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2012 Dec.11
長崎360°
~日々の不思議の謎を解く~ Vol.1

ラーメンは”麺を泳がせる”から学ぶこと

コミュニケーション・プランナー長崎某が、日常の些細な出来事を針小棒大化しつつ社会学的なアプローチを試みる新コラム。第1回は、ラーメン屋の仕事から時間を考える?というアプローチ。さて、どうなることやら。

ラーメンは”麺を泳がせる”から学ぶこと

毎日食べ歩かなきゃ、というほどラーメン好きではないけれど、東京ラーメンの西の総本山・荻窪で育ったからか、ラーメンは定期的に食べたくなる。というか、ラーメン店でオヤジの手つきをカウンター越しに見ているのが好きだ。が、しかし…。

昨今のラーメン店ではその楽しみが半減している。それは、テボと呼ばれる一人前ずつ茹でる小さなザルに麺が押し込まれて茹でられるからだ。

だめでしょ、あれは。麺は大きな鍋で泳いで、みんな仲良く茹でられて美味くなる。一人用のザルの中では充分に麺が泳がず、ザルにぶつかって傷ついちゃうは、均等に茹でられないはで、麺自体のクオリティが下がることは火を見るよりも明らか。

もちろん、一人用のザルにもメリットはあって、タイマーで茹で時間を計れば誰でもラーメン職人風になれるし、次から次へとやってくるお客さまをさばきやすいと言う店側のメリットは多大だ。つまり、回転率を上げたり、チェーン店化するには欠かせない要素というわけだ。

ところが一度に数人分を茹でつつ、平ザルで一人前ずつ、チャッチャと取り分けるには修行も熟練も必要だから、そう簡単にはいかない。相当なテクニックが必要になる。茹で時間を見極め、一人前ずつ目分量でまとめて湯切りをする。誰でも今日明日からできる訳でもないし、一度数人分を茹で始めると、次のお客さまは待たせなければならない。非効率ですよね。でも、たっぷりのお湯の中で自由に泳いだ麺の方が圧倒的に美味しいのも事実。

さて、これは効率化とクオリティの戦いでもある。テボという道具は元からあったものではなく、効率の追求によって生まれたものだろう(その代表が立食い蕎麦店でしょうね)。あ、パスタ屋さんでも使われていますね。あれもダメ。パスタこそたっぷりの湯の中で泳がないと、元は乾麺なんだから茹でムラができちゃうのは必至。

話は戻って、効率化。ラーメンは基本的に麺とスープと言う2つの要素から成り立っているワケだから、その麺の味が効率化によって犠牲になるなんて、許せない事態。では、効率化の反対側にあるものはというと、時間だ。ラーメンの場合、待つという行為。有名店なら30分くらいは平気で待つでしょ?ならば、席に座っての数分ないしは10分程度どうってことないでしょ。

この待つという時間が、口内の幸福への期待値を上げるワケですよ。ラーメンに限らず、ネット通販だと品物が届くまで、レストランでのメイン料理へのステップ、好きな服のお直しが出来あがるまで、さまざまなシーンで待つことで得られる、より高い満足があるのでは、と思う。もちろん、店側の待たせたくないとか効率化したいという気持ちも分かる。けれども、麺は絶対に泳がないと美味しくならない。

ネット社会になって、即座にニュースやさまざまな反応が得られるようになって、一見、スピードこそが命のようになってはいるが、しかしアクチュアル=リアルには反効率化で得られる高い満足感がなくちゃ生き残れないのでは、という気がする。

ラーメンの名店、渋谷のKで、平ザルを見事に返すオヤジを眺めながらそんなことを考えた、初冬の夕暮れ。

文 長崎 義紹(PARAGRAPH)