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2014 Jul.3
Be Unique! ~オンリーワンであること~ Vol.7

フラワーアート・ユニット「plantica」
華道家・木村貴史の柔軟性

『Be Unique!』特集では、毎回、「オンリーワン」な人や企業を訪問。その価値と魅力に迫ります。なぜオンリーワンなのか、どうやってオンリーワンな存在になりえたのか…。そこにはきっと、ほかにはない「夢」や「ストーリー」があるはずです。

アート・ファッション・デザインなど、幅広い業界からアツい視線を集めている、フラワーアート・ユニット「plantica」。その中心人物となっているのは、32歳の華道家、木村貴史さんです。“次世代の生け花”を創出する木村さんの、今までの物語と現在の活動を伺いました。記事のなかには、木村さんの作品や手がけるプロダクトも登場。ラストでは、ビギナー向けの生け花の楽しみ方をお伝えします。

フラワーアート・ユニット「plantica」華道家・木村貴史の柔軟性

生け花をはじめたきっかけは、
家族との話題づくり

木村さんインタビューの様子

華道といえば、伝統・格式・礼儀作法…などのワードを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか?

しかし、「plantica」における木村さんの活動は、作品づくりからプロダクトデザインまで多岐に渡り、それぞれの手法も非常にユニーク。今回伺った事務所には、食器からスケートボードに至るまで、「plantica」が手がけた数々のアイテムが飾られていました。また、経済産業省の「クールジャパン」の取り組みにも参加し、国外でもいろいろな活動を行なっているそうです。

独自性溢れる活動の背景にある、経験・理想とは?まずは、花との出会いから教えていただきました。

「もともと母が、趣味で生け花教室に通っていたんです。大学生になってから、土日のいずれかで、母と一緒に通うようになったのが、華道をはじめたきっかけです。入学当初は、友だちと遊ぶのに一生懸命で、家には寝るために帰るような生活をしていたため、家族とのコミュニケーションが減ってしまって。もっと家族との時間を大切にしたい…と考えた結果が、生け花教室だったんです」

当時は、アートや花に興味があったというわけではないという木村さんですが、いざはじめてみると、大きな衝撃を受けたそう。在学中に華道(草月流)の師範の資格まで取得したといいます。

「花でクリエイションするという発想がそれまでなかったので、すごく新鮮でした。卒業まで、生け花教室に通い、生花店でアルバイトもしました。花は年齢・性別問わずに好まれるものだし、さまざまな業界ともつながり得る。『花をトピックスにして、なにかを発信できるんじゃないか?』という予感がしていたんです」

2011年に、ファッションビル「ラフォーレ原宿」のプライベートパーティのために仕上げた装花。
2011年に、ファッションビル「ラフォーレ原宿」のプライベートパーティのために仕上げた装花。
「plantica」はファッション業界からの注目度が高く、男性ファッション誌にも度々取り上げられている。

「plantica」を生み出したのは、
気負いのない柔軟な発想

木村さんインタビューの様子

大学生の時に生け花の可能性を感じた、木村さん。しかし卒業後は、広告業界に就職したそうです。担当したのは、広告制作のプロデュース。多くのクリエイターと交流する機会があったといいます。

「制作会社で3年間働いたのですが、もの作りをしている人たちを見ていて、自分もなにか表現をしたくなったんです。そのときに、そういえば花をやっていたな…と思い出して。まずはサラリーマンと兼業で、花の仕事をはじめました」

商業施設の装花などの仕事をこなすうち、手応えを感じた木村さんは、2006年に20代後半で独立することに。それまでの仕事から離れるのは、さぞ勇気がいったのではないでしょうか?

「もう少し腰を据えて、花の仕事に取り組みたいと考えていました。でも、あまり気負いはなくって。きっとなんとかなるだろうし、やってみてから決めればいいと思って、独立を決めたんです。

その後は、地道に活動してきました。企業に作品の写真を持ち込んで営業したり、ときには海外にも売り込みをしたり。もとからこの業界にいたわけではないので、ほかの華道家やフラワーアーティストがどのような活動をしているかは、あまり意識していません。今でも同業者の知り合いは少ないですが、広告業界にいたときの仕事の仕方や知識が、花の世界でも役立っています」

「plantica」をはじめたのは、独立後しばらくたってからとのことですが、そのときもやはり、柔軟な考えが根底にあったとか。

「『plantica』は、3人でスタートしました。最初にメンバーに加わったのは、幼なじみの2人。ひとりは精密機械の専門家、もうひとりは元サッカー選手。花業界には縁がなかった2人で、誘った理由は、単に声をかけやすかったからなんです。

でも結果として、発想に広がりができましたね。僕は活動のなかで、“生け花をどうブランディングするか”を考えているんです。具体的にいうと、どうしたら古いイメージを払拭できるか、いかに新しいものを生み出すか。そういうアイデアは、ひとりよりチームで考えた方がいい。バックグラウンドが異なるメンバーが集まっているからこそ、幅広いアプローチ方法が生まれてくるのだと感じています」

「plantica」は、“plant=植物”に、王国・領域を意味する“ica”をプラスした造語。
「plantica」は、“plant=植物”に、王国・領域を意味する“ica”をプラスした造語。
生け花をベースにしつつも、植物を用いたさまざまな表現を行なっていきたいというビジョンに基づいた命名だ。

他業界の動きにも目を向ける。
それが、幅広い活動を生み出す秘訣

岡田さんインタビューの様子

3人でスタートした「plantica」は、現在5名。活動はますます広がりを見せているといいます。冒頭で紹介したプロダクトも、そのひとつ。スケートボードやスニーカーなど、およそ花とは結びつかないものまで手がけるのはなぜか?そのヒントはどこからくるのか?木村さんに伺うと…。

「アーティストって、大きくわけると2パターンあると思うんです。自分の感性やインスピレーションを大切にして表現方法を追求するタイプと、アートを広く平たく、生活者が楽しめるものにする方法を追求するタイプ。自分は後者だと思っています。同世代に、どうやったら花を身近に感じてもらえるのかを考えたときに、ストリートカルチャーやファッションなどとの融合というアイデアが生まれたりするんです」

「plantica」メンバーの多様性に加え、視野の広さや、興味あるものを柔軟に取り込む姿勢もまた、ユニークな活動を生み出すために欠かせない要素。木村さんは普段、他分野のアートのみならず、こんな社会の動きにも注目していると教えてくれました。

「今、企業ではイノベーションや新しい価値の創り方が話題になっていますよね。まず、商品を利用するユーザーの状況をリサーチした上で、商品とユーザーの関わり方を考え、プロトタイピング=商品の原型づくりを行う。それをユーザに見せてフィードバックを集め、改良していく…。これを繰り返し行なうデザインアプローチは、アートの世界でも応用できる。見ている人とどうコミュニケーションを図るかという点で、僕たちのフラワーアートの分野においても、役に立ってくるのではないかと思うんです」

 
国内シューズブランド「Terrem」とコラボレーションしたスニーカー国内シューズブランド「Terrem」とコラボレーションしたスニーカー
プロダクトの多くは、「plantica」がプロトタイピングして企業に売り込むことで、生み出されている。
前例のないものづくりができるのは、依頼を待つだけでなく、自ら仕掛けているからこそだ。
国内シューズブランド「Terrem」とコラボレーションしたスニーカー。
アパレルブランド「And A」のウェア
ブランドからのオファーにより生まれるプロダクトも。
アパレルブランド「And A」のウェア。
「VIVIENNE TAM」など、海外ブランドとのコラボレーションも行なっている。
ネイルブランド「VlliVlli」のシール。ネイルブランド「VlliVlli」のシール。
こちらは、ネイルブランド「VlliVlli」のシール。
「伝えたいのは、花の魅力。そのためには、生きた花の作品でも、写真や映像でも、
身近に楽しむファッションアイテムでも、なんでもいいんです。
いろいろな手段を選んで、試してみたい」と木村さん。

進化し続けていきたいから、
哲学やスタイルはいらない

インタビュー中の木村さん

プロダクトづくりにおいては、同世代に花を身近に感じてもらいたいと話してくれた木村さん。作品づくりでは、“自分たち世代の生け花”を発信したいと考えているそうです。

「生け花には600年ほどの歴史があり、表現手法は出尽くした感がある。そのなかで、今までとは違った見え方を探し、飾る場所を屋内から屋外へと移してみたのが、下の作品。手がけてみて、街全体がフラワーベースになり得るという、新たな視点が生まれました」

飾る場所を屋外へと移した作品飾る場所を屋外へと移した作品
これらの作品は、「場所の持つエネルギーからインスピレーションを得て形にしていった」と木村さん。
カメラマン・グラフィックデザイナーらと協業するなかで、新たな創作のヒントを得ることもあるそう。

また、今後はこんな活動も予定しているとか…。

「生け花の面白さを知るためには、実際に体験してもらうのが一番。そのために現在、『IKEBANA KIT』というプロダクトを開発しています。これを使ったオンラインのエデュケーションシステムや、ソーシャルメディアを使ってユーザー同士が交流できるような仕組みもつくりたい。例えば、『#IKEBANA KIT』のハッシュタグで、相互の作品を見られるようにするとか。ほかにもウェアラブルカメラを使って、花を生けている僕の視線を動画にしたりと、多くの試みをしてみたいと考えています」

「IKEBANA KIT」
「IKEBANA KIT」は、花器、3色のアクリル板、花ばさみ、剣山のセット。
花器=透明容器にネオンカラーのアクリル板を入れると、水が色づいて見える仕掛けになっている。
狭い場所でも飾りやすく、最小限の花材で生けることができるよう、花器はコンパクトな設計だ。

「今の時代だからできることを、どんどんやっていきたい」と、語る木村さん。その柔軟性はどこからくるのかを尋ねると、意外にも「あまり、アーティストだという自覚を持っていないんです」と答えてくれました。その理由は凝り固まったスタイルや哲学にとらわれず、常に自由でありたいからだそう。

「カメレオンのように、その時代の空気感、表現する機会・場所に融合していくような、変幻自在の存在でいたいです。これからも、毎年やることを変えていくぐらい、常に変わり続けていきたいと思っています」

〈木村貴史の花の楽しみ方Lecture〉

インタビュー中の木村さん

インタビューを読んで、生け花に興味を持った人も多いのでは?
ここでは、実際に花を生けたり、鑑賞したことのない読者のために、木村さんに生け花の楽しみ方を教えてもらいました。

アートとしての個性は、“不均衡の美”にアリ

アートとしての個性は、“不均衡の美”にアリ

木村さんによれば華道の面白さは、日本独自の美意識が現れている点にあるといいます。

「西洋はシンメトリーなものに美を見出しますが、日本の美は非対称のなかにある。フラワーアレンジメントはプラスしていく作業が多いですが、生け花は最小限の花材で最大限の表現を目指す。同じ花のアートですが、アプローチの方法は正反対。生け花を通して、日本ならではの美意識を知ることができると思います。日本だと、生け花を習っているのは年配の方々が多いのですが、海外では、アートスクールの学生が生け花を学んでいるんですよ」

鑑賞のコツは、組み合わせに注目すること

今回、いくつかの作品を見せてくれた木村さん。鑑賞時に初心者でも作品を楽しめるコツはあるのでしょうか?

「スタイリストはアイテム同士を組み合わせて、ファッションを完成させる。DJは、曲をつなぎ合わせて、新たな世界観を生み出しますよね。数種類の花をつかって生けた作品にも、同じような魅力があるんです。この花とこの花が一緒になっているのは新鮮だなとか、この色とこの色のコントラストがいいなとか、組み合わせに注目してみると、面白いと思いますよ」

注目する点を押さえることで、漠然と全体を見るだけではわからなかった、自分の好みやその理由、作品の個性もわかってくるかもしれません。

鑑賞のコツは、組み合わせに注目すること

Information

木村 貴史 氏

1981年生まれ。華道家。フラワー・アートユニット「plantica」の中心人物として、活躍中。日本が誇る花文化の現在形を世界へ発信するため、パリ、ベルリン、ロンドン、モナコ、サウジアラビア、香港など、国内外問わず精力的に活動している。また、企業のキービジュアル製作や、インスタレーションなども担当。2014年6月には、モナコ公国・カロリーヌ王女主催のフラワーアート・イベント 「Concours International de Bouquets」に出席し、生け花のインスタレーションを行なう予定。

公式サイト
http://plantica.net/

写真 蟹由香