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2013 Aug.6
お気に入りの1冊 —My Favorite Book— Vol.4

「大人に読んでほしい」 歴史作家・関裕二がすすめる小説のおもしろさに満ちた1冊 『吾輩は猫である』夏目漱石著

読書は人生の糧であり、本はときに「夢」へと進む自分を導いてくれる「師」となってくれます。本シリーズは各方面で活躍されているみなさんにそうした自分にとって唯一無二の本、「お気に入りの1冊」をご紹介いただくコーナーです。第4回目となる今回のゲストは、古代史を中心に活躍されている歴史作家の関裕二さん。選んでいただいたのは夏目漱石の名作『吾輩は猫である』。「最高におもしろい小説」と評する小説が歴史作家に与えた意外な影響とは?子どもの頃の読書体験や人気作家の仕事の裏側など、盛りだくさんの内容をお届けします!

語り手
関 裕二(歴史作家)
聞き手
鈴木 大介(スルガ銀行d-laboスタッフ)
「大人に読んでほしい」 歴史作家・関裕二がすすめる小説のおもしろさに満ちた1冊 『吾輩は猫である』夏目漱石著

『吾輩は猫である』は東大寺と同じ

関さんインタビューの様子

鈴木歴史作家の関さんですから古代史にまつわる本をお持ちになられるかと思っていたのですが、まさか『吾輩は猫である』とは………。

これは最高の小説ですよ。私は若い頃は小説家志望で、19歳のときに「小説家になる」と家を出たのですが、この小説を読んで小説家になることを諦めたんです。

鈴木いきなりすごい発言が飛び出しましたね。関さんは小説家を志していたのですか。

若い頃って格好つけて純文学を目指したりするじゃないですか。そうした時期にこの小説を読んで、小説とはそういうものじゃないということを教えられた。『吾輩は猫である』はよく知られているように大人のユーモアに溢れている一作です。全編通じてすごくおもしろいんですよ。そして「肩の力を抜け」と言われた気がしました。23歳くらいのときでしたね。当時は調理師としてイタリアンレストランで働きながら、小説家になる夢を捨てきれずにいたのですが、もう小説はいいかと思ったんです。まあ、何年か経って歴史作家として本を書くようにはなるのですが。

鈴木漱石の作品は他にも読まれていたのですか。

読んでいました。実は『吾輩は猫である』も小学4年のときに読んでいたんですよ。その頃じゃわからなかったことが大人になってもう一度読んだらわかったという感じでした。漱石って子どもの読むものってイメージがあるじゃないですか。だけど大人にこそ読んでほしいですね。私は『吾輩は猫である』と東大寺は同じだ、と思っているんですよ。東大寺ってみんな修学旅行では行くけど、大人になると「大仏があるだけ」と見向きもしなくなる。でも、あらためて行ってみると宝の山なんです。そういう意味では宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』なども同様ですね。内容が深いし、泣ける。世界レベルの小説です。

鈴木『吾輩は猫である』の魅力を語るとしたらどこでしょう。

漱石は会話がうまいんです。苦沙弥先生と学校の生徒たちとのやりとりがおもしろいし、最初の「馬鹿野郎」から笑わされる。先生が猫を写生しようとしていて、猫も我慢してそれにつきあっているんだけど、用を足したくなって逃げちゃう場面ですね。実は私も今は小説を書いたりすることがあるんです。書くと、どうしてもどこか似てきちゃいますね。おちゃらけ小説になってしまう(笑)。

<『吾輩は猫である』より抜粋>

さてこうなって見ると、もう大人しくしていても仕方がない。どうせ主人の予定は打ち壊したのだから、序に裏へ行って用を足そうと思ってのそのそ這い出した。すると主人は失望と怒りを掻き交ぜた様な声をして、座敷の中から「この馬鹿野郎」と怒鳴った。この主人は人を罵るときは必ず馬鹿野郎というのが癖である。外に悪口の言い様を知らないのだから仕方がないが、今まで辛棒した人の気も知らないで、無暗に馬鹿野郎呼わりは失敬だと思う。

関さんインタビューの様子

追い詰められてようやく出てくる新説

関さんインタビューの様子

鈴木この本はあらためて見るとけっこうボリュームがありますね。小学4年でこれを読まれたとは驚きです。子どもの頃はやはり本が好きな子どもだったのですか。

好きでしたね。うちはマンガが禁止で、テレビもNHKしか見せてもらえなかったせいもあって、本はすごく読んでいました。小学6年生のときは年に100冊読もうと目標を立てて、本当に100冊を読みました。

鈴木子ども時代からすごい読書家だったのですね。そして今は新刊と文庫を合わせて年間10数冊の本を出されている人気作家。まだ関さんの本を読んでいないという読者の方に、ご自身からお勧めの著作を何冊か挙げてほしいのですが。

入門書としてはPHP文庫から出ている『古代史の秘密を握る人たち』。これで古代史に興味を持たれたら他の本もどうぞ。ある程度知識のある方には新潮文庫に入っている『藤原氏の正体』、『蘇我氏の正体』、『物部氏の正体』の「正体」シリーズがお勧めです。

鈴木関さんの作品の魅力は定説を覆す新説にありますね。「え、実はそうだったの」というような新説はどこから生まれてくるのですか。

まず仮説を立てて閃きがくるのを待つ。もちろん、文献は大量に読みます。ヒントはたくさん転がっているとはいっても、新説はそんなに簡単に出てくるものではない。考え抜いて、追い詰められて、締め切りの何日か前になってようやく出てくる。苦しいけれど、そのぽんと出た瞬間はものすごい快感です。あの閃きが1年に何度かあれば生きていけますね。

鈴木古代史の中でもとくに惹かれる場所、人物、氏族などはありますか。

場所だと法隆寺です。あそこにはよく通ったし、『日本書紀』を読んでいると、ここがポイントだというのがわかるんです。梅原猛さんの『隠された十字架』にある法隆寺は祟りを封じ込めるための寺だという説にも魅力を感じます。人だと蘇我入鹿や物部氏。とくに物部氏は日本が律令制度に移るときに非常に大きな役割を果たしているのに光を浴びていない。彼らを見直すべきだろうと書いたのが今年出した『百済観音と物部氏の秘密』(角川学芸出版)です。

鈴木歴史から学ぶことは大いにありますので、ぜひ読んでみたいですね。本日はありがとうございました。関さんのこれからのご活躍に期待しています!

<今回紹介した本>

『吾輩は猫である』(夏目 漱石著/新潮社)

『古代史の秘密を握る人たち』(関 裕二著/PHP研究所)

『物部氏の正体』(関 裕二著/新潮社)

『蘇我氏の正体』(関 裕二著/新潮社)

『藤原氏の正体』(関 裕二著/新潮社)

『百済観音と物部氏の秘密』(関 裕二著/角川学芸出版)

Information 1

歴史作家 関 裕二(せき ゆうじ)氏

1959年、千葉県生まれ。仏教美術への興味を足がかりに古代史を独学で学ぶ。1991年、『聖徳太子は蘇我入鹿である』(普遊舎)でデビュー。以降、古代史をテーマに著作を次々刊行。『物部氏の正体』『蘇我氏の正体』『藤原氏の正体』(以上、新潮社)、『なぜ古代史は悪党を英雄にすりかえたのか』『逆転の古代史』(以上、廣済堂出版)、『百済観音と物部氏の秘密』(角川学芸出版)、『伊勢神宮の暗号」(講談社)等著書多数。

なぜ古代史は悪党を英雄にすりかえたのか

Information2

d-laboコミュニケーションスペース

インタビューで関さんをお招きしたのはd-laboコミュニケーションスペース。平日、土日を問わずどなたでもご利用いただけるフリースペースです。「夢・お金・環境」をテーマにしたLIBRARYの蔵書は1,500冊。GALLERYには書評サイト「HONZ」で紹介されたおすすめ本約570冊を所蔵。本好きにはたまらない空間です。文化、芸術、スポーツ、最新トレンド等のセミナーやイベントも頻繁に開催。場所は東京ミッドタウン/ミッドタウンタワー7F。

夢研究所「d-labo コミュニケーションスペース」

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文 中野渡淳一