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あらゆる経験を表現につなげる

作業中の中村さん

 美大に通うかたわらで、アニメーション作家のアシスタントの仕事もスタートしました。

「映像やアニメーションに興味があったので、知り合いのアニメーション作家がアシスタント募集しているのを知って思い切って応募しました。そのときに制作のノウハウを学ぶことができたのが大きかったですね」

 アニメーションを手がけるようになった中村さんは、制作する楽しさをこのように語ります。

「絵やイラストは描くごとに形づくられ、そのプロセスを細かく考えながら制作します。一方のアニメーションは線と線を微妙に変えて何コマも絵を作成するため、考えるというよりも無心になって集中してできあがっていくもの。苦行みたいですが、そんな作品づくりのプロセスが好きなんです(笑)」

 絵、イラスト、版画、そしてアニメーションを制作するようになった中村さん。手段は違うも、表現の根底は一緒と話します。

「どれも自分から出ている表現で、根は一緒です。今はイメージを出すときに、表現しやすい手法を選ぶ感じです」

 アニメーション制作では、アシスタント仕事のほかに自分の作品作りにも精を出していたそう。

「いつも最初にテーマを設定します。そこからストーリーを考えて、自分でシナリオを作り、絵コンテを描きます。PC上で絵を描き、それを出力したものに手で彩りを加え、改めてPCに取り込みます。そして、1コマずつ動かしていき作品に仕上げるのが主な制作手段です」

 中村さんは精密に作り込むというだけではなく、インクのにじみなどの偶然性も大切にしていたり、ときには音楽も自分で作曲してアニメーションのBGMにしたりしているそう。

「これまでの経験をフルに生かして、自分の感じたことを表現しているんです」

自分の感動を表現して見る人に感動を届けたい

インタビューに答える中村さん

 幼稚園のときから変わらずに、夢中になって何かを作ることが楽しいという中村さんは、大学卒業後はフリーランスとして活動を開始しました。

「オリジナルの作品を作りながら、アニメーションのほかイラスト、WebやCDジャケットなどのデザイン、本の装丁などさまざまな仕事をしています」

 最近ではフルアニメーションや実写とアニメーションを組み合わせたミュージックビデオなどの作品も手がけているそう。

「睡眠よりも何かを作る時間が大好きです(笑)。また想いを込めて作った作品は、やはり作るだけでなく誰かに見てもらうことが大切です。感動は理屈では無いと思っているので、自分が感じたことをストレートに表現して、それに触れ感動してもらったり喜んだりしてもらえたら、それは本当に幸せですね」

 これからは仕事の幅を広げつつも、自分の作品作りにもこだわっていきたいという中村さん。

「とにかく地道に作品を作りつづけることが大事だと思っています。そして完成した作品の結果が自分に跳ね返ってきて、また新しい何かにつながる。そうやって出来たものに自分が感動したいし、見てもらった人に何か感じてもらえたら嬉しいです。心動く一瞬のために、一生作りつづけていきたいです」

 アニメーションだけでなく絵本づくり、映像を活用した展示など、中村さんが秘めるアイデアはたくさんあります。これからもさまざまな表現を通して、私たちに感動を届けてくれるのでしょう。

中村綾花Webサイト

ayakanakamura.com

Mini column

フリーランスも活躍しやすいアニメーターのお仕事!

フリーランス・自営業の割合

クール・ジャパン! と今や世界的な評価を得ている日本のアニメーション。その制作を支えるアニメーターの方々は、どのような形で勤務しているのでしょうか。スタジオなどに正社員として勤務する人が15.5%であるのに対してフリーランス・自営業は52.6%と、半数以上がフリーまたは自営の形態でアニメーターとして活動しています(※)。

フリーランスが多い理由として、勤務時間などに縛られずに歩合制で報酬を得ることも挙げられますが、一つの作品が終了するとしばらく時間が空くことが多くアニメ業界全体として経費節減を目的に、フリーランスのアニメーターを活用することが増えているようです。

正社員の給料制とは異なり歩合制が多いフリーランスの仕事は、始めた当初は報酬が低くても、実績を積み評価を得れば収入アップにつながります。実際に年収が100万円以下という方が8.2%であるのに対し、600万円以上という方も7.7%という調査結果が出ています(※)。

また、正社員として勤務するメリットの一つに「ネットワークの拡大」がありますが、フリーランスの場合でも集団スタジオと呼ばれるフリーランスのアニメーターが集う場所が存在し、そこで情報交換をしたりプロジェクトを協働したりすることも。さらにIT環境などの発展によって、現在ではフリーランスのアニメーターが活躍しやすい状況になっているようです。

※出典:一般社団法人 日本アニメーター・演出協会「アニメーション制作者 実態調査報告書2015」