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あこがれの環境でやりがいのある毎日

ayanas店内

 専門学校に入学すると、学校のほかにイベントやスタジオなどでPAエンジニア(電気音響設備を用いて公衆伝達<PA:Public Address>を行なう技術者)のアルバイトもスタート。

「PAエンジニアとしてイベントなどで音響機器のセッティング、音響の操作を担当しました。時には1人で仕事をすることもあり、責任や緊張感もありましたが、とても良い経験をすることができました」

 その後、知人のつながりもあって宝塚歌劇団で仕事をすることに。宝塚歌劇団では公演の音響やシステムの構築、SE(Sound Effect:効果音)などを約3年間担当しました。

 音響に関わる様々な仕事を経験された松下さんですが、ついに「いつかジャズを録音したい」という想いに近づく出会いが待っていました。

「“音”に関するさまざまなプロフェッショナルと出会いましたが、そのなかに東京・池袋でSTUDIO Dedeのオーナーで元ドラマーの吉川昭仁さんがいて『うちでやらないか?』と声をかけていただきました。良い環境でジャズを録音することが夢だったので、すぐに上京し勤務することになりました」

 STUDIO Dedeではミュージシャンのレコーディングのほか楽器類や機材のメンテナンスも仕事の一部となり、忙しくもやりがいのある毎日に。

「重視していることは、サウンドを録音した後に調整するのではなく、録音をしている時点でどれだけ作り込めるかということ。そのためにレコーディングの瞬間だけでなく、常に録音が良い状態でできるように楽器や機材をはじめ、空間全体を最良に保っておくことが不可欠なんです」

良い音だけではなく良い音楽を作る

インタビューに答える境野さん

 海外の大きなスタジオでは、レコーディング、マスタリング、テクニカル…とエンジニアもさまざまで分業も進んでいますが、一人でその役割を担う松下さん。その仕事のやりがいを訊いてみました。

「レコーディングでは、ミュージシャンの音出しを聴きながらまずは自分のイメージを提示し、そこからもっとこんな音にしようといった詳細をディスカッションして調整します。音と演奏がリンクする瞬間が最高です。CDに自分の名前が記載されることもそうですが、みんなで一つになって音楽を作っていく喜びが一番ですね」

 STUDIO Dedeには世界中から集めたビンテージの機材なども多いそう。

「古いけれど、良い音を録音するのにとても優れた機材ばかり。とても古いものなので、部品が手に入りにくいだけでなく専門的な知識を持っている人も少ないので、メンテナンスはなかなか人に頼めません。探し求めた少ない情報をつなぎ合わせて、悪戦苦闘しながら生かすことができるよう常に調整しています」

 そんな松下さんが尊敬するレコーディング・エンジニアが、ジャズの名門レーベル「ブルー・ノート」などで数々の名盤を残すルディ・ヴァン・ゲルダーだといいます。

「やたらとひずんだ音だったり、普通ならあり得ないバランスにしている音でも、音楽として不思議とまとまっているんです。技術的というよりも、音楽を作っているという面でヴァン・ゲルダーはスゴイと思います。自分も良い音を追求するだけでなく、良い音楽を作れるエンジニアになりたいですね。STUDIO Dedeではいま、彼が5〜60年前に使っていたのと同じアナログレコードのカッティング機械を導入してさらに良いアウトプットを目指しています。スキルと環境を向上させて、よい音楽を生み出しつづけたいです」

 これからも松下さんは知識と経験を増やしながら、私たちに素敵な音楽を届けてくれるのでしょう。

STUDIO Dede

www.studiodede.com

Mini column

多種多様な仕事が支える音楽の現場!

コンサートやCDなどの音楽に関する作品は、音を奏でるミュージシャンの存在だけで成立しているように見えますが、実はたくさんの人たちが音楽の現場を支えています。

たとえば、CDを制作する一連の流れを見てみましょう。アルバム制作を企画するレコード会社のスタッフがいて、実際の録音になると松下さんのようなレコーディング・エンジニアや録音機材を操作する技術者、また楽器類の調音師などがいます。録音後にはミキシングやマスタリングを専門のエンジニアが行ない、CD・レコードのプレス加工をする技術者もいます。完成後も雑誌やWEBなどでの広告活動や販売店での販促活動などプロモーションを手がける広告代理店などがいます。

また、コンサートの場合には、イベントを企画するプロモーター、チケット販売担当、ステージづくりを直接的に担う舞台監督や音響・照明のエンジニアのほか、ステージの模様を伝える媒体の記者なども活躍。

ミュージシャンはほぼすべてに関わっていますが、それぞれの過程でそれぞれのプロフェッショナル達が、音楽を支えているのです。

近年では音楽のネット配信のニーズも高まり、音楽の現場を支えている業種もITプログラマーなど多種多様に変わりつつあります。音楽好きのあなた、自分に合った“音楽を応援できる仕事”を探してみては?