湯河原らしい支店を、という思いが足湯に?

地域に溶け込む和風のデザイン、自転車愛好者のためのサイクルステーション、定期的にオープンする足湯、節電・省エネといった環境への配慮——まるで最新の自治体施設のようだけれど、これらは2013年に移転新築した「スルガ銀行 湯河原支店」の特長である。このユニークな湯河原支店の設計を手がけたのが、一級建築士の資格を持つ彼だ。

「スルガ銀行では、地域との関係性など“その地域にとってどういう店舗であるべきか”から店舗設計を考えるようになっているんです。湯河原支店については、100年もの間、温泉旅館の方々をお客さまに営業を続けてきました。だから、温泉街に溶け込み、温泉に関するPRもできるような形で会社の想いを実現し、地域と共存できる店舗にしたかったんです」

とはいえ、「銀行に足湯をつくる」といった発想が簡単に実現できるわけでもないようで、試行錯誤を続ける中でようやくコンセプトを形にするまでにこぎつけたという。

「足湯はたまたま温泉使用権のある土地だったから、有効活用しようとしただけなんですけどね。でも、店舗の中に温泉をつくるわけにもいかないし、足湯にしたところで銀行のお客さまのための足湯でなければ意味がないし、現在の形に至るまでには何案もプランを提案しました」

その結果、社員の運営や清掃の面も考慮し、足湯はお客さまが集まる年金支給日を基本に2か月に1度くらいのペースでオープンすることになった。ところが、この足湯が評判を呼び、最近では銀行の営業日は毎日足湯をオープンするようになったのだとか。

「最近では、湯河原支店だけではなく他の部署が、併設するサイクルステーションで開催するサイクリングイベントにあわせて足湯を用意したりすることも増え、活用していていただいているようで嬉しいです。。支店の方には負担をかけて申し訳ないんですけど……ただ、支店の人も楽しんでくれているところはあるみたいなので、これからもできる範囲でたくさんの方に体験してもらいたいなと思っています」

建築を通じて、お客さまが楽しく集まれる空間をつくりたい

こうして建築のスキルを武器にお客さまとの新しいコミュニケーションを提案している彼だが、一級建築士の資格を取得したのは、出来心に近かったそうで……。

「大学で建築学科を出ていますが、入社時は一級建築士の資格を持っていませんでした。仕事では建築に関わる仕事をさせていただいていたのですが30歳前後のころ、同じ建築学科を出た友人たちが集まるたびに、一級建築士を取れたかどうか探り合っている様子をみて、それだったら、自分が一番に取ってやろう、と思ったのが勉強を始めたきっかけです(笑)」

その後実際に2年間勉強を重ね、一級建築士の資格を取得。
一級建築士の資格を取得するには、建築現場での仕事の経験も求められるため、いろいろな経験を積ませてくれ、資格取得をサポートしてくれた会社には魅力的な店舗づくりで期待に応えていきたいと彼は考えています。

「お客さまにとっての夢先案内人になれているかはわかりませんが、銀行とお客さまが共存できる場をつくりたいという思いはあります。銀行ってやっぱり敷居が高そうだし、つまらないじゃないですか。でも、そういうイメージを打破したいんですよね。私は、スルガが思い描く社員もお客さまも楽しめる場所、人が集まる空間をつくりたくて、今も試行錯誤しています」

お客さまと銀行を結びつける空間をつくるために奔走する彼。土地の価値や人の流れ、店舗の収支などに頭を使うことも増えたが、一方でささやかなサービスで人を楽しませようとする気持ちも忘れない。

「湯河原支店で唯一悔いが残っているのは、温泉たまごがつくれなかったこと。箱根の黒たまごみたいなものがつくりたかったんですけど、お湯の温度が低くて。でも、低温でじっくり温める方法もあるんじゃないかとか、まだあきらめきれていないところがあります(笑)」