社長メッセージ

「黒船来航」がスルガの原点

  初代頭取の岡野喜太郎が1895年にスルガ銀行の前身「株式会社根方銀行」を創立してから、スルガ銀行は今年で130周年を迎えます。2025年度は節目となるタイミングであり、歴史の重みと社会的な責任を改めて感じているところです。
  スルガ銀行の原点は、130年より少し前の「黒船来航」にあります。1853年、ペリー提督率いる米国軍が浦賀港に来航。翌年「日米和親条約」が締結され、日本は開国へと向かいます。日本最初の開港地となった下田には、1856年に総領事館が開設されました。
  これを知って下田に駆けつけたのが、岡野喜太郎の父、彌平太でした。「きっとここから、新しい日本が始まるのだ」という熱い想いを胸に抱き、自らその変化に飛び込み、日本が変わる瞬間をこの目で見てみたいという衝動に駆られ、奉行所に頼み込んで、住み込みで働くことになります。
  おそらく当時、多くの人々が黒船来航を脅威として受け止めたのに対し、彌平太は違いました。それは、変化を恐れずむしろ面白いと思う感性、そして変化の中に飛び込んで、チャンスに変えようという野心を持っていたと言っていいでしょう。そうした彌平太のDNAは、前例なきことへの挑戦を続け、「違いの創造」を経営方針に掲げる現在のスルガ銀行に受け継がれている。そんな気がしてなりません。
  スルガ銀行の企業理念は、「あってよかった、出会えてよかった、と思われる存在でありたい。」です。平凡であっても、丁寧な対応を心がけることで、「あってよかった」とお客さまから言っていただけるかもしれません。しかし、「出会えてよかった」とまで言っていただくには、新しい価値観や、これまでになかった新しい商品・サービス、接遇の仕方を追求し、提供し続ける必要があります。お客さまのために地道に、そして本気で「違いの創造」に取り組む姿勢は、企業理念とともに着実に社内に浸透しています。変化が加速化する時代だからこそ、自らを変えることを楽しみ、挑戦する社員が増えていけば、5年後、10年後には、「明るいスルガの先」へたどり着くことができるのではないかと期待しています。

不透明だからこそ、
リスクを取って踏み出す

  経営を取り巻く足元の環境を、ひと言でいうなら「不透明」になります。米国の動向もそうですし、地政学リスクの高まり、さらにはブロック経済化、ポピュリズムの台頭など、かつての常識や価値観では考えられない事象が相次いでおり、世界がこれからどこへ向かうのかを予測するのは非常に難しいのが現状です。
  不透明な世界において、最初に影響を受けやすい業界はおそらく金融です。たとえば、地方銀行業界では、これまでとは大きく異なる再編が繰り広げられています。かつては救済的な意味合いから、監督当局の指導のもと経営統合を進めるケースが散見されましたが、これからは各行が主体的に変化の道筋をつけていく時代に変わったと、われわれ自身の認識を改めないといけません。
  先行きが読めない中で、地元、静岡・神奈川の法人のお客さまからご不安の声をお聞きすることも増えています。足元の景気は緩やかに回復し、業況も決して悪くないのですが、このタイミングで投資を増やして、次に向かって進んでいいのだろうかと逡巡されるお客さまもいらっしゃいます。ここでリスクを取って前に進むのか、あえて足踏みするのかは、われわれ自身の選択としても非常に難しい判断です。
  ただ、スルガ銀行の原点に立ち返るならば、このような不透明なときだからこそ、リスクを取って、確からしい方向へ一歩踏み出すべきだろうと思います。動いてみないとわからないのは、黒船来航のときも同様です。ペリー提督率いる一行は敵なのか味方なのか、最初は知るすべもありません。しかし、その後の開国を考えれば大きな転換点となったわけで、彼らの考え方を知ることで、新しいことを学び、いち早く変化に対応することができたかもしれません。
  動かないこともリスクであり、たとえ今は不透明な中にいても、霧が晴れるのを待つのではなく、霧の晴れ間に先を見通し、チャンスに変えていくことが大事だと、社員やお客さまにお伝えしていきたいと考えています。

想定を上回る好業績は
2025年度も継続

  中期経営計画第2フェーズ(2023年度~2025年度)の2年目となる2024年度の決算については、3期連続の増益で、前期比(単体)伸び率は経常利益が+27%、当期純利益が+31%と、想定以上に好調な業績となりました。
  なお、金利上昇の効果は、2024年度の決算にはあまり反映されていません。変動金利の貸出金の内「金利更改1年以内の貸出金」は94%と高い水準ですが、収益に対するプラス効果がフルスケールで顕在化するのは、2025年度以降となります。

経常利益・当期純利益・貸出金(基準金利別構成割合)

  好調な業績の主な要因は、ローン事業と資産コンサルティング事業が順調に進展したためです。ローン等新規実行額は成長が持続しており、2024年度は前期比伸び率+37%、資産コンサルティングにおける個人の投資性商品預り資産残高は同+16%となりました。
  こうした新規の営業活動が着実な成果をあげている背景には、「富士山モデル」から「八ヶ岳モデル」への転換、すなわち複数の成長エンジンを持つビジネスモデルへの転換が着実に進んでいることにあります。「コミュニティバンク」、「ダイレクトバンク」、「首都圏・広域バンク」、「市場ファイナンス本部」という4つの自律型プロフィットセンターの各本部長が、自分のカンパニーを経営しているような感覚で、文字どおり自律的に判断し、動いていることが、好業績に結びつきました。

ローン等の新規実行額推移・個人投資性商品預り資産残高

  プロフィットセンターにまつわる、こんなエピソードがあります。首都圏・広域バンクにおいて、期間限定でキャンペーンを実施したところ、予想以上の引き合いをいただき、担当部署の業務が急増しパンク寸前になりました。このままでは業務が回らないと判断した担当者は、本部長に直訴し、他の部署から人手を融通してもらうことで、無事乗り切ることができました。人財を提供した部署は、業績にマイナス影響があったかもしれません。しかし、プロフィットセンターとしての全体最適を優先し、自発的に問題を解決していった彼ら・彼女らの姿は頼もしくあり、その主体性・自律性に感謝しています。

  好業績は、2025年度も継続する見通しです。中期経営計画は、最終年度となりますが、経費以外のKPIは超過達成を見込んでいます。2025年度の計画では経常利益が275億円と、KPIを105億円、61%上回る計画です。また、Newポートフォリオからの収益を示す新事業粗利益も、KPIの190億円以上に対して、同計画は240億円と50億円の超過達成を見込みます。これらの数字は、当社のV字回復と再成長軌道が明確になってきたことを示していると考えています。

  中期経営計画を策定した3年前、私は「スルガの未来は明るい」と社内に訴え続けてきました。当時、将来に対しての不安を一部の社員が抱いていると感じたため、敢えて「明るい」と言い切っていましたが、今では、大多数の社員が「スルガの未来は明るい」と確信していると思います。そこで最近は、「『明るい』を超えて、その先の『ワクワク感』へ行こう」とメッセージの内容を変えました。
  「明るい」という言葉には、どこか受動的な要素があり、周りの環境によってもたらされる側面があります。一方「ワクワク感」には、自らコミットし、その結果、やりがいを感じたり、楽しい・面白い、お客さまに感謝されてうれしいといった感情から生まれる能動的な言葉だと考えています。私は「明るい」だけでなく、「ワクワクする会社」にしたいと強く願っています。

成長エンジンをより強くし、
ROEを恒常的に8%以上へ

  当社の株価は、中期経営計画がスタートした2023年4月から2025年3月末までの2年間で約3倍の1,344円へ上昇しました。2024年度実績は、5年累計のTSRが399.4%、PBRは0.82倍、ROEは6.8%へと力強く上昇しました。これらのパフォーマンスは、中期経営計画で示した様々な取組みが着実に成果につながっていることや、それを投資家の皆さまにご評価いただいた結果であると認識しています。
  ただ、パフォーマンスの中身を見ていくと、株価上昇率やPBRともに地銀業界の中で相対的に高い位置にあるのは、主にPERによるもの、すなわち将来の成長期待が高いことに起因するものであり、本質的には、ROEをさらに上げていかないと、さらなる株価上昇やPBR1倍超は見込めないと考えています。
  昨年、「2026年度以降のROEは平均的に6%以上、長期的には8%以上を目指す」と公表しました。2025年度はROE7.4%を予想しており、最低合格ラインまであとひと息といったところまでは見えてきました。しかし、恒常的に8%以上とするためには、配当性向や自己株式取得、政策保有株式の縮減などももちろん重要ですが、一番大切なのは「八ヶ岳モデル」の各成長エンジンをより強力なものにしていくことです。そういった意味で、企業価値向上を実現する経営はまだ道半ばだと思っています。
  機関投資家の皆さまからは、過去2年間の取組みをご評価いただく一方で、“次の成長ステージ”を示すことを求める声が増えています。当社への成長期待はいったん相当低いところまで落ち込みましたが、そこからのV字回復を実現しつつある現在、次にどう駆け上がっていくのか。この問いに対して、まだ明確な答えはありませんが、次の中期経営計画でその姿をお示しできるよう、2025年度中に取りまとめていく方針です。

スルガ銀行株価推移・TSR

2025年度の経営方針
「PIVOT」、「ヒト・AI・地元への積極投資」、
「明るいスルガの先、ワクワク感へ」

  中期経営計画最終年度となる2025年度は、3つの経営方針を掲げました。
  1つ目は、「PIVOT(ピボット)~違いの創造を極める」です。ピボットとは、「方向転換」を意味しますが、われわれは「軸足をぶらさないで、もう一方の足や目線を動かすこと」、つまり、「自分たちの強みをしっかりと認識したうえで、角度や目線を変えていけば、新しいやり方が見つかる」といった意味で使っています。
  ピボットの一例として、2025年4月に社員の発案により、超富裕層のお客さまを対象とした「ウェルスアドバイザリー部」を新設しました。投資用不動産の購入を検討する際、お客さまにとって最も関心があるのは、物件であり、ローンを利用するか、どこの金融機関を選ぶかは二の次、三の次です。そのため、金融機関は、不動産業者の方々に対する営業活動を行うことが一般的です。
  ウェルスアドバイザリー部は、そうした不動産業者の方々を通さず、エンドユーザーに直接アプローチするもので、過去に当社と不動産ローンの取引があるお客さまや、プライベートバンクからのご紹介、お客さまからのご紹介、直接お問合せをいただいたお客さまなどとのご相談を活動の主軸としています。長年培った知識とノウハウを活かしつつ、目線を変えた「違いの創造」に取り組むことで、新たな需要を掘り起こしています。
  2つ目は、「ヒト・AI・地元への積極投資」です。引続きコスト構造改革を進める一方で、将来のための投資を積極的に行います。ヒトへの投資については、「70歳まで活躍、貢献を期待するスルガ」との方針を掲げたベテラン社員の活躍支援策や、ダイバーシティ推進に向けた女性社員のキャリア意識を醸成するための「未来経営塾(Lite)」、社員のキャリア形成を支援する「キャリアビジョン対話」など、社員がやりがいを感じる環境整備に取り組んでいきます。
  AIについても、AI活用による競争力強化を視野に入れた ITプラットフォームやDXへの投資を積極的に進めていく計画です。また、地元への投資に関しては、2025年4月「地域創生室」を新設しました。サイクリングプロジェクトを軸に地域経済活性化に向けて活動を展開していくもので、予算や人員を強化しました。
  そして3つ目は、「明るいスルガの先、ワクワク感へ」です。前述のとおり、ワクワクするというのは、自分の中にミッション感や価値観があり、それに合致しているからこそ、その仕事をやっていて楽しかったり、心が躍ったり、感情が揺さぶられる、といったことにつながるのだと思います。「違いの創造」に挑戦することで、お客さまに感謝され、「出会えてよかった」と言われて、ワクワクする。このループが回っていくといいなという願望を込めています。
  社員から、こう言われたことがあります。「確かに、スルガは明るくなった。でも、入社した時は、スルガ銀行が一番だと思って決めた。今は良くなったけれど、一番にはなっていない」と。私はこの発言を聞いて改めて、「良くなって満足するのではなく、一番を目指そう」と気を引き締めました。
  では、どんな一番を目指すのか? それは、規模を追求することではなく、小さくてもいいから、自分たちの違いを誇らしく語り合い、「ワクワク感ならスルガ」と社員に思ってもらえる、そんな銀行にしていきたいと思っています。

クレディセゾンとの提携は
次のステップへ

  2023年にスタートしたクレディセゾンとの資本業務提携は、両社の営業基盤や人財の活用により順調に進捗しています。具体的な成果としては、2024年度末時点で住宅ローンの当社実行累計額は225億円、不動産ファイナンスは同612億円、クレジットカード発行枚数は累計3,800枚超などとなっており、2025年度も引続き想定を上回る成果が期待できそうです。

  「金利ある世界」においても、クレディセゾンとの提携は当社の大きな強みになると考えており、今後は提携のレベルを次のステップへと進めたいと考えています。これまでの第1ステップは、新規のお客さまに対して、両社が補完的に商品・サービスをご提供してきましたが、第2ステップでは、両社で既にお取引をいただいているお客さまに対して、特にペイメント領域を中心にシームレスなソリューションをご提供し、粘着性の高い預金拡大の取組みを両社で進めていく計画です。
  現在検討しているのは、例えば、クレディセゾンの永久不滅ポイントをスルガ銀行の預金口座に入金するサービス、クレディセゾンのスマホアプリで当社の口座残高を確認できるサービスなどですが、セゾンカードと銀行口座をシームレスに一体化し、お客さまの利便性向上と積極的な決済利用を図ります。こうした決済手段としての取組みで粘着性を高めたうえで、さらに定期預金や投資信託などの銀行サービスも掛け合わせ、両社一体となって新しい体験をお客さまにお届けしたいと考えています。

持続的成長へ、
人的資本投資を拡大

  2025年度の経営方針にも掲げたヒトへの投資、人的資本投資の取組みについてご説明します。好業績の裏返しではありますが、フロント・ミドル・バックのいずれの部門においても、成長を支える人財の確保が、重要な経営課題となっています。クレディセゾンからも約20名にご出向いただいておりますが、それでも足りない状況です。
  人的資本投資は「経費」ではなく、持続的な成長のための「投資」であり、引続き人的資本投資を拡大していきます。ベテラン社員の活躍支援策については、社内への浸透が進んでおり、既に68名のベテラン社員が認定されるまでに定着しました。また、カムバック施策等の中途採用活動を積極化している他、2026年度の新入社員から初任給を最大28万円に引き上げ、採用拡大を図っていきます。
  さらに、2024年度に続いて2025年度もベースアップを実施します。一般社員の平均賃上げ率は賞与増額も含めて7%、AS(アソシエイトスタッフ)と呼ばれる一般事務職社員についてもベースアップを実施、CS(キャリアスタッフ)と呼ばれるパート社員の時給も引き上げ、社員の貢献に報いたいと思っています。

海外IRを復活し、
株主価値向上を目指す

  当社は、2018年以前に融資したシェアハウス以外の投資用不動産向け融資における不正行為等(以下、アパマン問題)に関し、2025年5月に、金融庁より報告徴求を受領しました。アパマン問題の対象債務者さまをはじめ、株主・関係者の皆さまにご迷惑とご心配をおかけしておりますこと、心よりお詫び申し上げます。
  当社は、この報告徴求を厳粛に受け止め、対象債務者さまの個別のご事情に寄り添った対応と、関係者の皆さまのご不安払拭に全力で努め、個別解決の加速化を図ってまいりますことを、この場をお借りしてご報告いたします。
  株主価値の向上とガバナンス強化などの観点から、これまでも戦略的IR活動とディスクロージャーの充実に注力してまいりましたが、株主との対話を深化させる目的で、しばらく実施していなかった海外IRを2025年秋、復活させる予定です。
  シェアハウスへの不正融資問題以降、大きく減少した海外の投資家の皆さまからのご関心も高まりつつあり、株価も上昇基調にあるなかで、積極的に対話の機会を持ち、海外の長期投資家の裾野を広げていくことが今後、ますます重要だと思っています。
  当社は当初の予想を超えるスピードでV字回復し、力強い再成長軌道を描いています。その原動力はもちろん社員であり、彼らがミッション感を持って仕事に取り組み、ワクワク感を持ち続けられるような環境を整えるのが私の仕事です。ワクワク感の中身を一緒に議論しながら、2026年度から始動する新しい中期経営計画を形にしていきたいと考えています。
  世の中の先行きは不透明ですが、当社は現状に踏みとどまることなく、まずは社員が面白いとか、ワクワクを感じるような方向に進み、動きながら考えていきます。
  ステークホルダーの皆さまにおかれましては、より一層のご理解とご支援を賜りますよう、今後ともよろしくお願い申し上げます。

イノベーション リレーションシップ センター「下田黒船塾」
天井は黒船の船底を表現しています。スルガのDNAの原点ともいえる進取の精神をこのフリースペースで語り合って欲しい、という想いから設計されました。