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まわりの評価でなく住む人のメリットを考える

仕事中の本間さん

 大学在学中には、さまざまなコンペに参加したという本間さん。しかし回を重ねるにつれ、モノづくりへの思いはだんだんと冷めることになったといいます。

「人が暮らす本当の豊かさを考えるよりも、まわりからの評価にとらわれているように感じられてきたんです」

 理想よりも評価を気にしなくてはならないことがつづき、その本来の目的とのギャップに、本当にやるべきことを見失っていたときもあったそう。

「住まいという“モノづくり”は、本来、そこに住む人の暮らしをより良くするためのものです。その原点に立ち戻り、まわりの評価ではなく、心のありようを大切にしようと考えを変え、吹っ切ることにしました」

 それからは住まいや暮らしを考えることを、心から楽しめるようになったと本間さんは話します。

 大学を卒業すると公共施設やマンションといった大型の建築を手がける建築事務所に就職しましたが、「もっとお客さまとダイレクトに触れあう住宅を手がけてみたい」と改めて強く思うようになり、現在勤める一級建築士事務所『スタジオ宙』に転職を決意しました。

「スタジオ宙に入社する前に、代表が雑誌記事で『住宅をつくるときに、お客さまと一緒に“面白がる”』ということを言っていました。この言葉こそが、ずっと自分が求めていたものだと思いました」

建物と住む人の暮らしを設計する

インタビューに答える本間さん

スタジオ宙に入社して、お客さまと一緒に住まいをつくるという、自分がずっと求めていたことができるようになったという本間さん。

「理想論ではなく、どのようにしたら暮らしがより豊かになるのかを現実のものとして考えることが、難しくもあり楽しくもあります。お客さまとのコミュニケーションを重ねて、一緒になって一つの答えに向かい、完成後に喜んでいただくことが、一番のやりがいですね」

 さらに、よりお客さまが求めているものを提案できるように、ふだんから気をつけていることがあるそう。

「自分が実際に見たり経験したりしたものでないと、お客さまに提案することができません。そのため、言葉・品物・デザインなど、身のまわりに存在するあらゆるものを、より強く意識するようになりました」

 自分が触れて良いと思ったものは、何が良いのか、どうして良いと感じたのか、その答えを自分のなかで明確にするようにしているという本間さん。さらに、自分が良いと感じたものは、自分だけのものなのか、もしくは他の人にとっても良いものなのか…という自問自答を繰り返すことが、“豊かな暮らし”への提案に結びついていくと話します。

「ただ求められる建築をするのではありません。お客さまが何を求めているのかを必死に考え、どのような暮らしが合うのかをイメージします。そして、コミュニケーションを重ねることで一緒に“面白がり”ながら、お客さまの意識していなかった理想を引き出し、現実のものとして豊かな暮らしを提案すること。それが、自分たちの重要な使命だと思っています」

 住まいを通して一人ひとりのより良い暮らしを実現する。世の中のさまざまなものにアンテナを向けながら、本間さんの挑戦はつづきます。

一級建築士事務所 スタジオ宙

http://www.studio-myu.com

Mini column

暮らしのストーリーも設計する建築家のお仕事

落水荘

落水荘

建築家というと、建物を設計するというイメージがあります。しかし実はそれだけでなく、そこで過ごす人々の時間や経験を設計・デザインするという大切な役割も担っています。建物に加えて、土地の記憶や光や風の流れ、そこを使う人や住む人などを考慮したストーリーを設計するのです。

近代建築の三大巨匠の一人とされるフランク・ロイド・ライトは、環境を最大限に生かした建築物を多く残しました。プレーリースタイル(草原スタイル)を取り入れたロビー邸は、まわりの自然環境と融合するよう計算された低い屋根や深い庇、連続する窓で表現された水平線が特長。また「落水荘」と呼ばれるカウフマン邸は、滝の上に立てられたかのような建築物で、連続窓からは日本庭園の借景のように滝を見渡すことができ、現在も観光客で賑わっています。

この借景という考え方は、和室などの室内から庭、そしてその向こうに広がる山々の景色を暮らしに取り入れる、日本の伝統文化の一つです。間取りにはじまり、庭の木々や石の置き方までを考え、その場の魅力を最大限に引き出して毎日に潤いを与えるという、暮らしのトータルな設計が古くから行なわれていました。

住まいを考えるときは建物に加え、そこでのストーリーもデザインができたら、さらに素敵な暮らしが実現できそうですね。