首都高とジャングルが混ざり合う不思議な光景の中で

無類の釣り好きでも知られる小説家の開高健は、『フィッシュ・オン』の最後にこう記しています。

〈釣りと戦争。こう二つ並べて書くと両極端のようだけれど、現場ではしばしば共存している。（中略）ヴェトナムで何度となく目撃したことだが、水田戦のおこなわれているさなかにちょっとよこでホー・チ・ミンひげのおじさいさんがゆうゆうとライギョのポカン釣りをやっているのである〉

引用文献：『フィッシュ・オン』開高健著／新潮社／1974年

釣り好きというのは、環境や状況に拘らず、その場所に釣りスポットがあれば竿を出さないわけにはいかない。そんなことを表している一節ではないでしょうか。まさしく、ここ永田町駅や赤坂見附駅から徒歩1分にある弁慶フィッシングクラブも同じです。

弁慶フィッシングクラブのスタッフの方に聞けば、「ランチタイムに釣りする人もいないわけではないですが、どちらかと言うと営業の合間に釣りをする人のほうが多いですよ。たまには“長めの息抜きも”という感じで（笑）」と言います。毎日一生懸命働く東京のビジネスパーソンには、息抜きも必要でしょう。ということで、たまのルアーフィッシングならばご愛嬌！？

池の奥の方へボートを漕いでいくと、本当にここが東京の“ど”真ん中！？と疑いたくなるような光景が広がります。私はかつて、マレーシアの奥地にあるダム湖で釣りをしたこと（トーマンというライギョを狙って）がありますが、その光景と見紛う雰囲気です。

左上がマレーシア、右下が今回釣りをした弁慶フィッシングクラブ

今回使ったルアーは、スタッフの方のアドバイス通り、小さなラバージグ（通称：スモラバ）を使いました。スモラバとは、小エビや昆虫を模した疑似餌のことで、フサフサした細い糸がたくさんついているのが特徴です。

「正直、この時期のこの時間（8月の真っ昼間）に釣るのは、正直厳しいと思います。夕方頃になればけっこう釣れるんですけどね。ただ、釣れないこともないです。ウィード（藻）の中に、スモラバを丹念に入れ込んでいけば、時々良いサイズのブラックバスが釣れますよ」

本当は私も釣りやすい夕方に来たかったところですが、今回は一応ランチタイムを想定しているため12時に釣りを開始（終えたのは13時半と、ランチタイムをオーバーしてしまいましたが……）。35度を超える猛暑の中、予想通り釣れませんでした。魚の姿は見えたのですが、どの魚も暑さにグッタリしている様子。人間と一緒ですね。とは言え、まわりでは釣れている人もいたので、言い訳はこのへんで終わりにしておきましょう……。

さて、この場所では、手漕ぎボートでの釣りと、桟橋からのエサ釣りができます。弁慶フィッシングクラブによれば、ブラックバス、ホンモツゴ、ライギョ、鯉、ブルーギル、スッポン（！？）などが釣れるそうです。

実は、歴史的にも興味深い場所である

では、そもそもなぜこんなところにポツンと池があるのでしょうか。実はこのあたり、昭和31年に指定された国史跡で、江戸城外堀跡・喰違見附と言います。1636年に、江戸城内郭と城下を取り巻くようにつくられた濠のうちの一部なのです。つまり、昔は冒頭に書いた市ヶ谷の釣り堀のある新見附濠と繋がっていたのです。

そんな歴史的な場所、しかも現在はビジネスパーソンたちが行き交う足元でのルアーフィッシング。これはまさに、開高健が語った戦下での釣りにも通じるものがありそうです。

弁慶フィッシングクラブでは、1時間1,200円、1日で2,800円にてボート釣りができます。貸し竿のサービス（650円）もあるので、手ぶらで行っても楽しめます。

「今月は、仕事の調子が悪い」。そんなときは、ここ弁慶フィッシングクラブで、頭をリフレッシュさせてもいいでしょう。たとえ魚が釣れなかったとしても、案外、良いアイデアが生まれるキッカケになったりするかもしれません。

文・遠藤由次郎

Information

弁慶フィッシングクラブ

http://maidokun.com/benkeifishing/

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