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2013 Jun.23
お気に入りの1冊 —My Favorite Book— Vol.2

ディジュリドゥ奏者になるきっかけを与えてくれた1冊
『アボリジニの教え 大地と宇宙をつなぐ精霊の知恵』海未央著

読書は人生の糧であり、本はときに「夢」へと進む自分を導いてくれる「師」となってくれます。このシリーズは各方面で活躍されているみなさんにそうした自分にとって唯一無二の本、「お気に入りの1冊」をご紹介いただくコーナーです。第2回目は「地球最古の楽器」といわれるオーストラリア先住民アボリジニの民族楽器ディジュリドゥの奏者であるKNOB(ノブ)氏。「ディジュリドゥ奏者として活動を始めるきっかけを与えてくれた」という1冊についてお話をうかがいました。

語り手
KNOB(ディジュリドゥ・石笛奏者)
聞き手
鈴木大介(スルガ銀行d-laboスタッフ)
ディジュリドゥ奏者になるきっかけを与えてくれた1冊 『アボリジニの教え 大地と宇宙をつなぐ精霊の知恵』海未央著

5万年間変わらないアボリジニの自然観が詰まった1冊

KNOBさんインタビューの様子

鈴木今日持って来てくださったのは『アボリジニの教え 大地と宇宙をつなぐ精霊の知恵』。タイトルからして読者をどこか深遠な場所へと連れて行ってくれそうな本ですね。中身はどんな本なのでしょうか?

KNOBいちおう紀行のような体裁をとっていますがただの旅行記ではなく、著者の海未央さんがオーストラリアのブッシュに入って行き、そこでアボリジニの人びとと一緒に生活していく中で、彼らの持つさまざまな叡智を教えてもらっていくという内容になっています。もちろん、ディジュリドゥについて触れた部分もあります。アボリジニは約5万年前からオーストラリア大陸に住んでいる先住民で、日本で言うなら『古事記』にあたるような「ドリームタイム」という創世記を代々伝承してきた人びとです。5万年間変わらないアボリジニの自然観。この本にはそうしたものがたくさん詰まっています。

鈴木奥付を見ると1998年の出版ですね。この本とはいつどこで出会われたんですか。

KNOB出会ったのは29歳。今はもうなくなってしまったのですが、その頃三田のオーストラリア大使館に図書館があったんです。確かそこで見つけて、その後自分でも買ったと記憶しています。僕にディジュリドゥ奏者として生きていく道筋をつけてくれた、そういう1冊です。ディジュリドゥ自体は本を読む4年前、25歳のときに撮影の仕事でオーストラリアに行った際に手に入れていたのです。そのときの撮影では内陸部にあるアボリジニの聖地を訪ねてまわりました。内心その世界観にすごく惹かれていたんですが、当時はまだ芸能界で普通に歌や踊りの仕事をしていたし、プロ奏者になるまでのところにはいかなかった。それがこの本を読んであらためてアボリジニの自然観や精神世界に触れたことで踏ん切りがついたのです。

鈴木まさに人生を変えた1冊ですね。運命的なものを感じます。

KNOB本を読んだ直後、夢を見たんです。暗闇の中に光が差し込んできて、その光の中から2人のアボリジニが現われた。1人はディジュリドゥを持っていて、もう1人は対となる拍子木を打ちながら歌をうたっている。彼らがどんどん僕に近付いてきて、ディジュリドゥの木の先っぽが僕に当たるかと思った瞬間、それが彼らごとすっと自分の中に入った。まるですべての細胞がスピーカーになったみたいに身体中にディジュリドゥの響きと歌が流れて、しばらくすると今度は胸からディジュリドゥがニョキニョキとのびてきて、それをポーッと吹いたところで目が覚めた。そのときに思ったのは「生まれる前、もしかしたら自分はアボリジニだったことがあったのかも」ということでした。それでなくても、実はアボリジニの自然観というのは日本人の自然観とすごく似ているところがあるんです。彼らのアミニズムやシャーマニズムは古代神道と共通している。ディジュリドゥを吹くことは日本人として生きることにもつながるなと感じました。周囲には「食べていけないよ」と反対されたのですが、ディジュリドゥ奏者として生きていくことに決めたのです。

KNOBさんインタビューの様子

ディジュリドゥと出会うことによってはじめて日本人になれた

KNOBさんインタビューの様子

鈴木奏者としてのKNOBさんは神社やお寺で演奏されることがすごく多いですよね。先月も遷宮したばかりの出雲大社の御本殿で奉納演奏をされたとか。書やお茶や能なども嗜んでいらっしゃるというし、最近は田圃で稲を栽培されてもいるそうですね。外国の楽器であるディジュリドゥがどんどんKNOBさんご自身を日本的なところへと導いているようにも思えます。

KNOB僕はディジュリドゥと出会うことによってはじめて日本人になれた感じがするんです。若い頃はマイケル・ジャクソンが大好きで、洋楽にどっぷりとはまっていて日本なんかださいし古くさいと思っていた。それがアボリジニの世界に出会うことによって日本人としての心が開いていった。そんな気がします。

鈴木本の中の写真を見ると、アボリジニの人びとの暮らす土地というのは一面の赤い砂漠ですね。著者はこういうところでアボリジニの生きる知恵に触れたわけですね。本文中、心に残っている印象的な場面や描写があったら教えてください。

「その後、いつもの小屋の中で白いカンバスにアボリジニ・アートのペインティングをしている女性が、私の手を引いて、地面に小さく咲いている紫色の花の絨毯まで連れていった。彼女は英語を話さないので、ワイナとレジーの通訳付きだった。『この花を口に含んでごらん。水分がたっぷりとあるだろう。喉が乾いたら、この花で潤すんだよ。わかったかい?』親指の爪ほどの小さなその花を、いわれた通り口に含んでみた。だが、私にはほとんど水分は感じられない。『あんたたちの口はどうかしてしまったんだよ。これで喉が潤うようになったら、あんたは私と同じ、自然の子だよ』笑い1つ見せず、眉間に縦じわを寄せて彼女はいった。」

「ディジュリドゥだけではなく、ブーメランも彼らにとっては武器というより楽器として使われていた。そしてこの2つには、重大なかけはしとしての意味合いがあった。
天と地、宇宙と地球、ドリームタイムと儀式、歌と踊り、過去と現在、男と女、すべての対照的な物事をつなげるのである。」

(『アボリジニの教え 大地と宇宙をつなぐ精霊の知恵』より抜粋)

KNOB2箇所ほど抜粋しましたが、本当はどのページを読んでも素晴らしい本です。いつか機会があったら著者にお会いしてみたいですね。

KNOBさんインタビューの様子

<今回紹介した本>

『アボリジニの教え 大地と宇宙をつなぐ精霊の知恵』(海 未央著/KKベストセラーズ)

Information 1

ディジュリドゥ・石笛奏者 KNOB(のぶ)氏

1970年東京都生まれ。13歳からダンスを始め、芸能界へ。25歳のときにオーストラリアで先住民アボリジニの人々の楽器ディジュリドゥに出会い、帰国後に独自にトレーニングを重ねる。同時期に日本古来の石笛の存在を知る。一方幼少のころから書に触れ、文人小野田雪堂に師事し、2002年に師範に。2007年公開のドキュメンタリー映画『地球交響曲第六番虚空の音の章』に出演。茶の湯の文化、精神性にも強く惹かれ、2008年から毎年「雪堂茶会」を行なう。現在は北鎌倉にある『雪堂美術館』を拠点に日本全国で演奏活動をする傍ら、国外での奉納演奏も行っている。

公式サイト
http://www.knob-knob.com/

Information2

d-laboコミュニケーションスペース

今回KNOBさんのインタビューに使用したのはd-laboコミュニケーションスペース。平日、土日を問わずどなたでもご利用いただけるフリースペースです。「夢・お金・環境」をテーマにしたLIBRARYの蔵書は1,500冊。GALLERYには書評サイト「HONZ」で紹介されたおすすめ本約650冊を所蔵。本好きにはたまらない空間です。文化、芸術、スポーツ、最新トレンド等のセミナーやイベントも頻繁に開催。
場所は東京ミッドタウン/ミッドタウンタワー7F。

夢研究所「d-labo コミュニケーションスペース」

詳しくはこちらから
https://www.surugabank.co.jp/d-bank/space/

文 中野渡淳一