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2013 Mar.17
お気に入りの1冊 —My Favorite Book—

アントレプレナーシップを教えてくれた1冊
『成りあがり』 矢沢永吉著

読書は人生の糧であり、本はときに「夢」へと進む自分を導いてくれる「師」となってくれます。このシリーズは各方面で活躍されているみなさんにそうした自分にとって唯一無二の本、「お気に入りの一冊」をご紹介いただくコーナーです。第1回目のゲストは企業再生のエキスパートであり起業家育成に力を注ぐコンサルタント・加藤崇氏。「人生のロールモデルになってくれた」という『成りあがり』についておおいに語っていただきました。

語り手
加藤崇(株式会社加藤崇事務所代表取締役)
聞き手
鈴木大介(スルガ銀行d-laboスタッフ)
アントレプレナーシップを教えてくれた1冊 『成りあがり』 矢沢永吉著

リアリティーの中を生き抜くために

鈴木今日お持ちいただいた『成りあがり』は1978年刊行の初版だそうですね。この本とは、いつ、どこで、出会われたのですか?

加藤初めて読んだのは高校生のとき。自宅の母親の本棚にあったんです。この本は矢沢永吉さんが生まれてから28歳までの軌跡を糸井重里さんがインタビューしてまとめた1冊で、広島の貧しい少年が苦労に苦労を重ね、上京し、音楽でスーパースターになるまでの話が描かれています。母は矢沢さんと同じ歳。父と離婚して女手ひとつで僕と姉を育てていくなかで、矢沢さんの苦労がどこか自分と重なるものがあったのでしょうね。僕は母以上に衝撃を受けて、何度も繰り返して読みました。

鈴木どんな部分に衝撃を受けたのでしょう。

加藤やはり貧しかった自分の境遇と似ていると感じたのです。矢沢さんの場合は僕よりももっと環境が厳しくて、両親がいなかったため親戚の家を転々としていた。それで横浜に出て来て、バンドを組んで、キャバレーで演奏したりしながら、いろいろはったりをかけてビッグになっていく。いわば貧しさのなかで這い上がったヒーローですよね。「あ、貧しくてもこんなふうに自分の手でメシを食っていけるんだ」と感動した。僕にとっては初めての「ロールモデル」と言える人でした。しかも、この本を読むと世間で思われているロックンローラーの『矢沢永吉』とは違うイメージの『矢沢永吉』がいる。『矢沢永吉』という人は実にロジカルでナイーブで、音楽をビジネスとして捉え、そして長者番付で1位になるという成功を収めている。僕はこの本で初めて「アントレプレナーシップ」というものに出会えた気がしています。

鈴木本のなかで印象的なエピソードがあったら教えてください。

加藤矢沢さんが小学生のときのエピソードが心に残っています。金持ちの子がケーキを土産に遊びに来たかと思ったら、彼の顔にバーンとそのケーキをぶつけるのです。普通の人なら悔しくて怒るはずなのに、少年だった矢沢さんはそれよりも相手の少年に早く立ち去ってほしいと願うのです。なぜかというとその潰れたケーキが食べたいから。貧しさというものはこんなふうに人間の行動も哲学も変えてしまうのです。それともう1つ、上京した矢沢さんが親戚の家に預けていた楽器を取りに帰る場面。現われた矢沢さんに親戚はこう告げるのです。「これは自分たちのものだ、ほしければ売ってやる」と。人間のいやしさ、あさましさがよく描かれている。僕もベンチャー企業の社長をやったときはこの種のリアリティーにさんざんぶつかりました。そのなかで媚びて笑う自分を見つけたりもした。そういう自分を飼い馴らしてリアリティーのなかで生きていくということを、この本の一行一行が教えてくれました。

「最初、サンザンな目にあう。2度目、オトシマエをつける。3度目、余裕。こんなふうにビッグになっていくしかない。それには、サンザンな目に会ったとき、落ちこんじゃだめだ。
どうして落ちこまないか。はっきり目的があるからだよ。」(『成りあがり』より抜粋)

鈴木なるほど、矢沢節ですね(笑)。加藤さんの著書の『THINK BIG -僕たちにもできる起業-』にも通じるものがありますよね。

加藤『THINK BIG』は起業を目指す人向けに書いた本です。「ビジネスの役に立った」とおっしゃってくださる方もいれば、「勇気づけられた」「背中を押してもらった」といった感想をお寄せくださる方もいます。矢沢さんは「貧しくても大きくなれる」というフレームワークを張ってくれた。僕は大学で物理を専攻していたこともあり、非常に理屈っぽい人間なので、そこにプラスして実業の世界で成功するための具体的な階段を見せようとこの本を書いたのです。書いてみて気付いたことは、「これは『人間心理』の話だ」ということ。ベンチャーを始めるときに大事なのは「不確実な世の中をどうやってリアリティーを持って生き抜くか」という点。著者としてはこの本が起業家になろうという人たちのOSになってくれればと願っています。

加藤崇さんインタビューの様子

子を持つ父親として手に取った1冊

加藤崇さんインタビューの様子

鈴木本は1か月に何冊くらい読まれていますか。

加藤いちばん読んでいた頃で月に15冊。うちは祖父も母も大の本好きで、僕にもその血が流れているのです。今も時間さえあれば本を読み、気に入った箇所にはオレンジの蛍光ペンで線を引いています。

鈴木最近読んだ本でおもしろかった本はありますか。

加藤河合隼雄さんの『Q&A こころの子育て -誕生から思春期までの48章』ですね。これは子を持つ父親として手に取った1冊なんですが、読むと意外なことに経営に活かせるエピソードが満載でした。人間というのは八方塞がりのときは思っていることと逆のことをやったりする。子供との接し方は、上司が部下と接するときにも当てはまる。すごくいい勉強になりましたね。

ある大学生は話を聞いているうちに「ぼくは楽しみのためにパチンコに行ってるんじゃなくて、パチンコを苦しみに行っているような気がする」と言いました。嫌なのにやめられない、と。そして「やめたら家に帰らないかん。それがかなわん」。(『Q&A こころの子育て -誕生から思春期までの48章』より抜粋)

鈴木今日はどうもありがとうございました。

<今回紹介した本>

『成りあがり How to be BIGー矢沢永吉激論集』(矢沢永吉著/角川文庫)
※インタビューで紹介した『成りあがり』は小学館から刊行されたもの。現在は角川書店より文庫版が発売中。
文庫版はd-laboコミュニケーションスペースにも所蔵しております。

『Q&A こころの子育て -誕生から思春期までの48章』(河合隼雄著/朝日文庫)

加藤崇さんインタビューの様子

Information1

株式会社加藤崇事務所代表取締役 加藤 崇(かとう たかし)氏

早稲田大学理工学部応用物理学科卒業。オーストラリア国立大学経営学修士(MBA)。株式会社東京三菱銀行、技術系ベンチャー企業社長、高級スーパー「成城石井」と焼肉の「牛角」を傘下に抱えていた当時の株式会社レックスホールディングス執行役員を歴任し、2011年に株式会社加藤崇事務所を設立。経営コンサルタントとして活躍しつつ、若者のベンチャー創造に関する教育にも力を入れている。著書に『THINK BIG(シンクビッグ) -僕たちにもできる起業-』がある。

Information2

d-laboコミュニケーションスペース

加藤さんの熱いトークはいかがでしたか?インタビューの場となったd-laboコミュニケーションスペースはどなたでもご利用いただけるフリースペースです。「夢・お金・環境」をテーマにしたLIBRARYの蔵書は1,500冊。GALLERYには書評サイト「HONZ」で紹介されたおすすめ本約600冊を所蔵。その他にも本日ご紹介いただいた「成りあがり」なども所蔵され、本好きにはたまらない空間です。また文化、芸術、スポーツ、最新トレンド等さまざまなテーマのセミナーも頻繁に開催。場所はミッドタウンタワー7F。平日の他、土曜祝日もオープンしています。

夢研究所「d-labo コミュニケーションスペース」

詳しくはこちらから
https://www.surugabank.co.jp/d-bank/space/

文 中野渡淳一