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2014 May.16
DREAM MAKER
あの人に訊く、この話 Vol.4

映画監督が自転車に夢中になった理由は?
田中誠のサイクルライフ

『DREAM MAKER』は、「change」、「think」、「play」それぞれのテーマをもとに、今もっとも気になる人にインタビュー。仕事で、プライベートで、その人が創り出してきたものや、出来上がるまでのストーリー、そしてちょっとディープな話題にも触れていきます。

今回、「play」をテーマにお話を伺ったのは、映画監督の田中誠さん。合唱に燃える女子高生の姿を描いた『うた魂♪』や、ベストセラー小説の映画化『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』などの作品で監督・脚本を手掛け、映画ファンを大いに楽しませています。その田中さんが2年半ほど前から夢中になっているのが自転車です。オフの日には東京の世田谷区にある自宅から、神奈川県の茅ヶ崎、埼玉県の熊谷、千葉県の流山までと、往復100~150km以上の距離を走り抜け、サイクリング・ライフを大いに満喫していらっしゃるとか。
田中さんをそこまで夢中にさせた自転車の魅力とは?そして、自転車が人生に及ぼした影響は?東京・代官山にあるお気に入りの自転車ショップ『F.I.G bike』で待ち合わせして、自転車の魅力をたっぷりと語っていただきました。

映画監督が自転車に夢中になった理由は?田中誠のサイクルライフ

1台の自転車との出会いが人生を変えた

待ち合わせ場所の自転車ショップに、鮮やかなサイクルウェアで現れた田中さん。50代とは思えぬ引き締まった身体で、まさに“サイクリスト”にふさわしい体型です。ですが、ほんの3年前までは体重の増加を嘆き、体力の衰えをひしひしと感じていたとか。実は、映画監督という仕事が、体力の衰えにいっそう拍車をかけていたそうです。

「実は監督の仕事は、座ってばかりなんですよ。企画を立ち上げて脚本を書き、スタートさせるまでに1年以上はザラ。撮影が開始されたら、確かにその期間はコマネズミのように働いて、それこそ徹夜徹夜で一日中現場を走り回って、本当に過酷なのですが、撮影期間はせいぜい1か月。その後は、延々、編集室やダビングルームで座ったまま。唯一、立つ必要があるのは完成披露試写会の舞台挨拶のときくらい(笑)。毎日、満員電車で通勤しているサラリーマンの方と比べたら、意外と運動量は少ないんです」

以前は趣味でスキーやディンギーを楽しんでいたものの、40代で映画監督になって以来、スポーツからはいっさい遠ざかっていた田中さん。そのせいか、50歳になったときにまず感じたのが脚力の低下でした。以前はウォーキングが趣味で20kmくらい平気で歩いていたそうですが、友人と一緒に歩いても、相手からどんどん遅れをとっていく。

「ある日、家の近所を歩いていて、通学途中の女子高生に追い抜かれた時はさすがに愕然としましたね。ああ、こうやって老いは始まっていくのかと」

その当時、田中さんの家にはかつて3万円ほどで購入したクロスバイクがありました。ですが、田中さんの自宅は高台にあり、周辺は坂だらけ。今の自分の体力で、もはや坂を上がるのはムリと、そのクロスバイクを友人の息子さんに譲ることにしました。

「そのときは“もうこれで俺は一生、自転車には乗らないんだ”と落ち込みましたよ(笑)」

ところが、その心境をフェイスブックに綴ったところ、自転車好きの知人から意外なコメントが返ってきたのです。

「40代のテレビの音響効果をやっている方が、“だまされたと思って、ぜひ高い自転車を買ってみてください。値段が高い自転車はその分車体が軽いからまだまだ走れるはずですよ”って言ってくれて。忙しい中、自転車ショップにも付き添ってくれたんです。そこで一念発起してイタリア製の『ミニベロ』を買いました。型落ちでセールだったとは言え、定価15万円のものが11万円。それまで持っていたクロスバイクに比べたらかなりの金額。だけど、これが大正解!ミニベロとは小径車という意味ですが、車体が軽くてタイヤの口径も小さいので、“もう上るのはムリ”と諦めていた近所の坂もラクに上れたんですよ」

自転車の値段はピンキリです。主婦が買い物に使うような“ママチャリ”は1万円前後で買える一方、自転車レースに出るような人たちが乗っているロードバイクは100万円以上のものも珍しくありません。この値段の差は、ほぼ、フレームの材質の差です。素材がスチール、アルミ、カーボンという順に軽くなり、一番軽いカーボン製のフレームのものはかなりの金額になるとか。いわゆる“ママチャリ”は車重が13kgくらいあるのが普通ですが、田中さんが新しく購入したミニベロは9kg弱。“値段が高い自転車”の威力を、田中さんは身体で実感したのです。

「ミニベロのおかげで、自転車に乗るのがどんどん楽しくなりました。毎日のように近所の緑道を1時間ほどかけて往復しているうちにスピードも上がってきたし、疲れなくなりました。半年後には、自宅から30kmある多摩湖まで往復できるようになったんです」

軽快に走れる自転車に出会ったことで、それまで曇りがちだった人生の風景がガラッと変わっていきました。すっかり自転車の虜になった田中さんが、次にとった行動とは?

田中さんインタビューの様子

2年間で5台の自転車を買ったワケ

すっかり自転車の虜になった田中さんは、わずか2年間で5台の自転車を買ったそうです。なぜそんなに次々と、新車を買う必要があったのでしょうか?

「乗れば乗るほど、車体やパーツの差がわかるようになりました。最初に買ったミニベロは近所を走るには快適だけど、距離を延ばして行くには限界がある。そこでタイヤサイズも大きい、カーボン製のロードバイクを購入。やっぱり老舗が安心と思い、イタリアのコルナゴ社製のものを選びました。その後、ミニベロをもっと高性能なものに買い替え、昨年の9月にはロードバイクを、より軽量なスイスのBMC社製のものに替えました」

さらには、イタリアのデローザという自転車メーカーのクロモリ製フレームも購入。クロモリとはクロムモリブデン鋼の略で、昔から自転車のフレームに使われている合金です。田中さんが選んだデローザのクロモリはクラシックな仕上げでかなり高価なもの。まずはフレームだけを買うことにして、追々、気に入ったホイールやサドルを揃えていくことに決めたそう。

「デローザは別格ですけど、ミニベロやロードバイクの値段はそれぞれ30万円くらいです。ただしサドルやホイールを上位ランクのものに買い替えたり、さらにスピードや心拍数、走行ルートなどの記録ができるサイクルコンピュータも揃えると、それだけで10万円くらいはかかるでしょうか」

つまり1台30万円前後の自転車を納得のいくようにカスタマイズしていくと、トータルで40万円以上必要になる計算です。決して安い買い物とは言えませんが、自転車のためにはいくらお金をつぎ込んでも惜しくないと、田中さんは考えているのでしょうか?

「うーん、僕はフリーランスなので、そのときの懐具合にもよります(笑)。会社員の方のように、毎月一定の収入があるわけではないので、明らかに身の丈にあわない買い物はしません。知り合いに、定年退職して趣味で自転車に乗っている方がいるのですが、その方は“年齢からくる衰えを、お金でカバーするんだよ”とおっしゃって、100万円以上もする高性能なロードバイクに乗っています。自転車のおかげだけではないでしょうが、60歳を超えても、佐渡ケ島1周210kmレースにも参加している。私はとてもここまでは出せませんが、金銭的に余裕があるなら、自転車だけに限らず、自分がいいと思ったものにはどんどんお金をつぎ込んでも、人生、悪くないと思います」

自転車本体だけでなく、田中さんはサイクルウェアにもこだわりを持っているそうです。お気に入りはイギリスのサイクリングウェアブランド「Rapha(ラファ)」。半袖のジャージが1枚で約2万円、下着が1枚で6,000~8,000円しますが、すべてメリノウール製なので吸湿・発汗性に優れており、プロのロードレーサーも愛用しているそうです。田中さんは自転車に乗り始めた頃、綿100%のTシャツでサイクリングロードを走ったら、たちまちシャツが汗でびしょ濡れになり、熱中症一歩手前の状態でフラフラになってしまったとか。その点、メリノウール製のウェアなら、走っているうちに汗が乾き、気化熱の作用によって快適な状態を保てるそうです。

「最初はサイクルウェアってピタッとしていて、いかにも自転車乗ってます、という感じで嫌だったのですが、走っているうちに機能的に本当に優れているものだと実感しました。ラファにはシティライディングウェアもあるので、日常含め、着ている服の9割がラファのサイクルウェアです」

いまや、天気のよいオフの日はもっぱらペダルを漕いでいるという田中さん。そんな自転車ライフの一番の魅力は何でしょう?

田中さんインタビューの様子

ペダルを漕ぐと、少年の心が甦る

一昨年は年間約7,000kmも走り、2回もタイヤ交換をしたそうです。1日で往復100km程度なら朝飯前。これまでいちばん遠くまで行ったのは群馬県の利根大堰。往復で170kmもの距離を走り抜けました。田中さんを、これほどまでに熱中させる自転車の魅力とは、いったい何なのでしょう?

「走っていると、気持ちが子どもの頃に戻るんですよ。我が家は祖父の代から浅草の下町にあるのですが、父の仕事の関係で、僕は神奈川県の戸塚で生まれたんです。その頃はまるでアニメの『となりのトトロ』に出てくるような、田んぼと里山に囲まれた場所で、毎日、自然の中を遊び回っていました。自転車で荒川あたりを走っているとその時の気分を味わえる。走行中、バッタが顔にガンガン当たったり、向こうの竹林がフワッと揺れたかと思うと、その数秒後に風が顔に当たるのを感じたり。大人になって、そんな感覚をもう一度体験できるって、たまらないですよ」

自転車ライフを始めて約2年半。生きるエネルギーが再び復活してきたと、田中さんは語ります。

「最近、ラファの懇親会で出会った20代後半のサイクリストと一緒に走りましたけど、レースにも出ている彼には当然、ついていけない。でも、彼は僕に“田中さん、次回も容赦なくいきますよ”と言ってくれるのがうれしい。それって、20代の彼が同じ土俵に僕を乗せてくれているということですからね。その時、撮ったムービーには彼の背中しか写ってなくて、僕はそれを『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』ってタイトルにしました(笑)」

この2年半で体型も激変。自転車を始める前は、身長171㎝で体重は70kg強。田中さん曰く“人生で最悪”の体型でした。それが自転車を始めて一気に体重が7kgも減り、筋肉もついて全身が引き締まり、スリムなウェアが似合うようになりました。

「筋肉って、鍛えれば死ぬまで進化するらしいですね。特に、脚力に関しては、今、自分の人生でMAXって言えるかもしれないです」

以前は階段を上がるだけでハアハアと言っていたのが、昨年からはヒルクライム(山や丘陵の上り坂を自転車で走ること)にも、挑戦するようになりました。そして関東のサイクリストで知らないのはモグリとされる「ヤビツ峠」にも果敢に挑戦。

「フェイスブックに毎日、自転車のことを書いていたら、知り合いのプロデューサーに“田中くんは最近自転車に乗っているようだけれど、ヤビツは登らないの?”って。聞いたらその方は、実家がヤビツ峠の麓で、高校時代はヒルクライマーだったんです。その人を前に、毎日エラそうに自転車のこと書いていたのかと恥ずかしくなり、これはもう登らないわけにいかないなと(笑)」

傾斜度5.9~12%の上り坂が11.8km続く峠を51分かけて上り切ったことをきっかけに、いまやすっかりヒルクライムの虜に。この6月行われる全長24km、標高差1,255mの『Mt.富士ヒルクライム』レースにもエントリー。田中さんのサイクル熱はとどまることを知りません。

「今、乗っているBMCはヒルクライム用に買い直したものです。実は大人気自転車マンガ『弱虫ペダル』の主人公・小野田坂道クンが乗っているのと同じメーカーです。舞台化された『弱虫ペダル』を見て号泣し、“俺も同じ自転車を買う!”と意気込んで。50代の自分が、少年マンガに感化されて同じ自転車を買うのもどうかって思いますけど(笑)」

田中さんにとって、自転車が究極の“遊び”だとしたら、本業の映画監督という仕事はどんな位置づけなのでしょう?

田中さんインタビューの様子

人生にもブレーキをかけずに

「僕にとって、自転車も映画を作ることも究極の“遊び”です。そもそも子どもの頃から、自分が好きなことしかやったことがない。やりたいことだけをやってきたおかげで、現在の僕がある。そういう意味では、映画を作っている時って最高に楽しいんですよ」

運動会の撮影用にとお父様が買った8mmシネカメラを小学生の頃から回して遊び、それが映画監督への憧れにつながった田中さん。ですが、20代、30代の頃はずっとテレビの世界で仕事し、本格的に映画監督を目指した時は、すでに40代にさしかかっていました。

「40歳になって映画監督を目指す。周囲には当然止められました。でも、僕は自分がやりたいと思ったことは何事にもブレーキをかけたくない。自分の欲望には常に忠実でいたいから。それは自転車に関してもそうだし、映画にしても同じこと。モノを作っている人間は、自分の心にブレーキをかけちゃいけないと思うんです」

結果として、43歳で初めて監督を務めた映画『タナカヒロシのすべて』が評価され、『うた魂♪』や『もしドラ』のような全国ロードショー作品の監督に抜擢。『人間動物園』『おじいちゃんは25歳』などのテレビドラマの演出も任されるようになりました。もし、最初の時点で「もう40代だから」とブレーキを踏み、あきらめていたら、今日の田中さんは存在していなかったかもしれません。

「仕事ですから現場が思ったように行かないことはいくらでもある。でもそれは外的要因に限った場合。自分の欲望に自分からブレーキをかけることとは違う。常識に囚われたり、ルーティンにはまって仕事をしてしまったら、面白いものも作れないし、面白い人生も送れないと思います。正直、映画監督だけで食べていくのは難しいけれど、最初から“売れる作品を作ろう”とスケベ心を出したら楽しくないし、仕事としてはそこで終わりです。僕の中には、作品を面白くしたい、面白い人生を過ごしたい、という発想しかないんです」

これまで監督した作品のラインナップから考えて、青春モノや人情モノが得意と思われている田中さん。もし、必要なだけ製作資金を使えて、好きな映画を撮っていいと言われたら、どんな作品を作られるのでしょうか?

「SF映画が好きなんですよ。個人的に観る映画は実はハリウッドのSFがほとんど。SF映画って、やみくもに空想の世界を描いているわけじゃなく、いま現在、社会で起こっている現状を風刺しているものなんです。そのいい例がクリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』。あの作品で監督が描きたかったのは、昔のアメコミにあるような悪を倒すバットマンの姿じゃなくて、貧富の差が激しい現代の欧米社会を彷彿とする『ゴッサムシティ』そのものでしょう。日本もこれからはそうなります。そんな現代社会を映し出すようなSF映画を、ぜひ作ってみたい。僕がもしそれをやったら『人情SF』という新しいジャンルになるでしょうね(笑)。製作費を60億円くらい出してくれたら、すぐに脚本を書きますよ」

「製作費60億円」という言葉が、ごく自然に口からこぼれた田中さん。並々ならぬスケールの壮大な夢――。それだけの夢を現実にする力のある人だけが、大勢のスタッフやキャストを率いてひとつの作品を完成させる映画監督というポジションにつけるのでしょう。これからも私たちに映画を通して大きな夢を次々と見せてくれるに違いないと確信しました。

田中さんインタビューの様子

Information

田中 誠 氏
田中 誠 氏 撮影協力:POTAVEL FIGO! http://figbike.com
撮影協力:POTAVEL FIGO!

1960年、神奈川県横浜市生まれ。成城大学在学中に『すしやのロマノフ』('83年)で、第3回ヤングジャンプ・シネマフェスティバル優勝。卒業後、フリーの映像ディレクターとしてテレビの音楽番組やバラエティ番組の演出をした後、鈴木清順監督作品『ピストルオペラ』('01年)のアシスタント・プロデューサー、紀里谷和明監督作品『CASSHERN』('04年)のアソシエイト・プロデューサーなどを務める。2005年『タナカヒロシのすべて』で脚本・監督デビュー。これまでの主な映画監督作品は、『おばちゃんチップス』('06年)、『うた魂♪』('08年)、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』('11年)。大学や専門学校で教鞭をとり、現在は関東学園大学で映画に関する授業を行っている。

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