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2014 Mar.20
DREAM MAKER
あの人に訊く、この話 Vol.3

建築に光で付加価値をつける 照明デザイナーの仕事術

『DREAM MAKER』は、「change」「think」「play」それぞれのテーマのもとに、今もっとも気になる人にインタビュー。仕事で、プライベートで、その人が創り出してきたものや、出来上がるまでのストーリー、そしてちょっとディープな話題にも触れていきます。

「think」をテーマにお話しいただいたのは、照明デザイナーの岩井達弥さんです。黒川紀章氏のデザインで知られる国立新美術館(六本木)をはじめ、複合施設WATERRAS(神田淡路町)、2013年10月に開館した美術館アーツ前橋(前橋市)など、これまでに数々の公共施設や都市空間、商業施設などの照明デザインを手がけてこられた岩井さん。また、現在では日本大学、女子美術大学、武蔵野美術大学で教鞭をとられてもいます。
ところで、照明デザイナーとは、そもそもどんな仕事をする職業なのでしょうか。今回は照明デザイナーはどんな仕事?照明デザイナーになったきっかけは?どのようにプレゼンテーションするの?など、照明デザイナーの仕事について教えていただきました。

建築に光で付加価値をつける 照明デザイナーの仕事術

照明デザイナーの仕事が知りたい!

みなさんは照明デザイナーという職業について、明確に答えられますか?照明をデザインする人だろうということは誰にでもわかりますが、実際に何をする職業なのかをか理解している人は案外少ないのではないでしょうか。

「照明デザイナーの仕事は大きく3つに分かれます。1つは舞台照明。これは歴史が古く、舞台だけでなくテレビ局やスタジオの照明も同じジャンルです。2つめはプロダクトデザイナー。照明器具をデザインする人たちです。そして、我々が言う照明デザイナーは、基本的には都市空間や建築空間の照明をデザインします」

岩井さん達が手がける建築照明デザインは、照明デザインの世界でも一番若いジャンル。日本でも職業として成り立つようになったのは、ちょうど岩井さんの世代が社会に出た1980年代だそうです。当時は建築照明についてはアメリカ、都市照明はヨーロッパが先端といわれていたとか。

「以前は建築照明というと、電気設備を設置することでした。『照明器具を何台取り付けて、何ルクスの明るさになればいい』というような感じで、照明による壁や建物の見え方といった、デザイン的な部分はあまり考えていなかったように思います。我々、照明デザイナーの仕事は、これまで考えてこなかった建物や壁などを含めた空間全体を光の効果でをデザインすることなんです。」

照明デザインの仕事で社会的に広く知られているのは、最近ではスカイツリーや六本木ヒルズなどのライトアップやイルミネーションでしょうか。光で空間を演出することが、照明デザイナーの仕事というわけです。

さて、建築の世界では新しいジャンルの仕事といえる照明デザイン。岩井さんはなぜ、照明デザイナーという仕事を選んだのでしょうか。

岩井さんインタビューの様子

偶然か必然か、照明デザイナーの道へ

岩井さんの父親も実は建築家。つねに身の回りには建築雑誌があり、幼いときから製図道具で遊んでいたということです。

「小学校3年生のときに東京オリンピックがありました。その当時、東京は建築ラッシュでしたね。夏休みには、丹下さんがデザインした代々木競技場の模型を作りました。その頃から建築に興味があったのかもしれませんね」

丹下さんとは世界的に有名な建築家の丹下健三氏のこと。東京オリンピックでは、国立屋内総合競技場(国立代々木競技場)とプールを設計。現在でも日本の代表的な建造物のひとつである競技場を小学生が工作のテーマにしたとは驚きです。

その後、岩井さんは日本大学理工学部建築学科へ進みました。やはり、父親の影響が大きかったようです。ではなぜ、照明デザインの道へ?

「実は学生のときは光にはあまり興味がありませんでした。高校のときに吹奏楽をやっていたので音響設計に興味を持った時期もありましたが、就職先としては狭き門でしたからね。ホールや劇場はそれほど数があるわけでもなくニッチな世界でしたから」

大学卒業の年、照明器具の企画、開発、販売などを手掛ける株式会社YAMAGIWAが建築照明デザインの会社、株式会社TLヤマギワ研究所を立ち上げるために建築専攻の学生を募集していたことから、入社することに。そのときから、岩井さんの照明デザイナーへの道が始まりました。同社で、世界的に著名な照明デザイナーから直接教えを受け、建築照明デザインの大きな可能性を感じたそうです。

「当時、日本では建築照明デザインをやっている人はほとんどいませんでしたが、欧米では建築照明デザイナーが注目され始めていた時期だったんです。日本でも数年後には間違いなく注目されていくだろうと思いました」

そこからは、ひたすら勉強。大学にいた時よりも、社会に出てからの方が勉強したという岩井さん。これから照明デザイナーをめざす人には、照明よりも建築から勉強した方がいいとアドバイスするそうです。

「僕は学生に照明をやれとは言いません。建築のひとつのファクターとして光があるわけですから、まずは建築を勉強したほうがいい。建築の基礎をしっかり固めてから、周辺を学んでいけば、照明以外のことが面白くなるかもしれません。それでも照明デザインをやりたければ、その時に照明の世界に進めばいいし。最初から決め込まない方がいいと思いますよ」

岩井さんインタビューの様子

光のデザインを伝えるプレゼンテーション

目には見えるけれど、言葉や形で表現することが難しい「光」。照明デザイナーの方々は、どのような方法でプレゼンテーションを行うのか、大変興味があります。どうやら、いろいろな手法があるようです。

「最近では、一番多いのはやはりCGです。以前に比べて簡単に表現できるようになりましたから。うちの事務所では模型もよく使います。あとは手書きや、レタッチソフトを使ったスケッチですね。それらを補強するために照度計算や輝度計算といった技術的な手法をプラスして、プレゼンテーションを行います」

照明デザインは建築学のようにまだ体系化されていないため、それぞれのデザイナーが手探りで進めているのが現状だそうです。ここでいくつか、過去の事例を画像で見せていただきました。

国立新美術館の特徴のひとつである三層の廊下は、天井までの高さがある木製の桟と光る壁が特徴です。建築当時(2002〜2006年)はまだLEDが高価で、しかもパワー不足だったので、蛍光灯が使われています。

この廊下の特徴のひとつは、ダウンライトが1個もないこと。エスカレーター以外の場所にはダウンライトをつけないことで、どことなく幽玄な空間が保たれています。一方で、日中は前面から外光が差し込むため、壁面が光ることで明るさのバランスがとれているそうです。

国立新美術館・三層の廊下
国立新美術館・三層の廊下

さらに再春館製薬所の事例についての画像を見せていただきました。

「百聞は一見に如かずで、相手が施主さまの場合は、やはり模型が一番早く伝わりますね。一目見て判断できるので。たとえばこちらは再春館製薬所のカフェ。ただの円形を真ん中で光らせると輪の全体が光ってしまう。そうではなく中心をずらすことで光にグラデーションがつきます。それをランダムに配置して、雲のイメージを表現しています」

と、言葉で説明されても具体的に想像することは難しい。そこで、縮小サイズの模型の登場です。建築と照明デザインを忠実に再現した模型を見れば、専門家でなくても即座に理解することができます。

再春館製薬所の事例:模型写真
模型の写真
再春館製薬所の事例:現場写真
現場の写真

事務所のスタッフの方が作ったという模型は、写真だけではどちらが現場か、すぐには判断できないほど精巧にできています。模型を作る技術もプレゼンテーションに欠かせないテクニックのひとつというわけです。

岩井さんインタビューの様子

LEDが変える照明デザインの未来

毎年、各地にさまざまな新しい建造物が出来上り、話題になります。建築デザインにはさまざまなトレンドがありますが、建築照明にもトレンドはあるのでしょうか?

「あります。ご存知のように現在は照明といえばイコールLEDです。LEDができたことで、光と色が多用されるようになってきました。なぜかというと、LEDは色を変えたり、色をつけたりすることが容易だからです。ですから、色を使う照明がトレンドになってきています」

LED以前は、照明に色をつける場合にはフィルターが必要でした。しかしLEDなら、家庭用のスタンドやシーリングライトなどにも色を入れることが可能になります。LEDの普及はハードに限らず、デザイン面にも大きな影響を与えているようです。

さらに今後は、照明と映像の融合が進んでいくのだとか。

「メディアファサードという、建物の外側に映像が出る装置を前面に取り付ける技術が可能になっていますね」

中国の都市ではよく見られるようになっているメディアファサード。建物の外側に粗いドットのLEDが設置されて。いるため、建物全体が光で覆われ、建物自体がひとつの媒体(メディア)になるという新しい技術です。日本でも徐々に増えてきているようです。

ただし、メディアファサードの場合は、装置(ハード)だけでなく、そこに映し出す映像ソフトが必要になります。「今後の照明デザインは、そこに新たな可能性があるのでは」と岩井さん。次に、建築照明より身近な住宅照明について聞いてみました。

「私はいま、日本大学生産工学部建築学科の居住空間デザインというコースを受け持っています。これは建築家の宮脇檀さんが、女性の建築家を育てる場所を作りたいと20年以上前に創設した女性ばかりのコースです。そこで教えていると、照明というのは、住宅が原点だと感じます」

マンションなど、多くの住宅照明は部屋の真ん中にシーリングライトだけ、という家がまだまだ多い現状ですが、岩井さんは学生達にそれを禁じることから始めるそうです。各自が光の好みを体験することで、住宅の照明デザインを変えていくことが重要なのです。

ところで2012年、2013年と「省エネ・照明デザインアワード」を受賞している岩井さんですが、照明における省エネについてはどのようにお考えでしょうか。

「もちろん電力量を削減することは大事ですけれど、質を保っていくこともが必要です。この賞は“省エネ”の後に“照明デザイン”とついているでしょう。単なる省エネではなく、デザインという質的なものを確保している点が重要だと思います」

岩井さんインタビューの様子

照明デザイナーの日常生活

都市で暮らす私たちの周囲には、つねに照明があります。照明デザイナーは、ふだん街を歩いているときに周囲の光が気になるのでしょうか?

「もう、気になってばかりですね!できれば世の中の光を全部変えたいくらい(笑)。電車の中にあんなむき出しの蛍光灯がついていることも許せないし、新幹線の照明が明るすぎることも気になる。だからいつも心の中で怒ってます(笑)。まあ、光に対する感覚は私個人のものですから、折り合いのつくところで、少しずつ変えていきたいですね」

昔に比べればはるかに良くなってきているというものの、すべての照明が気になって仕方がないというのは照明デザイナーという職業柄、仕方がないのかもしれません。

ところで、照明デザイナーの岩井さん、どのようなご趣味をお持ちなのでしょうか。

「20年以上前に、同じプロジェクトを務めたランドスケープデザイナーの人と一緒に能楽を始めました。仕事が忙しくて休むことも多くなりましたが、ここまで続けてきて、日本人としての趣味を持っていてよかったと思うことがあります。能楽は非常に奥が深くて、始めた頃よりも今の方がずっと好きになっています」

そのほかにも、アウトドアが好きで、これまでに日本各地の自然遺産を訪れたそうです。まだ、白神山地には行ったことがないので、ぜひ行きたいとのこと。とはいえ、仕事が忙しい中、趣味の時間を確保することはなかなか難しいようです。

幼い頃から身近だった建築の世界から、時代の要請に応じて新たに建築照明という分野を切り開いていった岩井達弥さん。これからも建築照明の世界は、絶え間なく変化を続けていきそうです。日本の照明デザインの先駆けとしてキャリアを始めた岩井さんがこれからどんな建築照明のスタイルを見せてくださるのか、注目していきたいと思います。

Information

岩井 達弥 氏

1955年東京生まれ。1980年日本大学理工学部建築学科卒業、TLヤマギワ研究所入社。1996年岩井達弥光景デザイン設立。神奈川県立近代美術館葉山、国立新美術館、再春館製薬所つむぎ館、東京スカイツリープロポーザル最終3作、ミクニ丸の内、村山市複合文化施設甑葉プラザ、高史の国文学館(富山)、KITTE(外構、屋上)など数々の公共施設、商業施設等の照明デザインを手がける。2012年一般社団法人照明学会平成24年照明普及賞受賞、省エネ・照明デザインアワード2012 まち、住宅、その他部門グランプリ受賞(押上・業平橋駅周辺地区公共施設)。2013年省エネ・照明デザインアワード2013 公共施設・総合施設部門 優秀事例受賞(アーツ前橋)。

国立新美術館

撮影協力:国立新美術館

東京都港区六本木7-22-2
03-5777-8600(ハローダイヤル)
10:00~18:00 ※会期中の毎週金曜日は20:00まで(入場は閉館の30分前まで)
火曜休館(祝日は開館し翌平日休館)

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光を楽しむ(2014年5月13日開催)
光を楽しむ

日本の照明は「明るいほうがより良い」という風潮が現在も脈々と続いています。でも、明るければ良いというのは、「おなかがいっぱいになるだけの食事」と同じだと思いませんか。最近、話題となっているLEDは「明るくて省エネルギー」などと言われ、「いっぱい食べても太らないダイエット食」のようです。「素材の良さを活かしたおいしいものを楽しみたいと思う気持ちと同じように、光もその場にあった良質の光を楽しんでほしい」と語る照明デザイナーの岩井氏に、現代の光を楽しむ方法をお話しいただきました。

イベントレポート「光を楽しむ