特集
2018 Sep.28
SURUGA Cycle Journal Vol.28
夏の思い出をめぐる旅「天浜線ノスタルジックサイクリング」

突然ですがあなたは、“夏”といえば何が思い浮かびますか?
青い空に広がる入道雲、焼けた砂が広がるビーチ、プール帰りに食べたアイスの味、それとも汗を流しながら打ち込んだ部活動?
それぞれの心の中に浮かんでくるものがあると思います。
もちろん、私にも夏の思い出はいろいろとありますが、夏休みに遊びに行った“おばあちゃんの家”には特別なものがあります。同じように“おばあちゃんの家”に格別の思いをもっている人もかなりいるのではないでしょうか?
子供のころは遊びに行くのが楽しみで「あれもしたい、これも食べたい」とワクワクしながら訪れていたのを今でもはっきりと覚えています。
そのおばあちゃんの家があるのが、今回鉄道と自転車を組み合わせて旅をした「天浜線」の沿線にあるのです。天浜線とは正式名称が「天竜浜名湖鉄道」といって、静岡県掛川市の掛川駅から湖西市の新所原駅まで、39の駅で構成されたローカル線です。
天浜線は1935年(昭和10年)に掛川・遠江森間の12.9kmが開通し営業を開始しました。1938年(昭和13年)には三ヶ日・金指間13.8kmが開通、そして1940年(昭和15年)に掛川・新所原67.9km全線が開通しました。天竜浜名湖鉄道という会社名は1987年(昭和62年)からで、時代の移り変わりと共に車両編成も変化し、現在はディーゼル車両1両編成で運行しています。天浜線の施設には、36件にも及ぶ国の登録有形文化財が存在し、文化財巡りの乗客も年々増えています。また、沿線には大河ドラマの舞台となった地もあり、週末には観光の乗客で賑わいを見せています。鉄道としてのキャラクターと、沿線の自然環境、ドラマ効果が相乗効果を生み、最近はメディアに登場する機会も多く、天浜線に熱い視線が集まっています。

夏になるたびに乗っていたこの鉄道に乗ってみたいという気持ちと、最近、天浜線がサイクリストにやさしいサービスをしている、という話を聞き付けて、昔の夏の思い出にひたるため、新幹線を使って天浜線の始発、掛川駅に向かったのでした。
天浜線の旅、ナビゲーターは西選手

そういえば、自己紹介がまだでした。掛川駅に着くまでにまだ時間があるので少し自己紹介をします。
私は自転車選手をしております、西 加南子と申します。出身は掛川市(実は今回は地元をめぐる旅、というよりも帰省という言い方がぴったりくるかもしれません)。選手生活、四半世紀。台頭してくる若手に混じりながらも、負けじとまだまだトップで走り続けています。
普段のレースはロードバイクで走っていますが、今回の旅の相方はイタリアの自転車ブランド、デローザのランドナータイプのバイクです。今回は列車に揺られながらの、のんびり旅。気負わずに乗れるものが最適と思って選んでみました。
そうこうしているうちにもう掛川駅です。新幹線だとあっという間ですね。私の話は旅の途中にでもまた。まずは降りる準備をしないと!!
スタートは掛川駅


スタート地点は、私の出身地の掛川から。ここで自転車を組み立てて、出発したいところですが、今回はのんびりの旅。デローザを輪行袋にいれたまま、天浜線に乗り込みます。


“ノスタルジック”と評される天浜線ですが、駅舎が国の登録有形文化財に登録されているものが多く、はじめて訪れても懐かしさを感じる人が多い路線です。また歴史的な建造物だけではなく、東側は田園風景が、西側は車窓から浜名湖の景色が広がり、自然が豊かな鉄道としても知られています。皆さんもよくご存じのみかんで有名な「三ヶ日」も西側にあります。
そんな天浜線、実は自転車が持ち込みやすいカバー式輪行バッグの無料貸出サービスも行なっています。デローザは輪行袋のまま持ち込みましたが、もし輪行袋がない場合でも前輪だけを外した状態で、自転車をカバーする輪行袋を貸し出しています。


このサービス、すごくよくできています。輪行袋は緩衝材が入っていて、スタンドでしっかりと自立する構造になっているので、自転車同士がぶつかったり、車両にぶつかったりして傷がつくことはありません。自転車を気にせずに車内の席にゆっくりと座って天浜線の車窓から見える原風景を存分に楽しめるのです。


いかにも“サイクリストファースト”なサービスですが、やはり自転車好きが開発したものでした。天浜線社内のサイクリストが発案し、地元浜松のサイクルショップ「ミソノイサイクル」さんの協力を得て実現。しっかりと自転車が固定されることで、サイクリストだけではなく、ほかの乗客にも優しいサービスです。自転車はいつも、車道をクルマとどうシェアするか問題になりますが、天浜線の車内空間のシェアは問題にならなさそうですね。
おばあちゃんの家”がある原谷(はらのや)駅

最初の降車駅は「原谷駅」です。ここは夏の思い出の中心地。今も親戚が近くに住んでいるので、地元感の強い場所です。ここからは自転車を組み立てて、のんびりめぐることにします。
長福寺は原谷駅から800mほど。自転車ならあっという間。子供のころはもっと遠くに感じたような気がしましたが・・・。味のある石段やよく手入れがされている本堂など、昔の記憶がよみがえってきます。



子供のころによく遊んだ長福寺の石段。境内で木登りもよくしました。
遠江一宮駅は家族との思い出がたくさん


おばあちゃんの家の思い出に浸った後は、また原谷駅に戻って列車を待ちます。次は遠江一宮駅。ここも私と私の家族にとって思い出深い駅です。
天浜線の36施設が国の登録有形文化財に登録されていて、遠江一宮駅もその一つ。木造平屋建の駅舎本屋の外壁は縦板張りで、昭和15年に建設された当時の雰囲気が色濃く残り、いつまでも佇んでいたくなります。
遠江一宮駅から、7kmほどの場所にある「小國神社」は家族で初詣に来ていた神社、「大洞院」のお守りは毎年、母が買って送ってくれています。





小國神社は大きな鳥居が印象的なかなり由緒ある神社です。
「願い事を待つ神社」または、「願い事のままに叶う神社」ともいわれており、人々の願いを成就してきたそうです。鳥居をくぐり一直線に伸びた参道を歩いていると、神社を囲む森から神々しくも静かなパワーを感じます。
小國神社の打田さんのお話では、これほど真っ直ぐ社殿に続く参道は全国的にも珍しいそうです。
土地柄、徳川家とのつながりも深く、家康が天下人になる前に座った石もあります。



大洞院は清水の次郎長の子分のひとり、森の石松のお墓があることで有名。
昭和の初めのころから、彼のお墓を削って持つと勝ち運に恵まれる、という噂が立ち、墓を削る人が続出。 今のお墓は3代目とのこと。すごい人気ですね・・・。という私もここのお守りを毎年、母が年の初めになると送ってくれて「勝負のお守り」として持っています。お守りは石入りなんです。
本社がある天竜二俣駅

大洞院を訪れた後は自転車で、天浜線の本社がある天竜二俣駅まで。特に先を急いでいるわけでもありませんが、自転車の方が早い場合もあります。 こういう使い方ができるのも、自転車×鉄道旅の楽しみでもありますね。走るといっても20km弱なので自転車でもたいしたことないですし、そろそろ走りたい気にもなってましたし(笑)。




ちょうど天浜線の長谷川社長とお話しすることができました。
「遠州の里山、田園風景を眺めながらの輪行は、日本の原風景に出会える旅です。
サイクリストのみなさんをお待ちしています!」と長谷川社長。


この駅ではカバー式輪行バッグ無料貸出サービスを考案した澤井さんから考案時のポイントを伺うことができました。
「天浜線は一両編成なので、一般のお客さまとサイクリストが一緒に安全に、お互い気持ちよく乗っていただくことがテーマでした。また、後輪を外すことに慣れていないサイクリストが車内で不安定な自転車を簡単に固定する方法、それから万が一、お子さんが自転車に接触しても怪我をしないようにする方法、この2点を解決するアイデアとして導入を決めました。もっと多くのサイクリストにこのサービスを知っていただき、サイクリストに限らず多くの方に天浜線の日本一の原風景に出会う旅に触れていただきたいです。」


鉄道については疎い私ですが、その価値を感じずにはいられない天竜二俣駅の扇形車庫。

この転車台が回転して、1台ずつ扇形車庫から列車が出発していきます。
天浜線の西側、奥浜名は歴史とグルメの街
天浜線の長谷川社長、さらには澤井さんから「この先の西側もなかなか良いですよ!」という情報を得て、急遽訪れてみることに。
立ち寄ったのは「都田駅」「気賀駅」「三ヶ日駅」。都田駅は駅舎とカフェが一体になっていて、カフェはマリメッコが使われ駅舎全体にデザイン性があり、全国でもかなり珍しい駅。地元の人はもちろん利用していますが、シャワールームもあり、サイクリストの休憩スポットとしても人気です。




実はこちらのカフェは地元サイクリストの渡辺さんから教えていただきました。
渡辺さんと話が盛り上がり、一緒に天竜をサイクリングすることになりました。
その模様はまた次回にでも。


国の登録有形文化財に登録された気賀駅の本屋やプラットフォーム。昭和13年に造られた駅です。
気賀は井伊直虎ゆかりの地で、大河ドラマで有名になりました。無人駅、ということろがまた旅情を誘います。


東海道の交通の要所だった浜松。
浜名湖の渡しを避けるために(船で湖を渡るのは危険だったようです)、
山側のルートに設けられたのが気賀の関所です。
全国53か所に設置された関所のうちでも、東海道の関所と同じく、重要な関所と位置づけられていたそうです。




浜松は六百年もの間、歴史をつないできた井伊家の出生地。
井伊家の菩提寺である龍潭寺(りょうたんじ)も浜松市北区にあります。
ここの一番の見どころは東海一の名園と言われる本堂北庭として築かれた龍潭寺庭園です。
枯山水は浜名湖の形になっています。こんな素晴らしい場所だったとは・・・時間を忘れて見入ってしまいました。


井伊谷宮
龍潭寺のすぐ北にあります。
動乱の南北朝時代に、征東将軍として活躍した後醍醐天皇の皇子 宗良親王をご祭神としている。
1872年創建されたそうです。
旅のシメは“三ヶ日バーガー”
最後に訪れたのが三ヶ日駅です。龍潭寺の最寄り駅、岡地駅から7つ目。岡地駅からは車窓に浜名湖の景色が広がります。少し傾きつつある太陽に向かって、入り組んだ奥浜名の地形に沿って列車は進みます。天浜線は1両編成。小さい姿が西日を浴びて、木々にその影が映し出されるとなんとも可愛らしく感じました。

天浜線の駅ナカは地元浜名湖産の鰻やお蕎麦など、グルメで楽しめるお店がたくさんあります。天浜線の長谷川社長のおすすめの三ヶ日駅グラニーズカフェへ向かいました。ご当地グルメは今時珍しくないですが、グラニーズカフェの三ヶ日バーガーはその成り立ちが珍しいハンバーガーです。なんと地元の中学生が、地元のことを考えて生み出したものなのです!今では三ヶ日の周辺にいくつもハンバーガーショップがあり、ここはその中でもかなり有名なショップなのです。
三ヶ日バーガーを名乗るための条件は主に以下のとおり(ほかにもあるようですが・・・)。
- 三ヶ日牛で作る
- 三ヶ日ミカンを使う
- 開発した中学生の思いを届ける
ハンバーガーに三ヶ日みかんを使う、というのも珍しいかもしれないですね。でも浜名湖といえば「うなぎ」。ハンバーガーでシメることは旅の最初には思いもよらなかったことですが、これも予定を決めない、のんびり旅のいいところ。


「グラニーズカフェ閉店」の話を聞き、お店のファンだった長谷川さん(右)が
前オーナーから引き継いで今も営業を続けています。自家製野菜がとってもおいしかった!
実際に目の前にしてみると、すごいボリューム。一口かぶりついてみると、三ケ日牛のうまみが口に広がります。「食べきれるかな?」とはじめは思っていたのですが、脂がまったくしつこくなく、ペロッと完食してしまいました。
私にとってはかなり思い出深い路線ですが、ローカル線の中でも、天浜線はあまり知られていないかもしれません。でも改めて訪れてみて、
- 掛川から北遠の山々の麓に広がる自然豊かで歴史が感じられる鉄道歴史遺産
- 乗客みんなに優しい輪行袋のサービスなど自転車で訪れやすい
- 東京からも近い
- 昭和の時を刻む趣のある駅舎に併設する駅ナカグルメ


以上のことが分かりました。今回はぶらっと旅しただけなので、きっとまだまだ楽しいスポット、走りごたえのある峠などもたくさんあると思います。今度はロードバイクで“走ること”も考えて訪れてみるのもいいかな、と思っています。
鉄道好き、自転車好き、歴史好きも楽しめる天浜線、一度訪れてみませんか?
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- DE ROSA(デローザ)
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1953年に創立したイタリアンブランドの雄。ハートのロゴマークでも知られ、これには、フレーム作りは最新の技術や素材でなく、自転車への情熱が大切という思いが込められている。大量生産をせず、一台一台を丁寧に製作する職人気質を貫いています。
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Information 4
- スルガ銀行 掛川支店&天竜支店
-
天浜線の掛川駅、天竜駅の両支店にはサイクルラックを設置。「サイクリストウエルカムな支店」として全国でも珍しいサービスをしています。今回の旅で西さんにも立ち寄っていただきました。
スルガ銀行掛川支店スタッフ
スルガ銀行天竜支店スタッフ