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究極のコーヒーとは飲む人に喜びを提供するもの

仕事中の向山さん

「バリスタの世界チャンピオンと一緒に働いて、コーヒーをいろんな風に捉えて楽しく触れているのが印象的でした。ビジネスでもアートでもプライベートの場でも、コーヒーはすべてに馴染みます。集中力を高めてくれたりクリエイティブな環境をつくってくれたり、コミュニケーションを豊かにしてくれたり。バリスタとしておいしさだけでなく、そんなコーヒーを中心にした二次的な価値を提供したいと考えました」

 味が濃かったり薄めだったり、酸味が強かったり弱めだったり、コーヒーをおいしく感じる基準は人それぞれ。そのなかで、コーヒーを中心に空間、サービス、インテリア、カップ・・・など、すべてのバランスを整えて「おいしい!」と感じてもらう瞬間を提供することにこだわっているといいます。

「コーヒーの98%は水で、濃いものでもコーヒーの成分は2%以下程度です。技術的なところだけでなく、水をどこまでリスペクトできるかからはじまり、お客さまにどう楽しんでいただくかを考えることが、バリスタとして重要なことだと思っています」

 最近では商業施設やセレクトショップ、ファッションショーやフェスといったイベントなどでコーヒーを販売する機会も多いそうですが、どんなシチュエーションでも共通するのは、楽しむ人のことを考えることと向山さんは話します。

「究極のコーヒーとは何でしょうか。それはおいしくつくることだけではなく、時間や空間も含めて、飲んだ人に喜びを感じてもらうことだと思っているんです」

一杯のコーヒーから無限の出逢いを広げる

インタビューに答える向山さん

 バリスタとして活躍するだけでなく、コーヒーを中心に活躍のフィールドを広げている向山さん。“珈琲創造企画”を手がけるpeaks&spaceを立ち上げ、自身のブランド『みほし焙煎珈琲製造所』をオープン。さらにコーヒーショップのプロデュースやコンサルティング業、バリスタの教育、スイーツや製品開発などにも力をいれています。そんなコーヒーを中心とした仕事を通じて、さまざまな出逢いが広がっているそう。

「豆の生産、焙煎といったコーヒーに直接的に関わる方だけでなく、プロダクト、グラフィック、インテリアなどのデザイナーやモノづくりの職人さんなど、本当にさまざまな職種の方との出逢いが広がっています」

 コーヒーで場をつくり、そこから広がってゆく出逢い。それはお客さまにも、自分自身にも当てはまるといいます。これからコーヒーを通じて、いろんな出逢いや可能性をつくっていきたいと向山さんは抱負を語ります。

「日々大量に出るコーヒーの粕を再利用して新たな製品につなげるプロジェクトをはじめ、いろんなアイデアがあります。亡くなった父が『いつかコーヒーショップを開きたいと話していた』と先日母親から聞いたのですが、自分は現時点ではショップを開きたいというわけではありません。ただ今は、一杯のコーヒーから無限に広がる可能性を、純粋にこれからも楽しんでいきたいと思っているところなんです」

 バリスタとしての誇りを胸に抱きつつ、コーヒーを中心とした向山さんの活動は、これからさらに芳醇な香りと味わいを世の中に放ってゆくのでしょう。

みほし焙煎珈琲製造所

https://www.instagram.com/mihoshi.coffee.roaster/

Mini column

日本のコーヒー消費量と、ショップ数が上昇中!

「欧米はコーヒーバーの文化がありそこで一日に何杯も飲みますが、日本では一杯のコーヒーで長時間滞在する」と欧米と日本のコーヒーショップの違いについて分析する向山さん。単価が比較的低いコーヒー一杯で長時間店内に滞在するといった傾向が高いことから、日本でのコーヒーショップの経営はいまだ難しさがあるものの、コーヒーへの親しみ、消費量、そして店舗数は着実に増加しているようです。

全日本コーヒー協会の統計によると、コーヒーの国内消費量が1996年には約35万トンだったのに対し、2006年には約43万トン、そして2016年には約47万トンと、20年で10万トン以上もの消費が増えています。

また総務省統計局「事業所統計調査報告書」の『喫茶店の事業所数及び従業員数』によると、今からおよそ半世紀前の1966年には27,026か所139,821名だったのに対し、2014年には69,983か所339,004名にまで増加しています。

コーヒーの人気はどんどん広がっているようですね。あなたもバリスタとしてコーヒーをサーブするチャンスかも!?