスタルジックな雰囲気と、人の暮らしの気配を感じさせるのが荒木さんのジオラマの魅力。それでは、荒木さんの〈妄想deジオラマワールド〉に入り込んでみましょう。

【作品No.1】
ある男の若き日の夢が詰まった“てんとう虫”

“てんとう虫”こと「スバル360」とスクーター「ラビット」

草むらで朽ちゆく“てんとう虫”こと「スバル360」とスクーター「ラビット」が佇む風景は、“ある男の若き日の夢”を物語っています。

「ある男とは、実は僕の父。母と結婚して『ラビット』で通勤していた父は、やがて姉が生まれたころに、夢のマイカー『スバル360』を手に入れます。3年後に生まれた僕を乗せて、家族であちこち出かけました。この2台には、父が若き日に抱いた、家族への憧れが詰まっているのです。父の歩んできた歴史を表すために、あえて錆びて古びた姿で表現しました」

赤茶けて今にも崩れそうな車体ーーこのリアルな錆びは、荒木さんの得意とする表現の一つ。

「湿度の高い日本では、地面から湿気が上がり、車体の下から錆びが上がって剥がれていくことが多い。これを僕は“ペリペリ錆び”と呼んでいます。一方、ヨーロッパでは、湿度が低く日差しが弱いために雨水がたまり、トップや側面から錆び始める“ジワジワ錆び”が特徴です」

そういった緻密な観察力もまた、荒木作品の“リアル感”を生み出しているわけです。

製作過程作品に荒木さん夫婦を合成した写真
ボンネットから錆びがまわるヨーロッパ風の“ジワジワ錆び”()。
この作品に荒木さん夫婦を合成した写真。超リアル!()。

【作品No.2】
戦後の日本を支えた木造漁船『港の片隅で』

“『港の片隅で』

この作品は、北海道に現存する昭和の木造漁船の写真を見た瞬間、インスピレーションが湧いて制作したそうです。

「漁船は、昭和30年代頃までは木造でつくられていましたが、その後はFRPという複合材料に切り替わりました。当時は、戦後の食糧難が続いていた時代。肉も高価でしたから、魚は国民の貴重なたんぱく源だったと思います。戦後は、戦艦や兵隊さんに代わって、名もない漁船や漁師さんが国民を支えていた。その役割を終えた漁船への、哀悼の意を込めてつくった作品です」

この作品で苦心したのは、朽ちゆく木の質感をどう表現するかだったといいます。

「試行錯誤してたどり着いたのは『白ボール紙』。ボール紙は紙が何層も重ねられてつくられていて、そこを剥き出しにすると、木が朽ちて裂けていく様子とよく似ていたのです」

白ボール紙でつくられた漁船
白ボール紙でつくられた漁船。
紙の原料は「木」だから、これも一種の木造漁船?

【作品No.3】
男たちの戦いを描いた『トタン壁の造船所』

『トタン壁の造船所』

こちらも「漁船シリーズ」。昭和60年代の瀬戸内海の造船所が舞台になっている大作です。

「トタン壁に『藤後造船』とあるでしょう。ここは、戦時中に南方戦線でともに戦った、藤井さんと後藤さんが設立した造船所。彼らは戦線で、船や戦艦の修理を手がけていて、『お互い生きて帰れたら一緒に造船所をつくろう』と誓い合った戦友なのです」

そんな「藤井さん」も「後藤さん」も、「藤後造船」も、荒木さんの妄想の世界で生まれたとか。

「今は、藤井さんと後藤さんも半リタイヤで、息子さんの代に引き継がれています。時々、この造船所に立ち寄り、慌ただしく働く工員たちを眺めながら、激動の時代を振り返る。そんな物語が詰まっています」

まるで日活映画の世界!ジオラマが映画ロケのセットのようにも見えてきます。

ジオラマジオラマ

自分の生きてきた道がすべて、
ジオラマの表現につながっていく

荒木さん

最後に紹介した、藤後造船こと『トタン壁の造船所』は、サラリーマン時代に1か月かけて制作した作品。大手電機メーカーのデザイナーとして働いていた荒木さんは、2年前に会社を辞め、現在はジオラマ作家として活躍しています。なぜ、独立することを決めたのでしょうか。

「年齢的に、クリエイターから管理職へと移行しなければならない時期でした。現場から離れていると、自分の中でクリエイティブへの情熱が失われてしまう。会社員である前に、クリエイターでありたい気持ちが強かったのだと思います。

前職とは違う分野での独立でしたが、電機メーカーの開発部門にいたことから、玩具の開発やコンサルティングを頼まれたり、コーポレートイメージに使うジオラマ制作を依頼されたりすることも。「これまでの仕事の経験、趣味、自分の歴史が、ジオラマという表現に集約されていると思います」と荒木さん。

コツコツ続けてきた好きなことと人生の経験があいまって、見る人を感動させる作品が生まれています。

“てんとう虫”こと「スバル360」とスクーター「ラビット」
少年時代を過ごした熊本の風景を残した『西瓜の夏』。
人生の懐かしく輝かしい瞬間をジオラマに収めることこそが、
情景師アラーキーの真骨頂。

Information

情景師・アラーキー(荒木智)

ジオラマ作家。子供時代からジオラマに没頭し、タミヤモデラーズギャラリーなどで数々の賞を受賞。大学で工業デザインを学んだのち、家電メーカーのプロダクトデザイナーとして働きながら制作を続け、平成27年に独立。国内外で高い評価をうける。著書に、『凄い!ジオラマ』(アスペクト)、『作る!超リアルなジオラマ』(誠文堂新光社)がある。