特集
2017 Jun.16
SURUGA Cycle Journal Vol.1
女子ロードレース界のレジェンド、DE ROSAに乗る!
自転車競技選手・西加南子さんとデローザジャパン水口真二さんに聞く、イタリアの職人メーカー「デローザ(DE ROSA)」の魅力
スルガ銀行サイクリングプロジェクトでお馴染みの西加南子選手。今シーズンのトピックは何といってもフレーム(自転車の車体部で前後の車輪を連結させ乗り手の体重を支える役割を担う部分)の変更です。新たに西さんの相棒となったのはイタリアの老舗メーカー、デローザ。今回は西さんとともに提供元であるデローザジャパン(日直商会)の水口真二さんをお招きして、通好みと言われるデローザの魅力について語っていただきました。デローザとはどんなメーカーなのか、余すことなくお届けいたします!
イタリアらしさが詰まったデローザ
写真 / 熱田護 Mamoru Atsuta
デローザといえばイタリアのミラノを拠点とする自転車メーカー。いちばんの特徴はカーボンフレーム全盛の今でも金属のフレームにこだわっている点だと水口さんは言います。
「その中心にいるのが創業者のウーゴ・デローザさんです。彼がデローザを設立したのは1953年、18歳のときでした。ウーゴさんは若い頃から『神の手を持つ男』と呼ばれるほど溶接技術に長けた職人で、そういう方が創業者だからこそ60年以上経った現在も金属フレームを作りつづけている。もちろん時代に合わせてカーボンフレームも製造してはいますが、彼らの心の軸足となっているのは、やはり金属フレームへのこだわり。いわばイタリアの自転車フレーム製造文化の担い手といっていいメーカーだと思います」
ウーゴ・デローザさん
写真 / 熱田護 Mamoru Atsuta
もうひとつの特徴は「会社の規模が小さい」こと。
「イタリアという国はファミリー企業が多いんです。デローザはその最たるもので、ウーゴさんをはじめ、お子さんやお孫さんなど一族で経営されています。外部の大資本が入るとどうしても会社としての本質が薄まってしまうけれど、デローザにはそれがない。私も何度もお会いしているのですが、ウーゴさんという方は控え目でけっして自分のことを大袈裟に語ったりはしない。人格者で、これぞ職人といった方です。そういう方が真面目に作ってきたもの、会社として純潔を保ってきたメーカーだからこそ口コミで評判が広がって、今のような人気ブランドに成長したんですね」
写真 / 熱田護 Mamoru Atsuta
そして、ヨーロッパのメーカーらしく、創業以来、デローザが力を入れてきたのがレース。
「資本規模では強豪チームとは組めないけれど、彼らは自分たちの歩幅で常にレースと関わってきました。金属フレームが主流だった時代、デローザの供給したフレームに乗った選手たちは次々と優勝を重ね、それがレースにも通用するメーカーとしてのイメージを造りあげていきました」
小規模であってもレースに寄り添う、会社としてのDNA
水口さんが在籍する日直商会がデローザの日本総代理店(デローザジャパン)となったのは約10年前のこと。デローザのオーナーにはよく知られた同社ですが、日直商会とはどんな会社なのでしょうか。その歴史から聞いてみました。
「平たく言うと自転車の問屋ですね。『日直』という名前は日向直次郎という初代創業者の名前からつけられました。創業は1908年ですから、今から約110年前、この頃の自転車は最先端のハイカラな商品で、物流の足としても求められていた。創業者はそこに可能性を見出したんだと思います。会社が外神田にあるのも、近くに今は秋葉原のビル街になった神田青果市場があったからです。市場の人たちにとって自転車は必需品。現在も秋葉原に自転車関連の会社が多いのはそのためです」
会社ができた明治・大正期、自転車の市場は年々拡大。毎年、初荷の際は盛大に幟を立てて祝うのが恒例でした。
創業当時の外神田
その自転車産業に陰りが見え始めたのは戦後のこと。モータリゼーションの発達ととともに物流の主役は自動車に奪われ、昭和40年代には自転車業界は国から斜陽産業と見なされるようになります。そこで現社長である日向八郎氏が目を向けたのが海外のスポーツ自転車でした。
「その頃の日本にもスポーツ自転車の市場はあったのですが規模が小さかった。そこで社長は自ら自転車スポーツの中心地であるヨーロッパに飛んで、うちと取引をしてくれないかとメーカーに直談判してまわったそうです」
イギリスからフランス、そしてイタリア。飛び込みでやって来た日本人をヨーロッパの自転車関係者たちは「おもしろいやつが来た」と歓迎してくれたといいます。その中のひとつがホイールやリムの製造で有名なフランスのマビックというメーカーでした。
「マビックはツールドフランスでニュートラルカー(自転車のロードレースにおいて中立の立場で全ての競技者に等しくサービスを提供する自動車・オートバイのこと)を走らせているんですね。その車に日向八郎社長を乗せてくれたそうです。レースを特等席で見た社長は、こうしたレース文化は必ず日本でも流行る、と。一問屋の身ではあるけれど、これからはレースを通して自転車文化に貢献しようと誓ったそうです。そこで帰国後、日本に自転車レースを根付かせようと『日直・シディ・カンパニョーロ』という実業団チームを作ったり、選手を社員として雇ってサポートしたり、会社の規模でできることをつづけてきました。現在も日直商会は大学生のレースをお手伝いしていますし、今回、西さんのサポートをさせていただくことになったのも、自転車文化を広げようという社是、会社に刻まれたDNAがそうさせているんですね」
自分たちにできる範囲でレース文化に貢献する。そういった部分が「デローザと日直商会は似ている」。デローザが数ある問屋の中から日直商会をパートナーに選んだのも頷けます。
ちなみに水口さんの西さんに対する印象は「ギラギラした感じ」。
「西加南子選手といえば、現役生活20年以上の大ベテランで女子ロードレース界ではレジェンド的な存在。だけど大御所ぶるようなところはなくて、今も選手として目をギラギラさせて戦っている。そうした西さんだから、今回ご縁があってサポートの話が出たときにも、あの西加南子じゃないか、フレームを提供しないでどうするんだ、という空気になりました。会社として西さんに期待しているのはイメージの向上。いままでの日本のユーザーにとってのデローザというと、レースはもちろんなんですが、どちらかというとその丁寧な造りから趣味性の高いブランドというイメージが強かったはずです。それをレースでも十分通用するんだよというところを見せていただきたいなと。あとは、レースの最前線で走る方ならではの、ネガティブな要素を交えた機材評価をしていただければと考えています」
金属フレームはフルオーダーで供給
一方の西さんも、これまでデローザに対して持っていたイメージは水口さんと同じ「趣味性の高いオシャレなブランド」というものだったといいます。
「正直、最初にお話をいただいたときの感想は、私でいいのかな、でした」と語る西さん。
「デローザは、もともと自分のまわりに乗っている人が多かったんですね。見ているとみんなブランドに対するこだわりが強くて、一度乗ったらずっとデローザに乗りつづけている。その反面、競技でガツガツ乗っている人は少ない。ブランドイメージが高いところにあって、機能的には昔からある一流ブランドだから不安はなかったけれど、私が乗ってそのイメージが崩れないかなと、それだけが気になりましたね」
その懸念は前述のように「レースでも通用するところを見せてほしい」というリクエストで払拭。次なる課題はフレームそのものの選択でした。
「デローザのフレームは、スチールとアルミ、チタン、カーボンの4種類。西さんには3月に開いた展示会に来てもらってどのモデルにするか試乗してもらいました(水口さん)」
デローザジャパン側の勧めもあって、西さんが選んだのはイタリアの有名なカロッツェリアであるピニンファリーナとデローザのコラボレーションモデルであるカーボンフレームの『SK Pininfarina』。
「西さんは自分に最適なジオメトリ(チューブの長さや角度の数値)を持っているので、だったらデローザの中ではこれじゃないかと思えたのが『SK Pininfarina』でした。決まってから、パワーメーターがつくかどうかの検証が必要でしたが、それも無事クリア。西さんにお渡しすることができました」
西さんにとってエアロフレームの自転車は初。実走した感想は「風を切っている!!」だったといいます。
「エアロフレームというからには空力抵抗が減るんだろうなとは思っていたんですが、乗ってみて風を切っているということが体感できたことには本当に驚きました」
DE ROSA『SK Pininfarina』
もうひとつの驚きは、周囲の反応が大きいこと。
「毎年冬から春にかけては沖縄でトレーニングをするんです。沖縄にもデローザのファンは多くて、あ、西さんデローザに変えたんだね、と声をかけられることがよくありました」
実はこれまでもフレームは幾度となく変えてきた西さん。だけど今回のように周囲の人に気付かれることはほとんどなかったそうです。
「これだけでもデローザというメーカーが他と違うんだなとわかりました。私自身も乗っているうちにそういう印象が強くなってきました。道具というよりは作品。大事に使いたいなという点で、これまでフレームに抱いてきた気持ちとは違う思いで接していますね」
西さんがお持ちのものが『スカンジウム』のフレーム
西さんのリクエストにデローザの職人魂が炸裂!?
通常、プロ選手はレースに臨むにあたり2台の自転車を用意するのが常識です。当然、今回のサポートでも同じモデルを2台は供給してほしいところ。
ところが、デローザジャパンが西さんに言ってきたのは「もう一台は金属フレームに乗ってください」という予想外の依頼でした。
「デローザは金属フレームにも自信をもつメーカーですから、現代のレースでもそれで戦えるということを証明したかったんです。となると西さんには金属フレームに乗ってほしい。『スカンジウム』というアルミ製のフレームなら重量はカーボンと比べて遜色がないし、ぜひ、ということになったんです」
普通なら断られておかしくない前代未聞のリクエスト。しかし、西さんを「うん」と言わせたのは「フルオーダーで作ります」という一言だったといいます。
「え、フルオーダーで作ってくれるの?一晩考えてみたら、だったらそっちの方がいいじゃん、と答えが出ました。フルオーダーということは世界でただ一台、自分のためのものを作ってもらえるということですから」
フルオーダーとはいっても、デローザジャパン側が当初考えていたのは「『SK Pininfarina』を気に入ってもらえたんだから、それと同じでいいだろう」といった程度。が、いざ設計してみるとカーボンと金属の違いからか微妙な差が生じてしまい……
「西さんはそれではOKを出してくれないんですね。ポジションよりもスケルトン(骨格)です、というのが西さんの考え方。何度も駄目を出すのに恐縮しながらも、そこだけは妥協することなくリクエストされてきました」
イタリアのデローザ本社とキャッチボールをしながらのフレーム作り。実作業では現地の職人も西さんの意気に応えるように細かいリクエストを反映させていってくれたそうです。
「私のように背の低い選手は乗ることができるフレームが限られてくるんですね。だから自分に最適な数値は知っておいた方がいい。私は幸いなことに長くやってきている間にフルオーダーの機会が何度かあって、頭に自分の数値が刻み込まれているから、今回はそれをお伝えするだけで済みました(西さん)」
こうしたフルオーダーに応えることができたのもデローザならでは。
「今回、西さんとしてきたような細かいやりとりはウーゴさんが昔からやってきたこと。デローザは選手とのこうしたやりとりのなかでその技術を培ってきたメーカーなんです(水口さん)」
取材時点でイタリア本国で出荷待ちという西さんの金属フレームが日本に届くのは間近。早ければ6月のレースでお披露目となりそうだとのことです。
まずはカタログで感じたい「イタリアの風」
西さんへのフレーム供給と合わせて、デローザジャパンが今年になって始めたのが『デローザオフィシャルオーナーズクラブ“Gruppo Sportivo DE ROSA GIAPPONE”』です。
「これはデローザの正規輸入品を手にしたお客さまを対象としたクラブです。会員限定のグッズ販売やホームページでのコラム連載、イベントの開催などを通じてユーザー同士の交流やサポート、自転車乗りとしての意識の向上などに努めていきたいと考えています」
日夜、デローザのイメージ普及に尽力している水口さん。そのなかでも大きな仕事は毎年夏に行なうカタログ撮影だといいます。
「デローザはイタリアのメーカーですので、カタログからもイタリアの空気感や風を感じてもらいたい。そういった意味から毎年イタリア各地で撮影を行なっています」
写真 / 熱田護 Mamoru Atsuta
「イタリアで撮影」というと人には「楽しそう」とか「美味しいものが食べられていいな」と言われがち。しかし「実際の現場は想像以上に過酷です」と水口さん。
「撮影に適した光は朝と夕方。イタリアの夏は陽が長いから明け方前の夜中に起きてホテルを出発。撮影を終えるのは日が沈む午後8時か9時。夕食はそのあとですからファーストフードやピザ屋さんで食べるのがいいところ。昼も移動中にパニーニなんかをかじって、しのいでいます。暑いけど、日本と違って自販機なんかないから冷たいものも飲めない。ホテルに泊まるときは、車に自転車を乗せたままだと盗難される危険性が高いので何台かある自転車を全部部屋に運んだり。少人数での撮影ですからそのぶん苦労も多いです」
ハードな撮影行のなかで、救いがあるとすれば細かいことを気にしないイタリア人気質。
「日本だったら確実に撮影許可が要りそうな場所でも、彼らは、写真を撮るだけでしょ、いいよ、と気さくに対応してくれます。これはイタリアのいいところですね」
- マドンナ デル ギザッロ教会
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写真 /熱田護 Mamoru Atsuta自転車の守護聖人を祀った教会で、サイクリストの聖地とも言われる。
ミラノの北方約50kmに位置する峠の頂上にあり、休日には多くのサイクリストが訪れる。
何よりも素晴らしいのはイタリアの風土と、迎えてくれるデローザの人々です。
「ウーゴさんはじめデローザの人たちは日本のマーケットを大事に思ってくださっている。接しているとそれが伝わってきます」
西さんも「いつかイタリアのデローザを訪ねてみたい」といいます。
「私は気に入ったモノや料理があると、それを作った人に会いたくなるんです。だから今回供給していただくフレームも作った職人さんの顔が見たい。直接お会いしてお話してみたいですね」
デローザに乗った西さんの活躍にご期待ください!
Information 1
Information 2
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