社長メッセージ


中期経営計画1年目の好業績にワクワク感は2倍に

  中期経営計画第2フェーズ(2023年度~2025年度)の1年目となる2023年度が終了しました。2期連続の増益で、前期比(単体)伸び率では、経常利益が+78%、当期純利益が+57%の大幅増となり、好調なスタートを切ることができました。
  昨年の統合報告書で、私は「経営再建/足元固めのフェーズから、再成長軌道の本格始動という新たなフェーズに変わる中で、新中期経営計画の実現に向けてワクワクしている」と申し上げましたが、その思いはますます強くなっています。
  中期経営計画で掲げた目標は容易く達成できるものではなかったので、私のワクワク感がどこまで社員に伝わるかといった不安があったのも事実です。しかし、1年目で多くの指標をクリアし、利益についても50%を超える大幅増となったことで、社員の間にも相当自信が出てきたように思います。
  営業店を回っても「スルガの将来を明るく感じる」、「仕事が楽しい」といった声が多く聞かれるようになりました。社員自身がまさに「足元固めのフェーズから再成長軌道の本格始動」を実感しており、ワクワク感は私だけの想いから、社員全体に広がり、2倍以上に膨らんだと言っても過言ではありません。

経常利益・当期純利益

今後の持続的な成長を示唆する内容

  中期経営計画1年目の利益、単年度業績という観点からは申し分のない結果となりましたが、私はバランスシート、言い換えれば、銀行としての基礎体力がいかについてきているのかという点を重視しています。その点において、2023年度は今後のスルガの持続的な成長を示唆する力強い内容だったと評価しています。
  1つ目は、貸出金残高です。2019年以降、貸出ポートフォリオの品質転換を目指し、営業基盤の再構築を図ってまいりました。その取組みが実を結びつつあり、2023年度下期に残高が減少から増加に反転しました。これは今後の収益を更に引き上げる要素となります。
  2つ目は、債権品質の向上です。品質向上に向けた取組みを通じて、徐々にですが金融再生法開示債権比率は低下し、2023年度末には9.8%と一桁台となりました。依然として高水準ではありますが、確実に債権品質の向上が進んでいると考えています。
  3つ目は、有価証券運用です。2022年度から有価証券ポートフォリオの品質向上を目的に、含み損を抱えている債券やマルチアセットファンドの圧縮を進めてきました。その結果、2023年度末には217億円の評価益に転じています。
  4つ目は、自己資本比率です。金利ある世界へと変わりつつある中、必要なリスクテイクを可能とする十分な資本バッファーを確保していることは、今後の成長期待につながります。
  そして、何より社員が経営と同じ方向を向き、高いモチベーションで取り組み始めてくれたこと、これは本当にすばらしいことです。基礎体力に満点はありませんので、更なる改善に向け、努力を続けていきます。


中期経営計画1年目の最も大きな成果は「八ヶ岳モデル」の進展

  昨年、私は「富士山モデル」から「八ヶ岳モデル」への転換、即ち1つの成長エンジンに依存するのではなく、複数の成長エンジンを持つビジネスモデルへの転換を進めたいと申し上げました。それが好調に進展したことが、中期経営計画1年目の最も大きな成果だったと考えています。
  具体的には、スルガの強みである投資用不動産ローンはもちろん好調でしたが、それと同時に住宅ローンと無担保ローンの新規実行額も前年度対比で2桁増となり、投資信託や保険などの新規預り資産額も2倍近くまで成長するなど、コミュニティバンク、ダイレクトバンク、首都圏・広域バンク、市場ファイナンス本部という4つの自律型プロフィットセンターの持つ商品群がいずれも大きく伸長しました。
  背景にあるのは、やはり社員の成長です。意思決定とアクションのスピードが速くなってきていることに加えて、単年度の成果を追求する短期的思考から、持続的な成長を目指す中長期的思考に変わってきていることが、結果として単年度の好業績にもつながったと考えています。


「健全な危機感」を持って10年後、20年後の“ありたい姿”を描く

  このように、2023年度の好業績は一過性のものではなく、今後の持続的な成長を示唆する内容だったことから、中期経営計画開始から1年しか経っていませんが、中期経営計画のKPI(重要業績指標)を上方修正しました。「中期経営計画で描いた再成長軌道に乗った」、「金利上昇などの外部環境変化に頼らずとも、中期経営計画の達成は見えてきた」、「100%やりきる基礎体力はついてきた」と、皆さまには自信を持ってお伝えすることができます。
  一方、足元の3年間だけでなく、10年後、20年後の“ありたい姿”をどのように描くのかが大切です。「金利ある世界」の到来で事業環境に明るい兆しが見え始めていることは事実ですが、競争環境が緩むわけではありません。足元の業績に慢心することなく「健全な危機感」を持ち続けることが、今後より一層大事になります。
  10年後、20年後の“ありたい姿”を描くヒントは、企業理念の「あってよかった、出会えてよかった、と思われる存在でありたい。」にあります。世の中にはないもの、他行がやらないことを提供しなければ、「出会えてよかった」などとは言ってもらえません。したがって、スルガの使命は、他とは違った存在であり続けることです。

中期経営計画のKPI上方修正

地道に、そして本気で「違いの創造」に邁進する

  スルガが掲げる「違いの創造」は、ビジネス用語で申し上げれば「差別化」です。
  先ほど、投資信託や保険などの新規預り資産額が2倍近く成長したと申し上げました。当社はこれら金融商品を単品で販売するのではなく、お客さまの資産運用をトータルに考える「マネープランニング」に本気で取り組んでいます。「マネープランニング」と口にするのは簡単なのですが、本気で実践しているところはそう多くありません。
  こういった取組みの結果、「お客さま本位の業務運営」の度合いを計る指標の1つ「投資信託の運用損益別顧客比率」で、スルガは銀行の中でトップの座を獲得しました(2023年3月末基準)。この指標は、スルガの資産コンサルティングの一面を示しているに過ぎませんが、お客さまの資産価値の拡大に貢献し、多くのお客さまが笑顔になっていただくことを自らの喜びとして、企業理念を体現しようとする社員が増えていることを表していると言えます。
  住宅ローンでは、外国籍の方への実行件数が半数を超えています。これも他行ではあまり例がないことで、差別化の1つです。
  ダイレクトバンクでは、ウェブ上でお客さまが直接ご契約いただくデンタルローンが伸びています。デンタルローンは従来、クリニック経由で契約するのが基本でしたが、ここでも差別化が図られています。
  「違い」は、お客さまの接遇面でも発揮されています。金融機関といえば、これまでは過度に丁寧で四角四面な印象がありましたが、スルガでは、お客さまに親しみやすさを感じていただけるようなフレンドリーな対応を実践しています。
  「差別化」や「違いの創造」というと、何かすごく突飛なものを想像されるかもしれません。しかし、スルガでは、お客さまとの接し方やお客さまへのアドバイスの申し上げ方など、商品面だけでなく、ソフト面も含めて地道に、そして本気で取り組むことで、他にはない「違い」を追求していきたいと考えています。


「金利ある世界」でもビジネスの差別化を追求する

  事業を取り巻く環境変化の中で最も注視しているのが「金利ある世界」です。金利上昇による収益への影響は総じてポジティブです。特にスルガの場合、法人融資の割合が2割程度と少なく、変動金利貸出が多いことや、有価証券リスクが相対的に低いことなどから、金利上昇によるプラスの影響は比較的早期に発現すると考えています。
  ただ、好影響だと浮かれることなく、2つのことを併せて考えていく必要があります。
  第一に、お客さまへの金利上昇のインパクトです。金利上昇によりマイナス影響となるお客さまには、速やかにご相談に乗り、「あってよかった」というスルガの企業理念をお客さまに実感していただけるよう、きめ細やかに対応してまいります。スルガの企業理念の真価が今以上に問われていく時だと考えています。
  第二に、金利上昇に頼らないビジネスモデルの構築です。金利が上昇し、収益が改善すると、「もう大丈夫」と安心してしまいがちですが、前述のとおり、銀行業界において競争はむしろ激化しています。銀行以外のプレーヤーの参入も相次いでおり、金利上昇だけに依存していては生き残れません。ビジネスそのものを徹底的に差別化し、競争に打ち勝っていかなければなりません。
  そもそも、日本の潜在成長率を踏まえると、欧米のような「高金利社会」が到来・持続するかどうかには疑問符が付きます。かつてに比べて、「地銀は構造不況業種」と揶揄する声は小さくなっていますが、こういう環境だからこそ、低金利時代の再来も含めて、ビジネスモデルを強化していく必要があります。


クレディセゾンとの提携は順調に進捗

  中期経営計画では、「リテール・ソリューション事業の進化」、「持続可能な収益構造の構築」、「リスクテイクとリスク分散」という3つの経営戦略を掲げました。2年目となる今年度においても、引続きこれら3つの取組みを進化させていきますが、中でも注力していくのが、第一の戦略、リテール・ソリューション事業の進化です。
  ここでも意識するのは、「違いの創造」です。次の中期経営計画を見据えて、もう一段アクセルを踏み込んでいきます。その1つがクレディセゾンとの提携です。
  クレディセゾンと資本業務提携を結んでから1年が経過しました。目指す姿は、「あらゆる『困りごと』や『不』を起点とした“Neo Finance Solution Company”」であり、まさしく「違いの創造」を志向した提携だったわけですが、その効果は当初想定以上のペースで現れています。
  昨年秋に取扱いを開始した住宅ローンと投資用不動産ローンの取組み状況は、年換算ペース約550億円で推移しており、2027年度までに新規ローン実行額累計3,500億円以上の積み上げが見込まれます。各種施策を合わせた粗利益効果は2025年度に20億円以上と公表しましたが、想定を上回る金額が期待できそうです。
  また、トップ同士だけではなく、現場の社員同士のコミュニケーションも深まり、商品や事業に関する新しいアイデアが続々と出てくるなど、自然発生的に業務提携が拡大していく、そんな好循環が生まれつつあります。
  私も、スルガに出向していただいているメンバーや、クレディセゾンに派遣している社員に、スルガの良いところや悪いところ、両社の違いなどをヒアリングしているのですが、皆さん口を揃えて言うのは、企業文化が似ていて、馴染みやすいということです。一方、業態が異なるため、業務のやり方は全く異なり、そこに学びがあるとも言います。
  今後は人的交流をより複層的に進めるとともに、中長期的なビジネスモデルの検討を深めていきたいと考えています。具体的には、「商品・サービスのコラボレーション」、「マーケティングの高度化」、「経営リソースの共同利活用」という3つの優先領域を設定し、各種の取組み・施策を検討していきます。特に業務基盤やITツールなどは、効率化の観点から共同利用を積極的に検討してまいります。

クレディセゾン提携の3つの優先領域

将来への布石~スルガの人的資本経営と成長投資

  中期経営計画KPIを修正した項目の1つに「経費」があります。2025年度の経費計画は当初325億円以内としていましたが、今回の修正計画では340億円以内へと引き上げました。増加要因の殆どは人件費です。
  1年前の中期経営計画策定時には想定しきれていませんでしたが、賃金と物価の好循環が日本でも回り始めており、当社においても、2023年度はインフレ対応手当の支給や初任給の引き上げなどを行いました。今回の経費計画の変更は、今年度以降もこうした報酬関連施策を行う予定であることから、それらを織り込んで再試算したものです。

  もっとも人件費は「費用」ではなく、まさしく「投資」であり、人的資本投資の拡大は、スルガにとって中長期的な利益をもたらすものと考えています。経費増加を伴うため、単年度利益に対してはマイナス影響となりますが、持続的成長に向けた社員の活躍とエンゲージメント向上のためには不可欠の投資です。
  「給料よりも仕事のやりがいの方が重要」といった意見もありましたが、私は両方必要と考えています。つまり、成果に応じてしっかりとした報酬をもらえるようにすること、そして、より多様な人財への雇用機会提供や働き方改革を通じて社員エンゲージメントの向上を図ること。この両方を実現し、意欲・能力の高い人財にとって、より魅力ある企業となっていくために人的資本投資を活発化させています。
  「富士山モデル」から「八ヶ岳モデル」への転換を推進する中で、スルガの業容は拡大しており、どのプロフィットセンターでも人財不足が続いています。このため、採用強化は当然のこととして、「70歳まで活躍・貢献を期待するスルガ」との方針を掲げ、ベテラン社員の活躍支援策も導入しました。
  これは、経営陣が営業現場に足を運んで社員の声を聞き、発案したものです。この施策を導入したところ、それまで30年以上も管理業務一筋のプロとして認められていた社員が、お客さま向けの資産コンサルティングに挑戦すべくリスキリングして、現在、FA(ファイナンシャルアドバイザー)として活躍しています。リスキリングによる配置転換以外にも、マイスター制度や支店長などの管理職に対する年齢制限の撤廃など、ベテラン社員に永く活躍してもらう制度を拡充しています。
  将来を見据えた事業基盤への積極投資については、人への投資が最も重要ですが、それと並んで大事なのがITプラットフォームやDX推進にかかる投資です。変化し続ける経営戦略を実現する柔軟な拡張性と可用性のある次世代IT基盤を構築すべく、2026年を目処に勘定系システムのクラウド化を進めていきます。
  このIT基盤の改革に先駆けて取り組んでいるのが、リアルとリモートの融合です。シニアのお客さまにとっても使いやすいスマホバンキングのサービスを開発する一方で、店舗のデジタル化を強化し、お客さまがスマホと店舗の双方を上手に使い分けることができるような世界を実現したいと考えています。
  例えば、静岡県在住のシニアの方のご家族(県外で働いている息子さんや娘さんたち)が相続の相談や手続をしたいというとき、リモートのみで複雑なお手続を行うことは難しいのですが、全国主要都市にある当社の店舗にお越しいただければ、効率的に行うことが可能です。このように、「普段の入出金はリモートサービスで十分だけれど、節目の時にはリモートでは不安」というお客さまにも安心してお使いいただけるのが、リアルとリモートを融合した当社ならではのバンキングだと思っています。


PBR1倍超に向けた取組み

ROEの向上

  PBR(株価純資産倍率)1倍超は、上場企業にとって必須であり、当社もPBR1倍超に向けて真摯に取り組んでいます。当社において、まず取り組むべきはROE(自己資本利益率)の向上です。
  ROEは2021年度末に底打ちして以降改善傾向にありますが、2023年度末5.4%と、株主資本コストの最低水準と考える6%に達していません。そこで今回、「2026年度以降のROEは平均的に6%以上、長期的には8%以上を目指す」と公表しました。
  なお、ROE向上にあたっては、時間軸を明確に示すことが必要だと思っています。短期的にROEを高めるだけで良いのなら、コスト削減・縮小均衡が近道です。ただし、これでは、中長期的なROE向上や、未来が見えてくるはずがありません。中長期的なROE向上を目的関数に据えるなら、差別化による成長が欠かせません。スルガの方針は、この差別化による成長、中長期的なROE向上を主軸としています。それは即ち、中期経営計画の着実な遂行によって、持続可能な収益構造を構築していくことに他なりません。

サステナビリティ経営

  ROEの向上と併せて、期待成長率の向上、資本コストの低減を通じて、スルガはPBR1倍超に取り組んでいきます。前者の期待成長率の向上に資する取組みには、前述のとおりクレディセゾンとの提携の進化が鍵になると考えています。
  資本コスト低減の取組みとしては、金利ある世界に向けたリスク点検、今後5年以内に対連結純資産比率10%以内を目標とする政策保有株式比率の抑制、そして、ESG/SDGsの取組み推進などを掲げています。
  ESG/SDGsにおいて、スルガが注力しているのは、「サイクリング」の取組みです。これまで計12の地方自治体と自転車振興に関するパートナーシップ協定を締結し、シティプロモーション、サイクリングイベント等を行っています。サイクリングは、温室効果ガス(CO2)排出量の削減にも貢献しますし、地元の観光支援や、参加者の健康にもつながります。今後は、もう一段、取組みのギアを上げていきたいと考えています。
  脱炭素の取組みも加速させていきます。スルガはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に賛同し、2021年にCO2排出量の削減目標を公表。スコープ1+スコープ2の排出量削減目標として、2030年度までに46%削減(2013年度比)を掲げましたが、既に45%削減を達成しました。その成果を踏まえ、今回、75%削減に目標値を引き上げました。
  COP28などでも、パリ協定の目標(2℃目標)達成には、更なる脱炭素の取組みが不可欠との認識が世界中で高まる中で、お取引先の企業さまへ、CO2排出量可視化ツールを用いた脱炭素経営のコンサルティングサービスを提供しており、自ら先陣を切って、削減目標を引き上げることが重要だと考えました。
  社員エンゲージメントの向上と人的資本拡大も欠かせません。社員の想いを丁寧に聴き、経営に活かすため、社員モチベーション・アンケートを毎年実施しています。アンケートを通じて認識した課題については、経営陣が直接社員の意見を聴きに出かけ、深掘りし、対応策を検討し、具体的な施策へと展開しています。
  例えば、若手・中堅社員が自身のキャリアを考えるきっかけとするためのキャリアビジョン対話、女性リーダー育成に向けた未来経営塾、また、先ほども述べたベテラン社員の活躍支援などがあげられます。
  スルガはこうした取組みを通じて、PBRの中長期的な向上に努めてまいります。

政策保有株式・2030年度のCO2排出量削減目標

有言実行、初志貫徹で株主価値の更なる向上を

  おかげさまで、中期経営計画1年目は「明るい将来」の兆しに満ちた業績となりました。スルガとして初めて株主還元の基本方針を定め、約200億円の大規模な自己株式取得を実施し、1株当たり年間配当金を21円に引き上げました。
  中期経営計画2年目となる今年度も引続き足元の業績は好調で、上期には上限金額70億円の新たな自己株式取得枠を設定しました。これは、中期経営計画KPIである自己資本比率実質10%以上の達成見通しや、将来的な業績、資本の状況、成長投資の機会等を総合的に勘案して決定したものです。
  私が最も大切にしているのは、言ったことはしっかりと行うこと、そして初志を貫徹することです。
  スルガの初志である企業理念「あってよかった、出会えてよかった」が本当にお届けできているかというと、まだまだ発展途上です。中期経営計画KPIの達成は十分視野に入っているとはいえ、それがゴールではありませんし、「違いの創造」についても、まだまだ磨きをかけていかなければなりません。
  自分自身の気を引き締めるといった意味も込めて、初志を見つめ直し、それを貫徹することを皆さまにお約束し、私のメッセージといたします。
  今後とも皆さまのご理解と一層のご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。